36.
『この戦いを終わらせるから、一時的にフローリアの動きを止めてほしい』男神のその言葉を信じて、女神と対峙する。先程対峙していた時よりも、黒くて嫌な気配が濃くなっている。
男神がクロエの能力に向かってくる攻撃を魔法で打ち消すと同時に、能力を強化してくれることで、魔法で生み出せる武器の数が増え、質も高くなる。
一人で戦っていた時に比べて、断然楽に女神と対峙できていた。
女神がクロエが向かっていくのを阻もうと全方向へ爆発型の炎の魔法を放つが、それは男神によって水の範囲型の魔法で打ち消される。クロエは発生した強力な蒸気を魔力の防御壁によって防げばいいだけだ。
そして徐々に少しずつ、距離を縮めていく。
距離が近づけば近づくほどに、女神は目に見えて焦っていった。
「っお前たち人間なんて、全員滅んでしまえばいいのよ!!」
「その考えは、かつて貴女を傷付けた人間と同じなのを気付いている?」
「うるさい!私は人間とは違う!!」
人間と同じ。その言葉をクロエが投げつけた瞬間、女神は明らかに動揺した。きっと自覚はあるのだろう。しかし認めたくはない。
クロエはあえて『同じ』と称したが、実際はそんなことは思ってはいなかった。けれど女神の神経を少しでもすり減らして油断を誘うために敢えてそう彼女をあらわしたんのだ。
そしてその動揺から生まれた隙を突くことで、女神の背後に回り、彼女に魔力封じを施して後ろから羽交い絞めにした。
「離せ!離せえええぇぇえええぇぇ!!」
「今よ!策があるんでしょう!!」
クロエがそう声をかけると同時に、男神が女神の《《心臓の部分のみ》》を貫く。
殺してしまったのかと驚きに目を見張るクロエだったが、女神が落ち着いたように息を深く吐き出した音を聞いて、そうではないのだと悟る。
羽交い絞めにした女神からはボタボタと黒くてドロドロしたインクのようなモノが滴り落ちていた。クロエの服も同じように黒く染まる。
「『神蝕』だ」
「しん、しょく?」
「長く生きすぎた神には『毒』が溜まっていく。それが本来心優しかったフローリアをおかしくしていた。今回は蝕みすぎていたから、彼女の核ごと貫いた」
「死んでは、いないんですよね?」
「ああ。でもしばらくは目覚めないだろう。迷惑を掛けてしまって、すまなかった」
外側はリオンといえど、神に謝罪されるという貴重な経験をしてしまっただなんて頭の片隅で考えながら、顔をあげさせる。
女神の脅威は消え去り、男神もこちらに敵意はないようだった。だからクロエは武器を収める。
「君を外の世界に返して、この身体も持ち主に返すよ。……フローリアのことは出来れば恨まないでやってほしい。彼女は俺が人間のいない場所へ連れていって、もうこんなことを起こさせないようにするから」
「恨みなんてしませんよ、私も彼女の記憶を見たので。それに私が彼女の立場だったら、同じことをしていたかもしれません。彼女のこと、よろしくお願いします」
そう。クロエも女神の記憶を見たときに、人間に憎しみを抱いたのだ。だから現実では滅茶苦茶な状態にされてしまったが、追いかけて恨みを並べ立ててやろうだなんて気持ちにはならなかった。身体を乗っ取られたことについても許したのだ。
今は今まで苦しんだ分、好きな相手と幸せになってほしいと素直に思うことが出来た。
「……そうか、有難う。そして、さようなら」
クロエと女神フローリアによって作り出された空間が、まるでガラスが割れるように壊れて溶けていく。
そして、次に目が覚めた瞬間には、現実の世界へと戻っていた――。




