34.
変化のせいだろう、張っていた結界が破れる。
それに対していざ追撃をしようとしてきていた女神が見え、クロエは咄嗟にリオンの腕の中で武器を構えるが、女神の攻撃はこちらまで届くことはなかった。
それどころか女神は空中で浮かんだままその動きを止めていた。
「ゼノ、ス……?」
女神の口から溢れた名前。呼びかけられた瞬間、リオンの中で何かが脈打った。内側から侵食されるような感覚、まるで自分の領域が強大ななにかに覆われて表面に出ているモノが自分でなくなるような不思議な感覚だった。
クロエもそれを即座に感じ取ったのだろう、心配そうにリオンを見つめる。
「リオン?」
「っ僕から、離れてください」
一言、苦しそうにリオンはそう言葉を吐いて、抱きしめていたクロエを離して遠ざけた。急な変化にクロエは戸惑うが、頭を抑えて明らかに異常な状態に陥っているリオンを見れば指示に従わざるを得なかった。まださっきの告白に対する返事も出来ていないのに。
「ゼノス!!ゼノスなの!!?」
「っぐ、うぅ」
何が起こっているのかクロエには理解できなかった。
リオンのうなじの辺りまでの漆黒の髪が背中まで急速に伸び、金のメッシュが混じる。まるで分厚い膜に包まれるように容姿が変貌し、別人に成り果てていた。
「フローリア?」
「ゼノス!会いたかった……!!」
「……俺もだ。ずっと君に会いたかった」
「私ね、貴方のために頑張ったのよ、ゼノス。ずっと封印されていたのを徐々に解除していって力を取り戻して、人間達を配下にして。貴方を私から奪った人間はまだ殺せていないけど、この後……そこの人間の身体を私も奪った後にちゃんと始末してくるわ」
ゼノス。そして女神の求めるような親し気な口調。
そこまで見ていてクロエはピンとくる。何故だか今リオンの身体を乗っ取っているモノはこの女神がずっと求めていた、大切にしていた、狂わせていた、失ったはずの片割れ。
考え得る中で一番最悪な事態になったとクロエは考える。女神だけでも厄介だったのに、男神の方まで揃ってしまった。先程まではリオンが女神と互角に戦っていたが、自分一人では神2体なんて相手を出来ない。焦りから背中がビチャビチャになるくらいに冷や汗が噴き出すのをクロエは感じた。
どうやって2柱を倒せばよいのか。それだけを考え、未知数の男神の能力や戦い方を魔力から推測しながら、周囲に大量の武器を生成していく。剣、槍、2丁拳銃、サブマシンガン、身の丈程もある大鎌――。どんな戦い方でも出来るように2柱の興味がこちらを向かない内にせかせかと用意していった。
しかし男神が発した言葉によって、それは全て無駄になる。
「……フローリア。もう人間を殺そうとするのも、依り代にしようとするのもやめてくれ。俺は……確かに君と離れ離れになってしまったのは悲しかったが、人間を恨むという気持ちは持っていない」
女神の先程までの嬉しそうだった笑みが凍り付いた――。




