3-1話 陽は高みと合い見える
「あ~……」
「どうした? 随分と腑抜けているな」
昨日ステラの依頼を受けて、無事達成した俺たちだったが、その日に錬金駆動が完成すると思っていた俺に彼女は、準備もありますし、今日完成はしませんよ。と、告げられた。
その時の俺とアンナの顔はそれはもう残念がっていたらしく、それなら。と、ステラが今日工房に来てくださいと招待してくれた。
作っているところを間近で見せてくれるとのことだった。
そんな事情があり、実は俺のテンションは朝から高い。
そんな俺を前に、シャルが辛気臭くため息をついていた。
「いやお前、昨日の話を聞いただろう?」
「ああ、まさか完成にも時間がかかるとはな」
「そっちじゃねぇんだわ。というかソルさんや、なに期待しているのかはわからないけれど、多分思っているような改造じゃないんじゃないか? 変形とか、大型の機械を取り付けるとかはないと思うぜ」
「ステラなら、ステラならやってくれる」
「お前はステラちゃんのどこに少年期の憧れを見出しているんだよ」
この男は浪漫がわからないのか。そもそもステラは錬金術師だぞ、人類が到達し得ない領域を目指すのが錬金術師であり、ステラ=アリアハートは俺が知る限り最も優れた錬金術師だ、ならば夢を見ることに何の違和感もないだろう。
「どこってステラは世界樹のクラスだぞ。きっと浪漫溢れる変形合体とか俺たちに見せてくれる――」
「それぇ! 俺が頭を悩ませてるのそれだから!」
「馬鹿め、変形合体するのはいつだって正義の味方だ、お前が思っているように悪用などされない」
「そんな心配してねぇよ! というかソル、さては頭の中ステラちゃんの工房でいっぱいいっぱいだな?」
「改造ホムンクルスとかいるかな」
「いるわけないだろ、禁忌だよ禁忌。というかそれ敵側じゃねぇか」
「変形合体錬金駆動を駆使し、ステラは正義のために戦っていた。しかしある時、敵側の改造ホムンクルスが傷つき、助けを求め倒れているのを発見し、彼女は工房に連れて帰り治療をする」
「……何か始まったぞ」
「最初は戸惑う改造ホムンクルスだったが、ステラに世話をされ、徐々に心を開いていき、彼女の錬金術の手伝いも始める。何故改造ホムンクルスなんて、周りからは懐疑的な目を向けられていたが、渾身的に働くホムンクルスに周囲の目も変わってくる――」
「え、続けるの?」
「でもぅ、そんな時間は長くは続かなかったぁ」
「アンナちゃんいたの?」
スッと脇からアンナが現れ、俺の話を引き継ぐように語り始めた。
「ステちゃんの最大最悪のピンチ、周りは敵だらけ、今度こそ死を覚悟したその時、そこに颯爽と現れたのは改造ホムンクルス――その子は、ステちゃんを救うため、彼女の命令も、言葉も無視し、単身敵に特攻を仕掛ける」
「アンナちゃん、語尾伸ばし忘れてるよ~」
「改造ホムンクルスを生かすためにステちゃんが取り付けた世界樹のコア、しかしそのコアは膨大なエネルギーを内包しており、その子はステちゃんの制止の声――叫びにも応えることなく、最後に振り返り、ステちゃんに笑顔を向けた。改造ホムンクルスの活躍により、敵の組織はほぼ壊滅、あとは親玉を残すだけ。ステちゃんは変形合体錬金駆動に、以前その子に巻いてあげた燃え残ったリボンを巻き、最終決戦へと臨む。ただ一言、あの子の生きた証を胸に、名を呼ぶ――クリスティーヌ」
「ねえ誰の話? 誰の話してんの?」
俺はアンナを持ち上げて肩車し、ステラの家に向かって駆けだした。
「クリスティーヌ!」
「クリスティーヌ!」
「止まれガキども! 頼むから俺を置いてけぼりにするな!」
シャルの制止を無視して駆け出すと、すぐにステラの家が見えてきた。
魔導騎士団騎士団長と聖女様を両親に持つと聞いてはいたが、それほど豪華絢爛な見た目ではなく、大きくはあるが、貴族に舐められない程度のギリギリの大きさで、どちらかといえば質素というか、あまり家屋に金をかけていないという印象を抱いた。
俺は正門の前で足を止めると、息を切らしたシャルが追いついてきた。
「……いやお前ら、元気すぎるだろ。そもそも悪の組織ってなんだ――」
「しかし世界樹クラス、確かにステラでなくとも隠したくはなるだろうな」
「だよねぇ、そのジョブの全部のクラスを持っているってことは、それだけ出来ることも増えるし、悪意のある人に見つかればきっとステちゃん狙われちゃうよぅ」
「それに問題なのはステラが使う世界樹のジョブスキルだ。あれを悪用されたらとんでもないことになる。こうやって助けてもらっているんだ、俺たちが何とか守ってやらなくちゃな」
「だね~。ウチもステちゃんのために頑張るよぅ――ところでシャルくん、大事な話なのに、悪の組織とか何言ってんのぅ?」
「……お前ら絶対はっ倒す」
体を震わせ、引き攣った顔で拳を握りしめているシャルを横目に、俺たちはステラの家のチャイムを鳴らそうとする。しかし――。
「おや、ステラのお友達かな?」
俺は声がした方に振り返ると、先にその声の主を見ていたシャルの顔が青白くなっており、首を傾げてその人を見る。
「はいっ、ステちゃんのお友達です!」
「最近、依頼で一緒になることが多く、今日は工房に招待されました」
俺たちに声をかけたのは2人組の男女、片方は厳しそうな目つきをしながらも柔らかな声と強者の雰囲気を漂わせ、正装で身を包んでいる男性。もう片方はおっとりとした雰囲気で、短い金色の髪をなびかせている女性。
「あ、う、あ」
「シャル?」
「あら、アーデルハイドの――リーシャは元気? 最近は遊びにも行けなくて」
なるほど、これは無礼を働ける相手ではないな。
俺はそっとアンナを頭から降ろすと、スッと小さく頭を下げる。
「自己紹介がまだだったね。私はランスフリード=アリアハート、こっちは妻のメルフォースだ」
つまりステラの両親にして、この国最強の一角、魔導騎士団騎士団長、そして我が国最良にして、世界でも類を見ない才能を持って生まれた聖女ということか。




