2-7話 星はその太陽よりも熱くなり
「さてと」
「……」
僕は身構えてしまう。
きっと色々と聞くタイミングを窺っていたのだろう。
しかしソルさんは僕の顔を見た後、小さく笑って首を横に振った。
「すまない、何もお前に問いただすために2人きりになったわけじゃないぞ。この分け方は防御手段を一切持っていないだろうアンナを中心に決めた編成だ。それにステラとこうして2人きりになれるのは中々に役得だろう?」
ウインクして言い放つソルさんに、僕は少し顔の体温が上がるのがわかった。
「……そう言うことも妹さんによくやっているのですか?」
「ん? ああ、妹たちはそれなりに理由を知りたがる年ごろだからな、わかりやすく話しているつもりだ、気に障ったか?」
「いいえ。でも――」
僕はそっとソルさんに近づき、彼の手を両手で握りしめる。
「妹さんと一緒というのは、少し嫌です。少しだけ、ほんの少しだけ、特別なやり方を考えてくれるとうれしいです」
「それは失礼した」
ソルさんはクスクスと笑い、そっと僕に手を差し出してくれた。
「ではステラ様、足元にお気をつけください」
「もぅっ」
僕は少し怒ったふりをしながらソルさんの手を取り、地面が隆起している箇所を飛び越える。
「すまない、意地悪が過ぎたな。さて、本題に戻すが、一体あの風の欠片でどんな改造をするんだ? 俺としてはそっちが気になる。確か錬金駆動をさらに加速させるとか言っていたな」
「ああはい、そのまま使うんですよ。風はそのまま推力として使えますし、それにちょっと弄れば風の量も増やすことも出来て、こう、爆発させるような――」
「お前さん結構爆発好きだよな?」
「えへへ、はい、ちょっと格好良いですよね」
「事故には気を付けろよ」
僕は微笑んで頷くと、小さく息を吐き、そして地面から風の欠片をそっと手に持ち、口を開く。
「『世界樹からの福音を受けて窯になれ』」
その風の欠片から、風を抽出する事象を取り出し、そのまま空中で風が運んできた思念を混ぜ、僕の持つおとぎ話から風を破裂させる物語を選択して錬成する。
「風爆弾――燃料は空気で、着火は衝撃。威力は抑えめで、物を吹き飛ばすのに重宝できます」
「……」
「ソルさんは、この力をどう思いますか?」
「神域……ではないな。神の偉業であるのなら、もっと大々的な儀式が必要だ。だがそれは神の御業ではない。もっと根底に近いような、もっと世界に沿ったものというか」
「……えっと、そういう意味ではなくて」
「ん? それならどういう意味だ?」
「その、この力が怖くないかとか、何かに使えるとか」
「う~ん? ああ、そういうことか。なら聞くが、お前は恐ろしい人間なのかステラ」
「え、いえ、そのつもりはありませんけれど」
「なら恐ろしくはないだろう。何に使えるのかを考えるのはお前の判断だ、違うか?」
「え~、いやその――」
僕が聞きたいのはそう言うことではなく、ああでも、これは僕の質問が悪い気もする。
そもそもあたしであった時分の癖が抜けきっていない。およそずっと疑っている。だから安心が欲しくなって、こんな中途半端な聞き方をしてしまう。
これではソルさんに失礼だ。
僕は意を決して本音を伝えようとすると、ソルさんがフッと微笑んだ。
「ステラ、お前が言ったんだろう、守ってくれますか。と――お前がどんな力を持っていようが変わらんよ。俺はお前を最後まで守るよ」
「――」
何でもないように言い放ち、そのまま背を向けて歩き出したソルさん。
あたしの顔は今真っ赤だろう。
何でこの人はそんなあっけらかんと、当たり前のように……そう、太陽のように何も隠さずにそんな素直な言葉を放てるのだろう。
僕は背を向けたソルさんの肩に手を伸ばそうと――。
「イチャイチャを感知したよぅ!」
「アンナちゃんどこへ!」
僕はすぐに手を引っ込めた。
そしてアンナが物凄い勢いでこっちに走ってきて、きょろきょろと辺りを見渡し始めたから僕は彼女に背を向け、小さく呼吸を繰り返し、顔に宿った熱を冷まそうとする。
「ん~? アンナ、そっちは探し終えたのか?」
「む~、こっちから熱源を察知したんだけれど」
「なにを言っているんだお前は。それよりさっさと探せ、俺は錬金駆動にどんな改造が施されるのかを早く見たいんだ」
「ソルくんも案外男の子だよねぇ。みゅ? ステちゃんなにしてるのぅ?」
「……」
僕はやっと顔から熱が引いて行くのがわかり、笑顔でアンナに振り返った。
「アンナ、きっとよくわからないオプションがいつの間にか取り付けられてしまったんですよ。あとで改造してあげますから、今日はうちに泊まりなさい」
「何か怒ってない!」
僕はため息をつくと、アンナを追ってやってきたシャルさんにさっきの風爆弾を手渡す。
「これを投げれば高いところの物が飛んでいきますので、活用してみてください」
そして僕はそのままソルさんの背中を押した。
「お?」
「あっちを探しますよ」




