2-4話 太陽のお昼風景
「僕のせいで、面倒をかけてごめんなさい」
「お前のせいではないだろう。そもそも面倒をかけたのは俺だ、あの手合いは適当に胸張って歩いておけばどうにでもなるし、ステラが気にすることではない」
午前の授業が終わり、俺とシャルは今朝の約束通り、ステラとアンナと昼食を共にしていた。
ステラは少し大きめな弁当箱に、幾つかの小皿を用意しており、少し首を傾げるが、それよりも気になるアンナの様子。
なぜあのウサギは購買名物のゲテモノを手に持っているのだろうか。
「……アンナちゃん、人の趣味にどうこう言うつもりはないけれど、その、随分と味覚が、その、個性的で」
「誰が好きこのんでこんな美味しくもないものを食べるですかぁ」
「ならなぜ買ったんだ」
「アンナはこの類の常連ですからね。このお魚とミントのパイの前は魚卵とチョコのパイをいつも買っていましたし」
「あれ食べる奴いるのか! 俺は買ってる人も見たことなかったんだけれど……アンナちゃん」
「だから違いますって! 他にないから食べていただけですよぅ」
アンナのそんな絶叫を聞いていると、ステラが人数分の小皿に弁当箱の中身をよそっていた。
あれはもしやと期待した目を向けると、彼女と目が合い、クスクスと声を漏らした。
「いや、その……」
「食べ盛りですものね。というか、2人に聞かないままよそってしまいましたが、良かったら食べてください」
「まだ何も買っていなかったから助かる。むしろこっちこそ馳走になっていいのか?」
「はい、ちょっとしたお礼ですから」
「お礼?」
ステラからよそってもらった小皿を受け取り、俺は礼を言うと、せめて飲み物は俺が淹れようと人数分の茶をそれぞれに渡し、彼女の言う礼について尋ねる。
「学校からあれこれ聞かれるのではないかと思って、先に作ってきてしまいました」
「なるほど、そういうことなら遠慮なく」
シャルが小皿を受け取りながら礼を言うと、向かいでチョコミントと魚のパイを口に放り込んでいたアンナが体を震わせており、俺が淹れた茶を一気に口に流し込んでいた。
好奇心旺盛と言うか、選択肢がそれしかないのなら避けるべき問題ではないだろうか。
「アンナ、俺が幾つかパンをとっておいてやろうか?」
「え、ほんとっ、ソルくんありがと――」
「駄目だべ! アンナちゃんから好物を取り上げるなんて、購買のおばちゃんとしては許さないよ!」
割り込んできた購買のおばさんのよく通る大きな声に、アンナが顔を引きつらせ、飛び上がって椅子に乗り、おばさんに向かって口を開いた。
「誰が好物ですかくたばれ――むぐぐ」
ステラに口を塞がれたアンナがそのまま彼女に抱っこされたまま、席についた。
まるで年の離れた姉妹だなと、俺は手を伸ばしてすっぽりとステラに抱えられているアンナを撫でた。
「ほらアンナ、これを食べて機嫌をなおしてくださいね」
「そう言えばステラ、聞きたいことがあったんだがいいか?」
アンナの口に食事を運ぶステラに、今日気が付いたことを聞いてみようと尋ねる。
「ええ、どうしましたか?」
「いや、俺の蒼い炎についてなんだが、お前が言っていたさんそって言うのは空気の中に入っているもので間違いないか?」
「……う~ん、まあざっくりと言えばそうですね。皆さんにもそう説明しているのですよ。でもそんなものは入っていない、空気は空気だと聞く耳を持ってくれないのです。ソルさんは信じてくれるのですね」
「信じるも何も実物を見ているからな。しかし教員連中はよほどお前が特別なことをしていると思いたいらしい。まあ特別であることは違わないだろうが、やろうと思えばだれでも出来るのだろう?」
「ええ、炎を大きくするだけなら扇ぐだけで良いですからね。抽出が出来ないのは……あたし――僕もそこまで詳しいわけではなかったから、初等教育で受ける程度のことしかしてないんですよね」
ため息をつくステラに、首を傾げていたシャルが手を上げて口を開いた。
「特別なことをしているわけじゃないんだ? でもソルの精霊は異常だぜ、鉄を真っ二つにするんだ」
「あ~……それですか。正直僕もちょっとよくわかっていないんですよね」
「そうなのか?」
「蒼い炎は普通だと約10000℃ほどと聞いたことがあるのですが」
「いち、まん?」
「でもそんな温度のものが近くにあったら僕たちも無事ではありませんよね? それで考えたのですが、多分あの精霊、蒼い炎と言う特性を持った精霊なんじゃないかと」
「……すまん、どう違うんだ?」
「実際に10000℃の温度ではなく、蒼くなったから熱いという特性で、それほどの熱は何でも焼き切るという特性、帰巣本能は多分おとぎ話の……つまり、実際にその温度ではなく、その蒼い炎が持っているイメージで出来上がった精霊なんじゃないかと」
「こいつ炎じゃないのか?」
「う~ん――使ったものが使ったものだったからなぁ。炎自体も神代の……」
「ステラ?」
ぶつぶつとつぶやくステラに俺が声をかけると、彼女はニコと笑みを浮かべた。
するとそんな彼女の顔を見上げていたアンナが肩を竦める。
「あ、はぐらかしたですよぅ。ステちゃんがニコってするときは大体はヤバい時ですよぅ――むぐぐ」
「あっ、そ、そうだ。ソルさんとシャルさん、今週のお休みの日、お時間ありますか?」
アンナの言葉を遮り、ステラは取ってつけたように声を上げた。
俺とシャルは顔を見合わせて頷き、その問いに答えた。
「俺は多分剣を振っているな。暇と言えば暇だな」
「俺も盾ぶん回しているかな」
「それならまた僕の依頼を受けてくれませんか? 報酬も出しますし、退屈はさせないと思います」
「ステちゃんそれウチも一緒していぃ?」
「もちろんです。ちょっと1人だと大変で」
「俺は構わないぞ。ちなみに何をしに行くんだ?」
「錬金駆動を改造しようと思いまして。この間もっと加速出来ていたら安全に逃げられたのではないかと思い、ちょっと考えていたのですよ。その材料集めを手伝ってもらいたくて」
「おおっ、それはいいね。俺も付き合うよステラちゃん」
「ありがとうございます。では一応学園に依頼書を通しますので、学生課で受けてください」
俺とシャルは頷き、依頼を受けることを承諾した。
そして残った料理を平らげて、午後の授業のために、ステラとアンナと別れた。




