2-3話 陽はそれを照らさず
「で、何だこの列?」
授業に遅れていった俺とシャルだったが、この時間は外での実戦訓練であり、クラスメートが各々の武器を手に、何故か俺の目の前に並んでいた。
「みんなお前の精霊に興味津々みたいだな」
「……いや、それよりどうしてこんだけ知られているんだ?」
「ソルは寝てたから知らねえかもだけれどな、あの後俺とアンナちゃんが先生連れてきた時、ステラちゃんの膝で寝てるお前と、明らかに何かを燃やし尽くした蒼い炎の塊2つ。しかもその炎を消そうとしたらお前のグローブに移動していったんだ。そりゃあ噂にもなる」
グシルアを倒した後も火の勢いが続いていたからおかしいとは思っていたが、まさか自動的に俺のグローブに戻っていたとは。
基本的に俺たち精霊使いは、ネームドの精霊ではない限り、その場で精霊に呼び掛けて協力してもらうという戦術をとる。
名前もない蒼い炎の精霊――その炎に意思はなく、ただ事象の付与物として存在するだけ……のはずなのだが、ステラは一体なにを錬成したのか。
「で、こいつらはその精霊を一目見たいと?」
「一目見たいというか」
シャルがチラとクラスメートに目をやると、奴らは瞳を輝かせて武器を構えた。
つまり、戦ってみたいのだろう。
「一応言っておくがお前ら、止めておけ」
俺の忠告に、クラスメートがぶう垂れる。
奴らは口々に「グシルアを倒して調子乗ったか」「強いのはお前じゃなくて精霊だぞ」「膝は柔らかかったか?」「俺もあの金髪に飛び込みたい」等々――俺は最後に聞こえた舐めたことを言ったやつに剣を向け、グローブから蒼い炎を流し込んだ。
俺からの殺気を受けたそいつは、自身の斧を構えると、刃に舌をなぞらせ、指をクイッと上げて挑発してきた。
この学科の俺の組、こんなのしかいない。
別に調子に乗っているわけではない。
そもそも俺自身この精霊を扱えているわけではなく、普通に危険なのだが、そこまで言うのであれば致し方のない。
先手はくれてやるとでもいうような余裕面に多少腹を立てながら、俺は奴の斧に一閃――ほどではないが、無造作に振ってみた。
すると奴の斧の鉄製の刃は何の引っ掛かりもなく真っ二つに焼き切れた。
「俺は相手をしても良いが、お前たち武器を買い替える金はあるんだろうな?」
クラスメートの連中は瞬時に武器を背中に隠し始めた。本当に素直な奴らだ。
「いやお前それどうなってんだ? 鉄を真っ二つって」
「知らん」
「お前自身も知らないのかよ。そう考えると、やっぱステラちゃんすげぇのな」
「……」
ステラに関して俺が言うべきことはないだろう。
あの子はそれを隠している。理由があるのかないのか、俺にはわからないが、きっと大きすぎる力を表に出すことを拒んでいる。
なら俺もそれを汲んでやるだけだ。
しかし――。
俺は辺りにそっと意識を向ける。
今俺たちの授業をしている教員もそうだが、あちこちから教員たちが俺の言動を注視している。
そんなにステラの力を明かしたいのなら、本人に聞けばいい。それで断られたのなら潔く諦めろ。
「な~んか見られてんな?」
「だな」
俺はため息をつき、この授業の教員に目をやると、彼……ラース=アンジロック先生だったか、そのラース先生がニヤケ面を俺に向けてきた。
「まっ、わかっているだろうから単刀直入に聞くが、ステラ嬢はその爆弾について何か言っていなかったかい?」
「さんそを混ぜると良いと言ってましたよ」
「……さんそって?」
「さぁ?」
「……炎が蒼い理由は?」
「さんそが――」
「……」
ラース先生が頭を抱えた。
俺もよく知らん。だがなんとなくだがあの時のステラの言葉を繋げると、さんそとは空気の中にあり、それは炎の温度を上げるもの。
温度が上がると炎の色も変わると言ったところだろう。
つまりこの蒼い炎は恐ろしく高温と言うことなのだろう。
それを教員に口にするつもりもないが、あとでステラと答え合わせでもしよう。
ラース先生が諦めたように手を上げ、一言礼を言うと俺たちから離れていった。
教職員と言うのも面倒な仕事だ。
「で、お前の私見は?」
「……ステラ本人ではなく、俺を取り入ろうとする態度が気に入らん」
「お前ならどうにかなると思ってたんだろうな。多分ステラちゃんより頑固だよな」
シャルの言葉に、俺はにやりと笑い、彼と拳をぶつける。
そして俺は精霊を戻し、素のままの剣でシャルと実戦訓練を再開した。




