04 反乱軍結成
気づくと、王子がゴワンドを連れて小屋に戻ってきていた。
「そういうわけで、ゴワンドと一緒に反乱軍を募ることになった」
「ゴワンドと申します。イグザット王国騎士団の小隊長をしていました」
「ゴワンド、紹介しよう。私のつま……」
「わーっ、わーっ!」
ターレント王子が急にとんでもないことを言い出したので慌てて遮った。
「つま……つまらない部下なんですよ、私は。リリアと申します。魔術も使えるのでターレント王子の警護をしております」
「そうですか、それは心強い」
具体的にどのように志願兵を募るかの話になった。
「旧イグザット王国騎士団から募るのがよいでしょうな。知り合いも多いので順番に声をかけてみます」
ゴワンドは自分にまかせてほしい、と希望した。
少し不安だ。
「声をかける相手を選んだ方がよろしいのでは?」
なるべくやわらかく伝えた。
「選ぶといっても……戦の神の御導きに従うのみだ」
「例えば、例えばですよ、すでに職業を変えて商人として働き始めてうまくいっている者は反乱軍には参加しないでしょう。それどころかそのことをトグ王国側に報告して歓心を買おうとするかもしれませんね」
「なるほどのう。しかし、昔の同僚が今どのような身の上かなど、すべて把握しきれないぞ」
ゴワンドの訴えももっともだ。
「その点ならお任せください。事前に水晶で調べます」
「さすが、あくま……」
「わーっ、わーっ!」
ターレント王子が悪魔であることをばらしそうなので慌てて遮った。
「あくまで魔術師として生きることに生きがいを感じております!」
「リリア殿はとことん魔術師なのだな」
反乱軍候補者の選定は、ゴワンドがリストを作成、私が水晶で今の生活を確認するというちょっと気が遠くなる作業だった。王子といえば、やることがないので周りをうろうろしていたが――
「俺は街に行って声かけてこようかな」
ゴワンドと私はびっくりして叫んだ。
「「絶対ダメです!」」
「殿下には懸賞金がかけられておるのですぞ。太陽金貨20枚も」
それだけあれば3年間は遊んで暮らせる額だ。
「王子は体力を温存しておいてください」
椅子の上をぽんぽん、と叩いて座るように促した。
水晶での確認作業はとにかく肩が凝る。ときどき腕を回してたが追っつかない。
「この作業、肩が凝るのよね」
14歳の乙女のセリフではないよね。ふぅ。
王子が突然私の後ろに立って肩に手を当てた。
「俺に任せろ、こういったのは得意なんだ」
突然肩のマッサージを始めた。
「王子?さすがに立場というものが…」
ゴワンドに助けを求めるように視線を向けると、ゴワンドは突然立ち上がった。
「そうだ、このあたりの見回りをせねば」
にこっと思わせぶりな笑みを浮かべると、そそくさと小屋の外に出て行ってしまった。ゴワンド、その気配り要らないよ!
「どうだ、なかなか上手だろう」
「はい」
緊張する。でも、マッサージはうまい。肩甲骨の下のあたりとか、頭の付け根のあたりとかもお願いしたいけど、さすがの私でも言えない。相手は王子だし。
「亡くなった母によくしてあげたんだ」
そうだった。王子のお父さんもお母さんも戦争で亡くなっているんだった。
「お母上はお幸せであったと存じます」
「俺は必ず王国を復興させてみせるよ」
「もちろんですわ」
そう言いながら、マッサージをしてくれている王子の手に私の手を重ねた。王子のことを健気な少年だと思った。ただのイケメンじゃなかった。
振り向くと王子が私をまっすぐ見つめている。
だんだん顔が近づいてきた。
ピピがピーピー鳴いているが、気にならない。
私は目を閉じた。
小屋の入り口近くからガサガサっと音がした。
「このあたりは蚊が多くて大変でしたぞ」
ゴワンドが見回りから帰ってきた。間が悪い!
私も王子もさっと姿勢を戻して何もなかったかのようにしたけど、気まずい。
「もう、だいたい、やったかな」
「そう、そうですね」
会話がぎくしゃくしたことに耐えきれなくなったのか、王子も見回りにいくといって出かけてしまった。
わたしは水晶の確認作業がまだまだあるのでつづけた。あとでよくよく考えると、雰囲気に流されて大変なことになるところだった。悪魔としては気を引き締めねば。
「殿下には、私が剣術を教えたのです」
ゴワンドが語りだした。7歳のころから12歳まで教えていたとのことだ。
「殿下のことはたいてい知っているつもりです。リリア殿は殿下の好みのタイプなのですよ。はっはっは」
「そうなんですかぁ?」
気づいてないふりしてとぼけてみせた。
「ぴったりど真ん中ですな」
知ってる。結婚申し込まれましたなんて言えないよ。
「ま、身分の差というものがありますわ」
私がそう言うと、ゴワンドは何度かうなずいた。
さて、厳選して集められた反乱軍は総勢300名であった。
少ないと思われるかもしれないけど、旧イグザット王国、トグ王国ともに人口10万人足らずの国なのだ。
それぞれ常備兵として動員できるのが1000人程度なので、多くはないが、決して少ない人数でもない。
それに、旧イグザット王国内の反乱軍だけで戦うつもりもない。
ターレント王子とゴワンドが反乱軍の組織づくりや訓練をしている間、私は小屋でごろごろしていた。
しかし怠けていたわけではなく、頬杖を突きながら次の計画を練っていたのだ。
ついでに反乱軍の訓練の様子も水晶で確認する。
王子やゴワンドをはじめとした反乱軍の方々が武具を身に着けている。
急に乾杯をしだした。そして盃を床に投げつけて割った。
剣を空に向けて突き上げて士気を上げている。
今から攻め込む勢いだ。え?いまから?犬死じゃん。
びっくりした私は急いで出陣の現場に向かった。
「リリア、来てくれたのか」
「来てくれたのかじゃないわよ。このまま攻め込むつもり?」
「もちろんそのつもりだ。リリアのおかげで反乱軍がこんなに集まった」
笑顔でターレント王子が答えてくれた。脱力感が全身を襲った。さすがイケメン、笑顔がまぶしい。
「すとーーっぷ!」
私は大声で叫んだ。
「このまま戦いに臨んでも犬死だよ!ターレント王子とゴワンドはこちらにいらっしゃい」
「どうしたんだリリア。戦は勝つも負けるも戦の神次第であろう」
「そんなわけあるかぁー!」
イグザット王国がトグ王国に負けたのはこのあたりに原因がありそうだ。
「敵を知り己を知れば百戦危うからじゅ」
<噛んだ……>
<噛んだよこの子……>
「とにかく!敵情をしらずに戦争なんてできません。そして、戦争をするからには勝てる準備をして始めなければなりません。戦争は博打じゃないのよ。悪魔の戦いには最初から負ける可能性などないのです。」
噛んだのは何とかばれずに誤魔化せたようなので話を進めた。
「戦いの神が活躍することは無いのか?」
「相手にも神がいるだろうから帳消しになるんじゃないですかね」
わたしは悪魔なので神頼みはしない。
さて、こちらの戦力を集めることも大事だが、敵の内部に内通者を作ったり、国力を弱めることも大事だ。
「トグ国のドワーフ族は地位が低く、事あるごとに迫害を受けていると聞きます。ぜひとも味方につけましょう」
それには敵国内にスパイを潜入させなければならない。
「俺が直接交渉した方が話がまとまるであろうな」
ターレント王子がこともなげに言った。
ゴワンドは当然ながらターレント王子の身を案じて止めた。
「ターレント王子に万が一のことがあったら大変です」
「祖国復興のためだ。我が身の危険などは二の次だ」
王子はゴワンドの心配を誤解しているようだ。
「ゴワンドは殿下なくしては祖国復興もままならぬと言っているのです。わたくしが付き添いますから心配いりませんわ」
ターレント王子と私は旅商人夫婦に偽装してトグ王国領に潜入することとなった。
「反乱軍を組織したり、商人のラクダ馬車一式を揃えたり、とにかくお金がかかりますが大丈夫なんですか?」
「心配するな。王家には逃亡用の秘密の埋蔵金があるのだ」
そのお金で国力を蓄えたら滅亡しなかったんじゃないの、と思ったが口には出せなかった。
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