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10 アホ王子

怒っているのか嬉しいのかわからないまま王子と手をつないで歩いていた。


「これから大物を釣るわ。総仕上げよ」


トグ王国には王子が二人いる。兄は賢さと誠実さをそなえた有能な王子だ。一方弟は無能で、そのため自分の能力が足りないことすら分からず過信していて、承認欲求が強い。誠実さもない。


「つまりアホな方の王子を利用してやれ、と」


「ターレント王子はアホ王子の家来になりたい、そんな設定です。アホ王子の家来になってイグザット王家の血筋を保ちたいと訴えてください」


「できるかなあ……」


「できるできないではなくてやるんです。アホ王子が挙兵して王位に就くのであれば、協力しますと申し出ましょう」


「そんなアホな申し出を受ける?」


「アホなんで大丈夫です」



ゴワンドはラクダ馬車をいつでも出せるように待機している。

私とターレント王子でアホ王子の屋敷へと向かった。


「この時間にいつも庭で散歩をするので、そこで接触しましょう」


このことは事前に水晶で確認済みだ。庭の警備の兵士は2時間に1回しか来ないことも確認済みだ。


庭の端の生垣のところでアホ王子のまわりが手薄になるのを見計らっていると、まずいことに見回りの兵士が来た。


「どうしよう」


わたしがおろおろしていると、ターレント王子がささやいた。


「隠れて会っているカップルのふりをしよう」


私を木陰に引きずり込むと、いきなりキスをしてきた。あんまりびっくりして目をぎゅっとつぶったまま固まっていた。


「こら、こんなところに何の用だ! ……まぁ、見りゃあわかるが、こんなところでするな! あっち行け!」


「すんません」


頭を下げてその場を立ち去るわたしたち。巡回の兵士はそのまま遠くへ行ってしまった。


「危なかった」


巡回の兵士に見つかったのは悪魔である私のミスなんだけども、だけどだけど、さっきの訳が分からないまま終わったのが私のファーストキスだったなんて! もっと甘い言葉をささやかれながらうっとりしながらするものだよね?


それにしても、恥ずかしすぎてターレント王子の顔を見れないよ。王子も見回りの兵士を気にしているそぶりをしてる。王子が顔を赤くしてると、余計に意識してしまう。


「見回りがまた来たぞ!」


えぇ?2時間ごとだったはずなのに。


木陰でターレント王子はまたキスをしてきた。私はまた目をつぶる。さっきよりも長い。イケメンだからキスに慣れてるのかしら。私は展開が急すぎて頭がついていけてない。

腕は下に垂らしたままで、直立不動で動けなくなっていた。恋人のふりをするなら、背中に腕を回した方がいいのかしら。わたしがキスをしたがっているように思われても嫌だしどうしよう。

10分くらいは続いたのかな?


「もう大丈夫だ」


私は全然大丈夫じゃないよ。顔も首も体中が熱くてどきどきしてます。悪魔なんだから動揺しているのはばれないように堂々としなくちゃ。


「ひゅこう、いまのうちに!」


くちがうまく回らないや。

顔が熱いのは歩きながら風にあたってさまそう。


「おい、また見回りが来たぞ!」


三度め? 下調べと全然違うよ。ターレント王子は私の肩を抱くように茂みに連れ込み、またまたキスをし始めた。頭の中がとろけそうになる。やはり腕は下に垂らしたままで、直立不動で動けなくなっていた。使い魔のピピがポケットの中でもぞもぞ動いてるのを手で押さえて止めた。巡回の兵士をやり過ごさないといけないの!

ん? これは大人のキスというやつでは? これはどういうことなの? どうすればいいの? どれくらい時間がたったかわからない。ターレント王子はやっと私から顔を離した。


「やっと立ち去ったようだ」


しばらく無言の時間が流れた。


「えと、アホ王子と接触しましょう」


「おう、そう…だな」


なんかぎくしゃくしたまま私たちは歩き出した。




足音を立てずにアホ王子に近付いた。


「殿下、突然のご無礼をお許しください。お話ししたいことがございます」


アホ王子はびくっと驚いた。


「曲者!どこから入ったのだ」


「あら、わたくしたちに入れない場所などございませんことよ?」


久しぶりに悪魔モード全開だ。


「例えばこの屋敷、短時間で3回も見回りが来ましたけど、そんなのをやり過ごすのは簡単なことですわよ」


「そなたは何を言っているのだ?我は第二王子であるがゆえに、警備は大したことは無い。2時間に1回巡回する程度であるし、その巡回だってまじめにやっているかどうか怪しいものだ」


珍しくターレント王子が焦った顔になった。


「リリア、それは話の本筋ではないであろう。こちらに訪れた目的をまずは話そうではないか」


なにか腑に落ちない気もするが、今はアホ王子を説得できるかがすごく大事なのだ。

私は一歩前に出て、語りかけた。


「私たちは、殿下こそがこの国を導くのにふさわしいお方と考えています」


「いきなり何を言い出すかと思えば。王太子は兄に決まっている」


「さようでございましょうか。王太子殿下は賢いと評判ですが、賢さはそれを突き付けられるものにとっては北風のようなもの。」


それに比べて、アホ王子は賢さこそ目立たないが、それは優しさに包まれているからだ、と続けた。もちろんアホとは言っていない。


「誠実さも同様でございます。自分が誠実であるのと同じように相手にも誠実さを求めると、息もできぬ世の中になってしまいます。欠点があることをお互いが認め合うことが大事なのでございます」


アホ王子は「ほう」とうなずいた。アホをほめておだてるのは簡単だ。


「そちたちは何者なのじゃ」


「私は旧イグザット王国王子ターレントにございます」


「だれかっ」


「お待ちください。殿下に害を加えるものではございません。殿下の家臣にしていただき、わが家名を復活させたいのでございます」


「なるほどのう」


アホ王子は行ったり来たり歩き回って考えていた。迷っているようだ。


「そのほうらの気持ちはありがたくいただこう。だが、これほど重大なことをすぐに返事はできぬ」


「もちろんでございます。後日、警備の隙をついて殿下のところへ再び参上いたします」




わたしはイグザット王家の紋章入りの品々、そしてアホ王子の説得に成功したという内容の手紙を、兵士の巡回路にばらまいた。


「なるほどな、それでアホ王子を追い込むのか」


「ターレント王子、さすがですね。今は反乱を起こす気はないでしょうが、こうやって追い込まれていくとどうなることやら」


ターレント王子と私は目を合わせて笑いあった。変なところで考え方が似ているらしい。



「帰りに門番のところに寄って行こうと思って」


私はじとーっとした目でターレント王子を見た。


「立ち話だけだよ。アホ王子が反乱を企てているという噂を広めておくのさ」


「ほほう。5秒で帰ってきてくださいね。長居は無用です」


こころよく送り出してあげた。


トグ王国での秘密工作は一旦これで終わりだ。あとは機が熟すのを待つのみね。


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