調査
国王の執務室での話し合いを終えた翌々日、私はルナとソルを連れて王立図書館へと来ていた。
「ご機嫌よう、館長」
「アイリス様、ご機嫌麗しく存じます。本館へ足をお運び頂き、誠に光栄でございます。先日ご依頼頂いた神人に関する伝承、各王家の系譜に関する資料などご準備出来てございます。お部屋へご案内させて頂きます」
「ありがとう」
館長に案内され、貴賓専用の金色の縁取りがある緋毛氈の上を歩く。
壁面に飾られている絵画は、新進気鋭の画家のものばかりだ。
気に入れば、購入したり、画家に依頼したり出来る。
「先日、イザベラ様からご紹介頂きました画家の作品は非常に人気が高く、この度展示会の開催が決まりました。イザベラ様の芸術への造詣の深さや審美眼に、私どもはいつも感嘆しております」
「ありがとう。お母様にも伝えておきます」
ウィステリア公爵家のサロンには、貴賎有名無名を問わず作家、画家、音楽家など多くの芸術家が集まる。
お母様は目をかけた者には惜しみない支援を与え、彼らは皆一流の芸術家となって活躍している。
お母様の眼鏡に適うか否か。
それが、芸術家たちの登竜門となっているほどだ。
そのため、高位貴族といえどなかなか作品を依頼したり、パーティーに招待したり出来ない芸術家たちも、お母様のためなら時間を作る。
見目の麗しさもさることながら、その縁もあり、お母様は社交界の黒薔薇と称され、各家から引く手数多だ。
だからこそ、リディアの実家であるアナトリア伯爵家の参加する催しに私のお母様が来ないと知った貴族たちは、アナトリア伯爵家を招待しなくなった。
お母様も私と殿下の婚約破棄には、ご納得しておられませんでしたから……
リディアにこれから先かける負担を考えると、その恩に報いるためにもこちらの問題も解決しておかないといけませんわね。
「アイリス様、こちらでございます。何かありましたら、お声がけ下さい。失礼致します」
私がつらつら物思いにふけっていると、いつの間にか貴賓室に辿り着いていた。
マホガニーの机の上に整理して置かれた数十冊の資料。
サイドテーブルには贔屓の紅茶と茶菓子。
前世の記憶が戻ってからあれこれ調べるのに何度も通ったため、私の好みは熟知されている。
私はクッションの効いた椅子に腰かけると、ソルに話しかけた。
「王廟の扉を開けたのは、ソル、あなただわ」
「はい、お嬢様!」
「陛下は、あの扉は神人の血を引く各王家の人間にしか開けられないと仰ってたわ。とすると、ルナもソルも4王家の人間、それもかなり濃い血を引いていることになるわね」
大陸中央部に位置するエリューシオン聖王国。
大陸西部に位置するシャングリラ天王国。
大陸東部に位置していたフィディシス神王国。
大陸南部にある島国、エンシェント光国。
この4王国は、神代の時代4大神と結ばれた人間たちの子孫ーー神人ーーの血を受け継いでいると言われている。
「私たちには奴隷となる4歳以前の記憶がほとんどありません〜。覚えているのは、炎と血の記憶ーー」
「ーー雨と泥の記憶です! もし、俺たちがお嬢様の仰られる通り4王家に連なる人間であれば、なぜ奴隷などに身を落としたのでしょう?」
「そうね……拐われたか、売られたか。どちらにしろ高貴な血筋の人間に起き得る出来事ではあまりないわね。ただ、レギオス帝国に滅ぼされたフィディシス神王国が出自の場合、戦争の混乱の最中と考えれば、あり得ない話ではないと思うの。他国であれば、隠し子なのかもしれないわね……」
王廟は厳重な警戒態勢が敷かれたとはいえ、王廟の扉を開けられる人物は把握しておきたい。
ゲーム内で魔王を召喚したのが帝国であるならば、帝国にも神人の血を引く人間がいるはずだ。
恐らく後宮にフィディシス神王国の王家の血を引く者がいるのでしょうね。
「まずは各王家や貴族の系譜から行方不明の者がいないかどうか調べてみましょう。各国の王位継承権を持つ人間とその姉妹娘までで良いわ。そちらはふたりに任せて良いかしら?私は、神人について調べてみたいの」
「お任せ下さい〜」「畏まりました!」
出来れば、奴隷となって奪われてしまったルナとソルの権利を取り戻してあげたいわ。




