狼王
4度目の帝城訪問。
私たちは、夕顔が花開く様を中庭の池のほとりで眺めていた。
「アイリス、お前ばかりずるいぞ」
白い丸テーブルの上に並ぶスコーン、サンドイッチ、クッキーなどの軽食を摘みながら、唐突にシリウスがぶすくれた。
「シリウス、27歳の男子が唇を尖らせても可愛くなーーいえ、美形は得ですわね。はぁ〜、それで私の何がずるいんですの?」
「お前はルナとソルといつも一緒だろ? 俺もそろそろお前に部下を紹介したい!」
シリウスと会うとき、私はまだ鳥籠結界を張っていた。
最初のとき以来、お宅訪問の日時は予め伝えているため、シリウスは毎回人払いをしている。
更に、私が魔王召喚者ということも隠しているらしい。
理由を尋ねると、友達同士の秘密って楽しいだろ? と返って来た。
それで良く周りが納得するものだ、と思っていたが……
「お前と会う度に、御身に危険がー! とうるさいんだよ。この食べ物だって毒味もしないなんて! とぶつぶつ言われるんだぞ?」
強引に押し通していただけらしい。
「あなた、毒効くんですの?」
ルナの感知能力によると、シリウスには強い毒耐性があるとのことだったはずだ。
「即死はしないだろうな。でも、結構苦しいんだぞ? お前が俺を殺したいなら無効だが、拷問したいなら効果的だな。するか?」
「それに何の意味がありますの? ところで、部下のことでしたら、私は構いませんわ。何人ですの?」
夕方になり、涼しくなった風がシリウスの目にかかるほどの長い前髪を揺らす。
そこから覗く涼やかな目元が笑みの形を作る。
「金狼王のオーロ、銀狼王のアルジェント、黒狼王のメラン、白狼王のヴァイスの4人だ。お前も連れて来る人数増やすか? 魔王でもいいぞ」
金狼は騎士団員、銀狼は官僚、黒狼は以前隠し部屋にいたことから考えると忍者みたいなもの、ですわよね?
「白狼とは何ですの?」
「お前、ほんと会話の軸ずらすよな。まぁ、いい。白狼ってのは術者だな。ただ、ヴァイス自身は術者じゃない。術研究家、と言ったところか。お前の術に興味があるんだと。魔王召喚者って知ったら、嬉々として研究材料にしそうだな」
「分かりました。構いませんわ。次来るときに紹介して下さいませ」
「何だ? 研究材料になっても構わないのか?」
「出来るものなら、構いませんわ」
私がそう答えると、シリウスが嬉しそうに笑った。
次は、防御結界を更に強化しておかないといけませんわね。
術研究家、ですか……
魔王召喚を言い出すのはヴァイスかもしれませんわね。
精霊についても話が聞けるかもしれないと、私は気を引き締める。
幸いシリウスは、私との友情を楽しんでいて、戦争を仕掛ける気はないらしい。
けれど、このまま大人しくするようなタイプでもありませんし、今後も警戒は怠らないようにしませんと。
ランティス様がリディアに封印されるところを見たいと言いだしかねませんもの。
「次が楽しみだな!」
「ええ、そうですわね」
私もシリウスに微笑み返すと、クッキーを1枚手に取るのだった。




