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   手の熱をにっくきアイツへ


 軽く一年や二年は修行するだろうと想像していただけに、カシアは意外そうに目を見張る。


「一発で? そんなに呆気ないことなのか」


「原理を分かってしまえば、どうして今までできなかったのか不思議になるくらいですよ。まずはこれを左手に持ちなさい」


 そう言ってエミリオは懐から淡い金色の水晶球を取り出し、カシアに差し出してきた。


「これは真理の玉……本来は修行を積まなければいけないのですが、この玉を使えば強制的に眠っている魔力を呼び起こし、素質があれば魔法を使えるようになります。要は閉じている扉を開くカギみたいなものですね」


 高そうな物だな、と思いながらカシアは水晶球を受け取り、左手で軽く握る。手の平に金色の光が映り込むだけで、自分の体に変化が起きた感じはしなかった。


「なんにも起きないぞ?」


「フッ、せっかちはなにも産み出しませんよ。今度は右手の平を私に見せて下さい」


 言われるまま、カシアが手を差し出す。

 チクリ。いつの間にか手に持っていた針を、エミリオはカシアの人差し指の腹に刺す。


「痛っ、いきなりなにしやがるんだ!」


「こうすれば注意力が散漫な人間でも、指先に集中しやすくなります。……では全身の力を抜きつつ右手をかざして下さい。それから、体中の熱を右手へ集めるイメージを持つんです」


 もしこれで魔法が使えなかったらブン殴ってやる。

 苛立ちを抱えながらも、カシアはエミリオの言葉通りにしてみる。

 熱を手に集めていくことを想像していくと、かざした右手が本当に熱く感じてきた。


「エミリオ、手が熱くなってきた」


「そうですか。じゃあ今度は前を指さして、爪先の一点に熱を集中させなさい。それができたら、その熱をなんでもいいですから、物にぶつけるつもりで放って下さい」


 え? これだけ? 本当に呆気ないな。

 内心肩透かしを食らったような気分になりながらも、これでなにも起きなかったら……という不安が、カシアの胸に広がりそうになる。

 こんなことで弱気になってどうする、とカシアは己の心を奮い立たせた。


(熱を、爪先に……よし、熱くなってきた。いける。これをランクスにぶつけるつもりで!)


 人を見下してくる時のランクスを想像し、それに向かって熱を放つ。

 ゴウッという音に続き、「熱っ!」というランクスの声が聞こえてきた。

 目を開けると、カシアの指先とランクスの肩から白い煙が立ち上っていた。


「カシア、お前オレにぶつけようと思いながらやっただろ!」


 走り寄って耳元でがなり立ててくるランクスを無視し、カシアは己の指先を見つめる。


「これ、ひょっとして……」


「よかったですね、カシア。貴女は魔法を使える人間ですよ」


 エミリオが微笑を浮かべる。しかしすぐに「ただ」と冷めた表情に戻る。


「指先から出たのは小さな火の玉……元々持っている魔力の量は少ないようですね。多少なら増やすことはできますが、あまり強力な魔法は使えませんね」


「そうね。中級クラスまで使えればいいほうねえ」


 ひょこひょことエミリオにルカが寄り、二人は目を合わせてうなずき合う。

 それからルカはカシアへ柔和に微笑んだ。

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