11時間目
「やぁ~ベル~今日も一段ときれいじゃないか~☆どうだ~い具体的に結婚式の日取りを決めようじゃないか~♪」
「……」「……」「……」
「いやいや、ちょっとみんな無視せんといて。あたしソロ活動やん」
「いやだってあたし木やし。喋らんし」
「あははは、だって秋蘭の演技どこまでアドリブが続くのかわかんないんだもん」
「さすが秋蘭……すごいです」
「いや、みんなもどんどんアドリブしていいねんで?そっちの方が見てる側も楽しいし」
「え!?木も喋っていいの!?」
「それはあかんな」
「ボクには無理だなあ~」
「わわ私にも絶対無理です!!」
「まあまあそんな決めつけず。本番なったらわからんよ?アドリブの神が降臨するかも♪」
「いいなぁ……木も喋りたいなぁ……」
「ん、さて。それじゃ主要役者のリハもこれで終わり。なんで美稀がおるんかはこの際聞くな」
講堂に残った四人は、本当に最後の打ち合わせを今終えました。
「この劇が終わったら淋しくなりますね」
桃の言葉に、一同笑む。
「そうやなぁ、なんだかんだ練習の時間は楽しかったしな」
秋蘭がボロボロになった台本を眺めながら言いました。
「木の時代とも明日でお別れかぁ」
謎の時代に思いを馳せながら、美稀が遠くを見つめて言いました。
「みんなそう感傷的にならないでよっ」
伶がひょこっと首を傾げて言いました。
「劇が終わると会えなくなる訳じゃないんだからさ」
伶は天使のような微笑みを浮かべて言いました。一同賛同します。
「それもそうやな。それじゃあ皆さん、明日に備えて今日はぐっすり休んでください。解散!」
秋蘭の掛け声で、四人は講堂を後にします。講堂の中はたくさんの長いすで埋め尽くされていました。壇上には張り出し舞台が設置され、舞台袖には各団体の大道具や小道具が眠っています。広い空間の中にあるすべてのものが、明日の文化祭を心待ちにしているかのようでした。
「ねぇ秋蘭」
「お?どした?」
美稀と桃は既に講堂の外に出ています。明日桃が高熱出したらあたしが主演するからと、美稀が往生際の悪いセリフを桃に吐いています。
「明日さぁ」
「おう」
秋蘭に次いで伶が講堂の扉に手をかけました。秋蘭は講堂の鍵をじゃらじゃらさせながら、伶に向き直ります。桃は何も言い返せず、困った顔をしながらただただ頷いています。
「後夜祭、二人で過ごせないかな?」
「秋蘭―!!明日あたしが主演するー!!」
「え?み、美稀話が違います!」
美稀が今作品一番の笑顔で秋蘭に駆け寄ってきましたが、秋蘭は全くそれどころではありませんでした。美稀の後ろから、桃が泣きながら走ってきます。
「そ……それは一体どういう……」
「え?いや、どういうもこういうも桃が快諾してくれたから」
「私は快諾なんてしてません!もし高熱が出たらって」
「大丈夫!絶対高熱出るよ!」
「そ、それのどこが大丈夫なんですか!?」
「どういう……」
激しく言い合う二人の陰で、秋蘭が困惑しながら呟きました。
「答えは明日でいいから。明日、楽しみにしてるね」
伶の言葉に、
「は……はい!伶様!!」
勘違い華々しく、快い返事をする美稀でした。




