↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界よ、鬼がまかり通る!!!  作者: 西岡怜伽
PR
6/9

第六話:総火演よ、鬼がまかり通る!!! 2

1


草臥れた(くたびれた)少年はグレンジャー生家の敷地を示す柵の前で力尽きたように倒れ込んだ。

先ほどまであった浮いた気持ちからは醒(さ)め、思わず彼の元へ駆けて行った。

私の私室がある二回の窓を開いて、窓から干し草に着地するように降りた。少し着地後に体制を崩して物音を出してしまった。家の中にいる兄弟や両親、ヒツジやウマに気づかれていないかを確認してからそっと近づいた。

 てっきり気を失って倒れているものと思っていたが、どうやらただ地面に突っ伏していただけらしい。

「大丈夫ですか?」と倒れた少年の肩を揺らした。しばらくしてから寝起きのような、うなり声をあげて、その芝まみれの顔を私に向けた。

「ここは君の家だったのか」

エリナーは不思議に思った。なぜ彼が自分のことを知っているのかわからなかった。勿論、一方的ではあるが彼の顔は知っている。名前はバーメイン・ジェラード・ロゴジン。名前だけが独り歩きしていたが、この間の検査会にて顔を知った。

「そうですけど・・・」

「君も僕に敬語を使うのか」

バーメイン少年は顔や服についた芝を払ってこの場を去ろうとした。そんな彼を私は止めたのだ。

「どうしたの?」

彼は何かを語ろうとしたが、おそらく彼が来たであろう道から男たちの声が聞こえる。声を聴く限りでは成人男性である。バーメイン少年はその声を避けるように、暗闇の林へ私の腕を引いて入っていった。

 しばらく林の中を駆け抜けた。真夜中ではないが、一寸先は真っ暗。そんな中をランタンのように光らせたバーメイン少年の「魔法」の火球で足元を照らし、同時に足跡や痕跡を隠蔽する「魔法」をかけて追跡者から逃げた。

追跡者の気配が完全に消えたところで私たちは立ち止まった。

「君はグレンジャーだね」

肩で息したエリナーは首を縦に振る。

「僕はバーメイン・ジェラード・ロゴジン」

「知ってるよ。それより、なんで追われてるの?」

「・・・」

彼は口をつぐんだ。そして目線は、右太もも横の固くにぎった拳。

そんな様子を見た私は、こんな所より良いところがあると言って、彼の腕を引っ張ってさらに林の奥へ向かった。

魔獣と呼ばれるかつて存在したといわれる伝説上の生き物たちが、新人類時代の到来と同時に発生した動物の変異種として復活した生物のことである。その魔獣たちはどこにでも生息していている。当然この林にも生息しているが、「精霊術」と呼ばれる「魔術」の使い手に、この林の主と交渉し私たちグレンジャー家の人間を襲わないという契約をしてもらっている。だから、子供二人が真っ暗な林を走っても命の危険はない。

バーメイン少年は感嘆の声を漏らした。先ほどまでのよどんだ顔とは違って、月光に反射した汗と爛々と輝く瞳と相まって煌びやかであった。

「気持ちいいでしょここは」

「ああ、とてもいいな」

私が連れてきたのは、グレンジャー生家を囲うように存在する林のさらに奥。先ほどまでも雑然とした木々はなく、必然とあしらえた花畑のような小さな丘に月明かりが真っすぐに射している。息を吸えば新鮮な自然の脈動を感じることができる。花々の甘く、香しい風が鼻先をなでる。その心地が好きで足繫(あししげ)くこの場所に赴(おもむ)いている。

「ここならゆっくり話すこともできるでしょ?」

バーメイン少年は息を飲んで、全身でこの場所を体感していた。

そして大きな深呼吸を終えると、先ほどよりもスッキリした顔をしていた。

「教えてもらえるかな?」

「ああ」と答えて彼が懐から出してきたのは特殊軍事教練学校への入学を知らせる通知書であった。

「これは・・・?」

「どうやらあの人たちは是が非でも武勲(ぶくん)を立ててほしいようだ」

「・・・」

「一応、「魔法」専科ってことになっているらしい」

「よかったじゃん、「魔術」専科じゃなくても入学できるんだから。それにこの先「魔術」が出来ないとも限らないじゃない」

「本当に良かったって思うのかい?」

「そりゃ・・・」

私自身を振り返れば、前向きに考えていたとは到底言えない。むしろ、わからないまま自分の行く末が決まっていくようでなんだか嫌だ。

そんなエリナーの気持ちが言葉の歩みを止めた。

「僕はなんだか必要とされていない気がするんだ」

「誰から?」

「誰からもさ。自分への興味や絆は父親から与えられたもので、僕自身じゃあない」

「でも、友達がいるじゃない」

「どうだろ、果たして友達ってなんだろう。誰と誰のことを言うのかな」

バーメイン少年の語り口はエリナーへの疑問符ではなくて、まるで自分への問いかけのようである。

私はすぐに反論することができなかった。

「そうやって、意味を探す。違う、そうやって線引きしている限り君には分からないよ」

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

「・・・わからない。でも、私ならそれは成り行きに任せる」

「成り行き?自ら動かなくてどうするんだ」

「カタいなぁ。相手に自分のことを知ってもらうのって時間がかかるんだよ」

「どのくらい?」

「人による。一日だったり、一か月だったり、一年。もしかした十年かかるかもしれない」

「そんなにかかるものなのか」

「そんなにって!相手も意志があるんだよ、当たり前じゃん!もう」

「す、すまん。ってなんで俺が謝っている?というか、なんでこんなことを君と話している?」

「君が言い出したことじゃない」

「そうか。言い出したことついでにバーメインと呼んでくれ、できれば呼び捨てで」

「よろしくバーメイン君?」

「意地悪だな君―いや、グレンジャー」

「そこはエリナーでしょ!」

「それはお互い様」

それからしばらくお互いのここまでの経緯(いきさつ)や他愛のない話をした。体感覚20分、実時間一時間の閑話休題。

 エリナーの妹がバケツプリンに顔を突っ込んだ話をし終えたところで、バーメイン少年の表情が変わる。

「エリナー。僕は辛いよ。君とのこの他愛のない話なの中で、君の話は必ず誰かがいる。対して僕は僕のことばかり。本当、自分のことが嫌いだ」

「ウソばっかりついてるからだよ。自分のことが嫌い?そういう割には、僕が、僕がって自分のことばーっかり喋ってんじゃん」

「・・・!そうかもな。いや、そうなんだな」

「そうでしょ。そこを受け入れたら幸せまであと少しさ」

「幸せか、いいな」

「でしょー」

エリナーのその笑顔は何故か誇らしげだった。

「エリナー、君ならそうなんだろうな」

「・・? 何か煮え切らないなー。ハッキリ言いな」

「俺には幸せを手にすることより大事なものがある」

「何それ?私は知らないな」

少し強張った声にバーメイン少年は組んだ手を見るしかなかった。

「母親は俺が生まれてすぐ亡くなった。そこから父は人が変わった。冷たかったんだよ、本当に同じ血が通っているのかと信じられないほどの冷徹さ」

バーメイン少年の声は震え始めていた。当時のことでも思い出していたのだろうか。彼の瞳は鏡片のように過去を写しだしていた。

「その人が変わったというのも使用人の話だけどな・・・」

エリナーはただ静聴を保つ。

「俺がそのことを知るようになったのは入学式の時さ」

「入学式?」

「ああ、その時は父親もいたんだ」

「あー、確かに、式で喋っていたような気がする」

「式が終わって、解散になった時に俺は目にしたんだ。家族というものを」

当時、バーメイン少年の眼前にあったのは所謂「普通」というものだった。バーメイン少年はそれを初めて認知した。

「父親は式が終わるなり、どこかへ行った。まるで自分の子供を「認知」していないかのように」

 エリナーは何かが喉まで出かかったが、その何かに疑問を持ってしまったため、そのまま消沈させた。

「だからこそ俺は自分というものを、家族である父親ではなく他人に認めさせて・・・特別でありたかった。そうすれば―」

「そうすれば、誰かが特別に思ってくれると思ったの?」

「ああ!ああ、そうさ。でも俺は特別になれなかったのさ」

「それで逃げ出した」

「君と出会って思ったよ。やはり、特別な人間は生まれてくる環境から特別なのだと」

「私は、特別が何かは分からないよ」

今日に至って、バーメイン少年にも「特別」が何かは分からなくなっている。

「俺と君の相違点は一体何だろうか。俺は優秀で秀才で、カリスマ性もある!何が違うんだ」

「自画自賛過ぎない?私はね、やりたいようにしているだけ。他人がどう思うかなんて、その他人が決める事でしょ」

「でも―」

「でもじゃない!あんたはやりたいようにやりな!」

「そうか」と言ったバーメイン少年の表情は後に知られるバーメインの精鍛さをにじませて感じる優しい表情だった。彼が今まで纏っていた、どこか疎外感を感じるような見えぬ灰汁(あく)が徐々に薄れ、ヒト本来持つ素朴さが少しずつ見え始めた。霧が晴れるのではない。あたたかみを帯びて、水滴となり、いつかの養分になるのである。


2


 モヤモヤを抱えたまま、朝を迎えた。そのモヤモヤ故に夢を見た。過去であるが、すべてが事実であるかはわからない。どこか自分にとって良い捉え方をして記憶しているのではないかという疑念がある。だからこそ、今日はそれを確かめようと思う。

 第五戦闘科―最新鋭の技術や「魔法」の先端技術の兵器使用を重きに置いた学科である。

その第五戦闘科が使用する「四―13演習場」に来た。そこではバーメインを主軸とした部隊が演習を行っている。

「演習303開始」

どうやらちょうど演習が始まるところだった。

 バーメインは、特殊軍事教練学校へ入学してから印象が変わった。勇敢で仲間・教官に厚い信頼を置かれる人格者であり、優秀な「魔法」技術を駆使し、「魔術」にも引けをとらない実力をもった、逸材であった。

しかし、今エリナーの目の前にあるはそんな面影をも残さないほど残虐性をもった殺人鬼。

 放つ技は確実に標的を殺すような一撃。逃げ惑う部隊員を固められたかのような薄ら笑いで、追い詰めていく。一人は殴打した顔が、ひどく焼けただれて異臭を放つ死肉から白い固形をみせて立ち尽くす。一人は地に伏せて泡を口から漏らしている。そして尿までもが漏れ出て、やがて心筋もマヒし、死亡する。

彼が放っているのは「劇薬」を生成する「魔法」。拳や、弾丸に粘着性の「劇薬」を蓄えた被弾の衝撃で孵化する寄生虫(ナノマシン)を生成する。孵化した寄生虫(ナノマシン)は10秒と持たないが、その間に相手の皮膚または血液に侵入する。そこで息絶えると劇薬だけが残り、相手を死に至らしめる。それは神経毒による神経麻痺や皮膚の腐敗・炎症など、使用者の知識次第で生成される「劇毒」・「寄生虫(ナノマシン)」は種類を増していく。しかし、使用者の脳や身体的負担は大きい。事象を再現しているわけではなく、物体を生成する事象を再現しているため、生成材料は実在するもの使用するため非常に高度な「魔法」技術力が必要である。

 彼が持つ「魔法」技術の戦闘利用の技術(センス)と自衛無視の特攻的体術は目を見張るものがある。

それらを合わせた戦闘能力は「魔術」に迫るものがある。並みの「魔術」の使い手であればバーメインに勝てるものはそういない。

 しかし、特殊軍事教練学校で見せていたバーメインの戦い方とあまりにもかけ離れている。彼の戦い方は一人が圧倒的な力で虐殺するような個の力ではなく、味方を支援し、弱点を見極めて危険であれば、自らその危険な立ち回りを引き受ける。そんな勇敢と呼ぶにふさわしい戦い方であった。この少数精鋭が常識(セオリー)であるこの時代において、大々的に評価されることも功績を上げることもできない。ましてやこの戦術をもってしても小隊長として、小隊としての実力は最低ラインを少し上回る程度である。彼の戦い方では彼の父のように、英傑になることなどありえもしなかった話である。そしてこれが「魔法」と「魔術」の圧倒的な格差。そう、格が違うのである。

エリナーは直視できなかった。阿鼻叫喚の惨劇を目にして、眼前の光景を、過去に見た彼からの裏切りを。

 エリナーはしばらく目を伏せて、吐き気を抑えるために手に口を力強く抑えて、ただ汗が流れるのをただ感じる事しかできなった。

 肩を異物が接触する感覚があった。その異物に反応して全身の毛が逆立つ。血液が一気に脳に駆け上がってそのエネルギーの余熱が外に放出されようと顔が火照る。そしてその異物が生命物であって、エリナーの名前を呼んでいた人物だということに気づくが、うつむいたままその演習を足早に立ち去った。

今、思えば何度も自分のことを呼んでいたのだろう。そんなことに気づけないほど自分が動揺していたことと、そんなことが当たり前になっているという事実を何故直視していなかったのかという葛藤があった。


3


私に果たしてできるのだろうかという思念が、ふと脳裏をよぎる。この会場の雰囲気、見ているのと見せるのでは、見える景色が違う。この大舞台が奈落に迫る断崖絶壁のような恐怖と孤独感を作る。熱く滾ったはずの心中(しんちゅう)の灯が、奈落から吹く風によって今にも消えゆきそうになる。

肩を叩かれた。右肩の端を平手でかすめられた。

 「赤鬼」。身体的な特徴に赤を持ち、強大な戦闘力を持ち、その素行と共に恐れられる者達。間違いなくこの十年間で転入してきた中で最強といわれた部隊。その隊長カシマ・シュンシュウ。黒髪に一筋の刃傷のような赤が入っている。戦闘になるとだんだんと紅潮し、血よりも濃い赤髪へと変貌する。「魔法」の上位互換である「魔術」の一つ「神武術」の天才。約3Mもある大太刀と刀で戦う、歌舞伎のように派手で鬼のような男。

雑多な人ごみの中、彼に叩かれた。緊張を察したのか、ただ見知った顔を見つけたから挨拶しただけなのか、彼はそのまま往来の渦へと消え行った。

 私は思い出す。

カシマ・シュンシュウと呼ばれている男は確かに異物であったと。

 活気あふれる「商業区」を抜けて、見えない何かに囃し立てられるこの高揚感を抑えにカフェテリアになだれ込むように入店する。

 海岸沿いに設営されたこのカフェテリアはこの「総火演」が開催されてから毎年設営されており、「総火演」後の「音楽祭」において、有志によるライブパフォーマンスが行われる。

その中にはこの第一勢力が誇る歌姫:マリテレーズ・ブレニッケと思われる者や謎の人間(ヒューマン)

ピアニストなどが演奏し、出場した選手は戦った相手、ともに戦った仲間たちと踊りあかす。そこでしか見られない奇跡の夜を作り出す。それはあくまでも「総火演」後の話である。「総火演」開催中は「総火演」実行委員会運営のカフェテリアとして誰でも、気軽に来ることができる。

 カフェテリアの中心は円形劇場になっており、そこを「音楽祭」メインステージとしている。その大きな舞台の後ろは海に面している。そこからの半円形ですり鉢状に客席を囲み、ステージ前には踊る人々のためのスペースが用意されている。客席を登りきるとそこには昼はカフェテリアであったところが、夜にはお洒落なバーに変わっているのである。

 エリナーはため息をついた。

(去年までは友達と色々見て回ってけどなあ)

「総火演」の初日であるためこのカフェテリアはそれほど込み合ってはいない。もともと「音楽祭」のために作られたブースであるためかなり広い。そこそこな数が居るとは思うが何分(なにぶん)広い。なんだかこの人口密度の少なさが、余計自分の心を固く振り絞る。小さく固まったが心が自分に迫る様々な試練を思い出させる。

「大丈夫なのかなぁ」

気づいたら言葉が手元を離れて空へ飛んで行った。

(私の不安も飛んでいけばいいのに)

先日まであった火炎のような大火は今の自分の中にはない。せいぜいライターくらいなもんだ。気づくと家族からのメッセージを見返していた。外界の情報に触れたくない心が、骨伝導音波性の音声を最大まで上げる。しかし、何度見返しても。家族との記憶をたどっても再点火することはなかった。

(・・・やっぱり)

私には家族との夢よりもあいつ(バーメイン)の持つ夢が私を熱くする。私はあの日に彼が見た夢を後追いしてきたんだ。私の中ではあいつは特別になっていたんだ。

後に私(エリナー)はこのことが少し違っていることに気づいたのである。

 それからエリナーは一度断った友達との「総火演」を楽しむという、毎年行っていた「総火演」の楽しみ方へシフトチェンジして友達に連絡を取り、初日は楽しく過ごしたのである。

エリナーは考えたのだ。今まで何となくこの島に居続けていたが、何でこの島に来たのか、何でこの第一勢力に来たのかというごく初歩的な動機(モチベーション)の再確認。


「俺には父親のような英傑になりたい。だけどそれよりも叶えたいユメがあるんだ」

バーメイン少年は焦点に、眩いが温かみのある光を当てた真っすぐな瞳で語る。エリナーはそれが二人を照らす月光と重なって見えた。

「どんなユメ?」

バーメインは答えた。それは彼女とは違う夢や幸せの形だった。しかし、同時に気づいたのだ、私たちにはたった一つの共通点があったである。観測地点彼女達(エリナーとバーメイン)において普通じゃなかったことだ。

だからこそ、リカイすることができた。だからこそ、私だけがこの言葉を言うことができた。

「大丈夫、叶うよ!」


私は夢の続きを思い出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。