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世界よ、鬼がまかり通る!!!  作者: 西岡怜伽
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第五話:総火演よ、鬼がまかり通る!!! 1

「えっとー、エリナーさん。バーメインを知ってるのか?」

「うん、幼馴染!」

「そうか、どんなやつだった?」

「うーん。よくは知らないんだけど、お父さんがなんかすごい人で」

(この子、ざっくりしてんな)

「でもそのことを傘に着ずに、誰にでも優しい。だからいつも誰か周りにいたなぁー」

「生まれつき強力な「魔術」が使えたり、優れた「魔法」技術の開発・研究・行使することができるようなやつだったか?」

「逆に、俺はダメダメだからもっと努力しなきゃって、いつもがんばってたなあ。なんか、お父さんが持つ「魔術」を引き継ぐことができなかったって言ってたから、余計頑張ってたのかもね」

「ロゴジンさんとは仲良しなんですね」

「どうだろ。進学するにつれ段々と疎遠になったし、卒業過程二年くらい早めに終わらせて、割とすぐに戦場に行っちゃったからねー。何ともって感じ」

「最近、会ったか?」

「一回ね。こっち(第一勢力)で一方的に見たくらいだったかな」

それからいくつかの質問をした後、思慮にふけるシュンシュウ達。エリナーが頼んでいたアイスコーヒーを店主自ら配膳する。

「ねぇなんでバーメインのこといっぱい聞くの?」

「えーっと。あのーな、イツキ?」

(なんで私に振るのよ)

(いや、なんか目が合ったから)

(・・・仕方ないわね)

イツキは姿勢を正し、いつになく真剣な表情でエリナーの眼をしっかりと捉える。

「実は・・・」

「じつは・・・?」

「・・・シュンシュウが気になるって」

「えっ?」

「えっっ!?」

シュンシュウとエリナーは目を合わせるように向き合った。

「あ、シュンシュウ君も実は・・・」

(おいィ!イツキのせいで変な勘違えしてるじゃねぇか!)

「・・・違うの?」

エリナーのその碧い瞳は無垢な、純粋で、そして、何か大切なものを見つけた時のような輝く瞳がシュンシュウを見つめる。

その様子見た誰か、おそらくだが男物の履物でシュンシュウをすね辺りを小突かれる。

「あー、そのーまあね」

しばらくの沈黙が店内を独占する。会話の間で空を切るように流れる店内BGMの存在に気づく。

「・・・なるほどねー。ま、あっちは戦闘四科だから、そういうのは「総火演」のあとがいいかもね」

「それもそうだな」

「もうすぐ「総火演」。こっちに来て初めて出場だから、私頑張りたいんだ。家族にカッコイイところ見せたいしね」

そしてルチアと少し話をして、シュンシュウ達に軽く挨拶をしてエリナーは喫茶店を出て行った。

 「シュンシュウ、ウソばれてたね」

「ま、色々察してくれてると助かるな。ルチア、フォロー頼む」

ルチアは肯定を意味するように首を縦に振った。

「キンヤ、警備隊として聞くがどう思った?」

「話を聞く限りでは、優男って感じだな。まあこういうやつに限って、どす黒い闇を抱えていたりするわけだが」

「戦場で見たバーメインのイメージとはかけ離れている」

「ロングが言うこととジャンカルロの映像が事実だとすれば、今回の新人対抗戦で注目(フォーカス)されるのはバーメインだろうな」

「どうして、キンヤ?」

「内偵任務の白紙とこの「総火演」の構造を考えれば、強力な戦力としてのバーメイン。もしくは新たな「魔法」技術としての兵器による他勢力への牽制になるからな」

「・・・」

「イツキ、意味わかってないだろ」

「えっと、イツキさん。わかりやすく言うと、「魔法」「魔術」の行使をする自立型兵器がない現在です。そんな中、機械的に動く「魔法」を使う自立型兵器の集団が現れたら・・・?」

「ヤバいじゃん!」

「ま、そういうこと」

「でもさ、エリナーちゃんはこういう八百長?っていうの、知らずに「総火演」頑張ろうとしてるんだよね」

「そうだな、エリナーさんだけじゃねぇ、大抵のやつらがそうだろ。にしてもやけに張り切っている印象を受けたけどな」

するとルチアが固く閉じた口を開いた。



  私はこの頃、話題に上がり続ける問題児達「赤鬼」と呼ばれる彼らを少し懐疑的に見ていることが多い。それはただ問題行動や奇行といった、騒動の数々の裏には何かあったのではないのかと思っている。しかし、私に届きうる情報には彼らが悪であるかのようなものばかりである。それほど彼らとの距離を考えれば、遠くはない。むしろ、近いとも言える。彼らの中に友達のような人物がいるからだ。ようなと言う言い方をするのはまた、彼女もその騒動達の中で中心人物として名前をよく聞き、知らぬ彼女の重要な側面を隠していると感じているからだ。さらには、彼らの輪の中に新たな人物が加わった。

 そして私はこの「総火演」においても何か起きるのではないのかと考えている。そんな最中、彼らがバーメインの名前を出したのである。だから、私はたまらず声をかけたのであった。

 私はあの時に声をかけてよかったと今となっては思う。しかしあの時の私は、そうは考えることができなかったのである。

 私はカシマ・シュンシュウという男の嘘を見抜いた後に、ルチアと会話をした。彼女に何故あんな嘘をついているのかとさりげなく、そしてしっかりと知りたいという意志(ニュアンス)を込めた言葉を放ったが、彼女は断言することはなかった。

そのまま、彼らに軽く挨拶をしてこの場を去ったのである。

 私は床に就いた。すべての身体のメンテナンスを済ませ、自動的に美容型に算出された、完璧な栄養バランスの食事をとった。半身浴もした。しかし、スッキリすることもなければ、安心して明日を迎ようという気持ちにもなれなかった。気が付けばあの頃のことばかり考える。もうすぐ最後の「総火演」が迫っている。こんな大事な時に限って、なぜこんな気持ちになるのだろう。

 私は思い出すあの頃を。


エルビス・グレンジャー。今となっては聞きなじみがない。しかし私の名前だ。この名前で呼ばれたり、名乗っているところを両親に聞かれるところを想像すると、胸の中で悲しみの湖が少し突沸するが、エリナーと私は名乗る。

 私は、現在の第一勢力領土の北部にある牧場を営む両親の第一子として生まれた。そして私には五人の兄弟ができた。学校に行き始めた頃、自分自身に違和感を覚え始めた。他の同学年子や歳の近い子にも何人かいた。性別の不一致である。性同一性障害であると診断された場合、「魔術」によって心に見合った肉体を手にすることができる。みんなが施術をしていく中で、私は「いやだ!」と高らかに拒否した。

自分の中での葛藤もあった。他人との価値観の相違や世論とぶつかることもあった。しかし、理解者も現れ始め、楽しく学校生活を送れていた。楽しかったと今、振り返ってみるとそう断言できる。

そして一つ目の人生の大きな分岐点に立つ。それは私個人の分岐点という意味ではなく、この時代におけるすべての者たちにとっての(おおやけ)な分岐点。「魔法」及び「魔術」適正検査である。これは「魔法」「魔術」の情操教育を経た後、このまま一般教育を受け続けるか、特殊軍事教練学校という戦場にして聖地である学術文化交流諸島への進学するための訓練校に進学するかを決める目安のための数値化する一斉検査である。

この結果如何(いかん)では、人生を180度変えてしまう、というのが世間一般の認識である。

 私はこの検査に対して、それほど期待していなかった。確かに、子供ながらに英雄と称される者たちが映る「総火演」にこころ動かされていたし、もしかしたらという気持ちがあったかもしれない。しかし、生活に必要な「魔法」技術を用いて使用する家電は使いこなせていたし、家族みんなで楽しく、牧場で暮らすのもいいのではないかという願望に支配されていた。

私はその日、未だ解析されていない系譜の「魔術」の適正値が同学年の中では非常に高く出た。

この日この地域だけでなく、近隣にある都市や地域とも合同で行っていた。

かなりの人数がいたように思えるその会場において、「魔法」の適正が高い者が出ることは稀ではなかった。しかし、「魔術」の適正者が出る頻度は、十年に一人程度である。「魔術」における適正は、基本的には血により継承されていく。「魔術」は継承して使うものではなく、修練と修学によって扱えるものである。適性だけがすべてではない。現に「魔術」の一つである「神武術」は武器と修練、感覚さえあれば誰でも使える代物である。

現在、認知されている「魔術」と呼ばれる「七術」はすべて、条件がそろえば誰でも扱えるものである、理論上ではあるが。

では、適正とは何か。それは、その家が代々受け継いできたものが存在する。代々その「魔術」の行使するための手順、修練を継承していくことで、その能力が継承されていきそれが適正という形で出現する。

つまり、「魔術」は誰もが使えるものでありながら、使い方を一部の者達だけが知っているということである。

その日、その検査会において衝撃が走った。名も知れぬ家の子が「魔術」の適正を出したということではなく、先の大戦で名将と呼ばれた男の息子の適正が、あまりにも低かったのである。その名将、かつてはこのあたりの顔役であった。しかし停戦後、帰ってきてからというものの人が変わったように冷淡で自分の一人息子に対しても冷遇していたという。母に聞いたところ、停戦と同時期に腹いせに妻を暗殺されたそうだ。不死をかいくぐる暗殺。組織だったことだという見解が一般的だと、そして犯人も断定されていないことも後に知った。

戦々恐々とした空気感の中、検査会は終了した。

その夜、両親に何故自分に「魔術」の適正があるのか聞いてみたが、父母ともに何もわからないといった具合だった。よく状況が呑み込めないまま、私は特殊軍事教練学校へと進学が決定した。

 翌日は、家族総出でお祝いとなった。いつもより奮発した晩餐、みんなの憧れでもある「総火演」の出場の可能性があることを父が話したことによる兄弟たちの興奮。ただの休日がなんだか浮ついて落ち着かない。何となくその雰囲気に居たくない自分がいた。

 深き夜。私は自室の窓からただ(くう)をみていた。

何を考えていたのだろうか、見慣れた干し草でも、いや月夜に漂う白鳥か。

振り返れば、思い出せない。今は何も考えていなかったとしか感じられない。

確かその時に彼と出会ったんだ。身もこころも草臥れ(くたびれ)きった少年バーメインと。




ルチアの長く伸ばした前髪。その影がより深く感じられた。

「エリナーさんは今回「総火演」とても張り切っています」

ルチアの声は軽やかな印象である。緑の生い茂る樹海の朝、生命の中を流れる渓流の沐浴のようである。強くはない、しかし芯はとても太く根深い。彼女を体しているようである。

激流。そう感じるのは大げさだろうか。今の言の葉には、なぜかそのように感じる私がいた。

 彼女の声を聴いた面々も静かに彼女へ向いた。

「エリナーさんはこれが最後になるそうなんです」

「最後って「総火演」?」

「そうです。最後と言っても、最初で最後だそうです」

「別に第一だけじゃなくなっても「総火演」はつづくだろ」

ルチアはキンヤを真っすぐ見つめた。その眼に濁りはない。

「エリナーさんはとある系統の「魔術」に適正。つまり精通している可能性があるとして、この第一勢力に研究対象兼生徒として来島しています」

「それじゃあ、研究は済んでその「魔術」は解析済みでお払い箱ってことか」

ルチアは固唾を飲んだ。

「違います。わからなかったんです。結果、大した「魔術」ではなく、研究に充てる費用がもったいないと、今期でこの島を去ることになっているそうです」

確かにエリナーことエルビス・グレンジャーは戦闘員向きとは評価されていない。人柄がよく、真面目で努力家。つまり、この島においてはただのヒト。第一勢力公募の義勇兵にも参加せず、「総火演」での成果はない。しかし、この英傑が闊歩する最前線(ここ)では一般人以下ということである。このくらいの者はいくらでもいる。このようにして何も残せずに去り行く者達も少なくはない。非常なようであるが、これが常識(セオリー)である。

ロングはこの虚を埋めるように、ルチアを(さと)すように語りかけた。

「別にエリナーさんだけが特別ってわけじゃないだろう。どうしてそんなに必死なんだ?」

ルチアは自分が必至であるということを自覚しておらず、その証拠に肩を上げて、瞳孔をすべて見せるべく開眼している。

「エリナーさんは遠く北の大地出身で、6人兄弟の長子として生まれました。偶然受けた適正検査で「魔術」の適正があるとわかり、特殊軍事教練学校を修了して現在に至るといいます。彼女は家族に「総火演」で活躍すると約束して家を出てきたそうです」

「ルチアさんでも・・・」

イツキは続きを言うことはなかった。八百長であるということを。

「エリナーさんは男性の体で生まれながら、女性として生まれました。しかし両親にもらった体だからと施術を拒否し続けたそうです。当然、「適化」もしていません。家族思いで優しい彼女の努力が、夢や大切な人との約束が報われないのは、私は、許せない」

ルチアは思いのたけを吐き切るとうつむいてしまった。まるでばつの悪い子供のようだ。

「私は、この間皆さん、特にシュンシュウさんに助けていただいたばかりです。何にもお返しできていません。そんな私ですけれど、エリナーさんにはできるだけ良い結果でこの島を去ってほしいんです」

シュンシュウは彼女の瞳は真っすぐ見るようになったと感じた。願望や欲望を持っていても体の芯に隠して生きてきた彼女が、自分の願いに気づいて叶ったのがついこの間である。

ロングは「シュンシュウ。俺からも頼む」とでも言おうとしたのだろう。

「任せろ、絶対に大丈夫」

シュンシュウの答えはロングの言葉を遮ってしまった。

イツキは穏やかな微笑(ほほえみ)でシュンシュウを見ている。

「なんだよイツキ。ニヤニヤしやがって」

「あれから心配してんだけどね・・・よかった」

キンヤはシュンシュウの髪をクシャっと撫でて「あの頃みたいだってことだ」と言って、立ち上がった。

「キンヤどこ行くんだよ?」

「シュンシュウがやる気になったんだ色々と準備しねえとな」

その場にいた面々に背を向けたまま、右手をあげて店を出た。

「何をカッコつけて、会計押し付けているんだよ」

 シュンシュウとジャンカルロ以外は帰宅の準備を始めていた。

「シュンシュウさん。・・・あの、ありがとうございます。この間のこともこのことも」

「まあ、下手に断ったらロングに何されるかわからないしな。前のことも気にすんな、あいつに大きなカリってことになってるからよ」

「下手に断ったら・・・フフッそうですね」

ルチア安心した表情で帰っていった。


 先ほどまでとは違う空気感の静寂がこの店内を支配する。

この場所にはシュンシュウとジャンカルロがカウンターに腰かけているのみ。

「シュンシュウさんよ。もう誰にも聞かれやしないぜ」

「フンッ。嘘ついてんじゃねーよ」

シュンシュウは店員呼ぶためのメニュー横にあるベル鳴らした。するとカウンターの奥から暖簾(のれん)を割くように店主が現れる。

「どうかしましたかお客様?」

「どうかしましたか?以外にも役者らしいな」

「はい?」

「一か月前に見た時はそんな風には見えなかったがな」

すると店主はとある種類「魔法」特有の発光に包まれる。初老店主から若々しい女性エルフに変わっていく。

「さすが、カシマ様。よくわかりましたね」

「この男を騙したいのなら、表面ではなく中身(たましい)を隠すべきだね。ま、無理だけど」

「それで何の用だ?俺に惚れでもしたか」

「フフフ。そうかもしれませんね。でも、今日用があるのは私ではなく、我が主です」

すると再びカウンターの奥から一人の男が現れる。

「おいおい。これはまた珍客っていうか、こんなところに来ていいのかよ」

「改めて、この四人で作戦会議といこうか」


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