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18.記者会見

補給ステーションの重力ブロックで最も大きな部屋を、埋め尽くすように記者がいた。

実際埋め尽くしていたわけではないのだが、エリにはそう見えた。

その記者のほぼ全員が、今回の主役であるエリを注視する中、ガチガチに緊張したエリが、まるでロボットのような動きで部屋に入ってきて会見席に着いた、日本の記者もいる、まずい、家族や知人は英語の記事を、翻訳してまで読む人はいないので、今まで知られることはなかったが、今度は日本語で報道される。

エリは高校時代に入っていた陸上部で、レギュラーメンバーとして全国大会に出場することが決まったときの事を思い出した。

あの時は村のあちこちに「祝、岸川恵理さん全国大会出場」と書かれた横断幕が掲げられ、エリは村で知らない人がいないほどの有名人になってしまった、さらに大会出場のため上京する際、空港に向かうバスに乗り込むときには、それこそ村人総出で万歳三唱までした、あんな恥ずかしい思いはしたくなかった。

「東亜日報の村上です、キシカワ少佐は史上最年少の艦長となられた訳ですが、今のお気持ちを聞かせてください」

頭が真っ白で何を答えていいかまだ混乱していると、

エリたちが座っている席のテーブルの上の、記者からは見えないように置かれた表示装置に、文字が表示された。

画面にはこう表示されている

[歴史ある宇宙軍の艦長として勤務する栄誉に身が引き締まる思いです]

どうやらこの通りに話せということらしい。

「大変責任ある任務を任され身が引き締まる思いです」

表示されたままに答えるのは、あんまりだろうと思って少し内容を変えて答える。


「欧州通信のポールマッケイです、今回は極端に戦力差がある戦闘だった訳ですが、新鋭戦艦の性能を見る限り、最初の中央突破をした後、セバストポリ要塞方面へ真直ぐ逃げる選択肢もあったと思うのですが、なぜそれをしなかったのでしょうか?」

戦艦アルバトロスは機関が大幅に改良されていて、その加速率は巡洋艦並みである、実際より控えめに発表されているデータですら、敵艦隊を振り切ることが出来る性能があるのだが、エリたちがそれをしなかったのは別に理由がある。

地球連邦に比べ、あらゆる面で劣勢の小惑星連合だが、ステルス技術だけは地球連邦の数年先を行っているのだ、小惑星連合が地球連合相手に現在も戦線を維持していられるのはそういった理由による。

そのステルス性能は、ある程度距離を置いて、機関を停止していれば、それがたとえ艦隊規模であっても、非常に発見は難しいといわれている。

そのため今までの経験から、逃げようとした場所に、敵が待ち伏せしている可能性が非常に高いため、逃げるという行為自体が危険なのだ。

しかしこの事は一応、軍事機密なので記者会見でそんな事を言うわけにはいかない、いきなり難しい質問が出てしまった。

(どうしよう)

エリが答えを考えていると、また表示装置に文章が現れた、どうやらこれを話せということらしい、内容は以下の通り。

[地球連邦の軍人たるもの撤退などは考えませんでした、私は軍人になったときから、この命は国家にささげ…]

途中まで黙読してうんざりしてきた、火星と戦争していた時代ならともかく、今時こんな前時代的な言い方をする人はいない。

その時、横で記者会見の内容を記録していたサラが、自分の方向にしか見えないように表示させていた端末の画面をエリの角度にも開放させた、画面を見ると日本語でサラが考えたらしい文章が表示されていた、読んでみるとこちらの方がよさそうだったので、そのまま答えることにした。

「作戦の詳細については、私の立場では詳しく申し上げることは出来ません、軍の官報などに先頭の詳細が書かれていますので、そちらを参照してください」

なるほど、考えてみれば軍事的なことに関しては、機密なので話せる立場にないのだと言って通せばいいのだ、少し気分が楽になった。

「こちらの指示通りに答えてください」

耳につけたレシーバーから、広報担当士官の抗議が聞こえてくるが、とりあえずエリは聞こえない振りをして会見を続ける。

軍事的な内容が聞き出せないと悟った記者たちはその手の質問を諦めその後の会見はエリの個人的な話や軍での生活などの質問になった。

「終了時間になりましたので、次の質問で記者会見を終了したいと思います」

20分ほど記者の質問が続いた後、軍の報道官が現れて現場の記者たちに、もうすぐ記者会見の時間が終わることを告げた

「マーズプレスのコルム アカレです」

最後の質問は、地球と小惑星連合の戦いに対して、中立的な立場をとり続ける火星のメディアの記者だった。

火星は前回の大戦で地球連邦から独立を勝ち取ったが、地球側からの経済的な制裁が、今も続いているため、小惑星連合との貿易もやめる訳にはいかない事情がある。

地球側も建前としては、地球側に付くように火星政府に圧力をかけているが、交渉や捕虜の交換などを、中立国を介して行う方が都合がいい場合もあるため、火星の中立的立場を容認している。

「今回戦った小惑星連合について、どう思われますか?」

記者の質問が微妙な言い回しだったので、サラも軍の広報担当官もこの質問が、今回の戦った敵艦隊についてなのか、それとも小惑星連合そのものについてなのか判断がつかず、戸惑ってしまった。

なかなか答えの例が表示されなくて困ったのはエリだ、周りを見回すと記者の方々が黙ってエリの言葉を待っている。

「えー、そ、そうですね、私は敵も味方も両方に善意があって、どちらもその善意のために、戦っているんじゃないかなって思っています、だから私は敵に対して、別に何の感想もなくて、ただその善意のために私の大切な人たちが死ぬのは嫌なので、そのために全力を尽くすつもりです」

途中でエリ自身も、何を言っているのかわからなくなってきたが、強引に話をまとめ、回答を終えた。

最後の質問が終わり、広報担当官が記者会見の終了を告げると、エリたちは会場を後にした、ドアが開くとそこには外から指示を出していた、広報担当士官が立っていた。

「キシカワ少佐、こちらの指示通りに答えて頂くように、事前に申し上げたはずですが」

エリの方が階級が上なので、口調こそ丁寧だが、明らかに怒っている感じだった

エリの額に冷や汗が出る

「まあいいじゃないか、無事に終わったことだし、何が何でも段取りどおりにしなくてはいけない物でもないだろう」

声の主は、記者会見会場で先に入って、記者たちの質問に答えていた、第一艦隊の幹部将校とその参謀だった。

広報担当士官も、さすがに将官には逆らえず、その場を後にする。

「初めての記者会見にしては、上出来だったよ、キシカワ少佐」

「恐れ入ります」

エリとサラは敬礼する

「私は、第一艦隊警備部カール ルッツェ准将だ、君たちの艦は私の指揮下に入ってもらう事になっている、これからよろしく頼むよ」

准将は軽くエリたちに答礼した、エリたちは敬礼したまま姿勢を正す

「宜しくお願いいたします」

「今からこのシェリング大尉が、君達の艦を案内する、わからない事はとりあえず彼から聞きたまえ、それでは私はこれで失礼するよ」

そう言うとルッツェ准将は去っていった

「オットー シェリング大尉です、お会いできて光栄です」

准将の横にいた、生真面目そうな男性士官が自己紹介する

「それではこちらへ、ドックまでご案内します」

経験もろくに無い自分が、いよいよ艦長になってしまう、何ともいえない重く不安な気持ちになっていくエリだった。

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