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13.家族旅行

エリ達の休暇が始まり1週間が過ぎようとしていた、エリの実家のある村は山の中にあるために、早朝は少し肌寒いぐらいになる、まだ朝霧が立ち込める中、昨日サラと話をした小川の横の道を、エリは一人で歩いていた。

小川に架かる小さな石橋を渡ると、岸川家の墓のある墓地に出る、元々は大きな寺の裏にあった墓地なのだが、住職のあとを継ぐものがいなかったため、今では墓地だけになっている。

入り口の所に立てかけられた、バケツや箒を手に取ると、エリは岸川家の墓の掃除を始めた、8月とはいえまだ朝早くのため、墓地に人影はない。

墓の掃除が終わり、庭で摘んで来た菊の花をさして、手を合わせる。

いつも父と母の墓でエリが思うのは、いつも親への謝罪の言葉だった、

(そんな簡単に割りきれないよ...)

サラがいくらエリは悪くないと言っても、エリはまだ自分が許せないでいた。


エリが墓参りを終えて帰ろうと出口まで来ると声をかけられた

「岸川恵理さんでしょうか?」

年齢は30代後半といったところだろうか、ワイシャツにネクタイ姿の男が、墓地の手前の橋の上に立っていた。

「はいそうですが、あなたは?」

「あ、失礼いたしました、私こういう者です」

そう言うと男は懐から名刺を取り出しエリに渡す、名刺には「南国日報 記者 大野一馬」と書いてあった

「是非、英雄のお話を聞かせていただきたいと思いまして」

エリは内心しまったと思ったが、肯定してしまった以上、誤魔化す事も出来ない。

「今は休暇中なので、取材はお断りします、休暇後に記者会見をすると思いますので、その時に詳しくお話します」

記者会見という話は出まかせだが、恐らく軍の宣伝に使われる以上、何らかの形でそういった場が作られるはずだ。

「そんな、ウチみたいな弱小地方紙が、そんな記者会見になんか出れませんよ、何とかお話聞かせてもらえませんか?」

記者はなおも食い下がった、何とか他社に先駆けて、スクープを物にしたいらしい。

「失礼します」

エリは記者の懇願を無視して走って逃げていった。

家に帰ると閉めた扉を背にエリは荒れた息を整えていた

「どうしたんですか?」

慌てて帰ってきたエリを見かけたサラが声をかける

「サラちゃん、これ」

全力で走ってきたため、まだ息が苦しいので、とりあえずさっきの記者の名刺をサラに見せる。

「南国日報 大野一馬、地元紙の記者ですか...どこでこれを?」

エリからもらった名刺の裏表をサラが見て驚いた表情で尋ねる

「さっきお墓のところで、その人から声かけられて...どうしよう、私その人に本人だって知られちゃった」

ようやく呼吸が落ち着いたエリが、さっきのことを話し出した。

「とりあえず、今日はここに居ない方がいいと思います、エリさんのご家族も何とか一緒に連れ出す事はできますか?」

「今日は、みんなで町に買出しに行く予定だったから、ちょっと遠くのショッピングモールに行けば、みんなを一日中連れ出せると思う」

「わかりました、私は車を用意しますから、エリさんは準備をしておいてください」

サラは早速、車の手配を始めた、お爺さんお婆さんを入れると8人の大人数なので、少し大きめの車を手配することにした。

自分たちのことで、家族に迷惑をかけることはしたくない、エリはその一心で家族を説得していた。

車の手配を終えて、レンタカー業者から自動運転の車が、こちらに向かっているのを確認して居間に戻ると、エリの説得の成果にサラは驚いた。

何しろ、近くの町のスーパーでの買出しでいいと言う、お爺さんとお婆さんを、説得するどころか、街のショピングモールで買い物の上に、一泊の温泉旅行まで追加していたのだ。

「さしかぶいの温泉やね」

「じゃっどなー」

そんな事を言いながら、お爺さんとお婆さんは、着ていく服を選んでいた。

賢治と由真も久しぶりの旅行ではしゃいでいたが、隼人と彩は何となく複雑な気持ちだった。

「ねーちゃん、急に旅行なんて、どうしたんだよ?」

「ん、別にいいでしょ、何か予定でもあったの?」

何しろ2日前にあんな事があったばかりだ、隼人も彩も急な話に戸惑っていた。

「いや、別に何も無いけどさ、でもちょっと急すぎない?」

「気分転換よ、いい若い者が、家に閉じ篭っているなんて、不健康極まりないでしょ?」

「自分でそれを言うか...」

姉の勢いに、違和感を感じながらも、気分転換になるならいいかと、二人は納得することにした。

車が到着して1時間ほどたった頃、準備を終えた岸川家の一同が家から出てきた。

普段着ている服とあまり変わらない格好のエリと隼人と賢治、少しだけお洒落な服を着てきた彩、そしてその後ろを、めいいっぱいお洒落をした由真とお爺さんお婆さんが歩いて出てきた。

「皆さん乗りましたか?では出発しますよ」

誰よりも早く準備を終え、車の運転席に座ったサラが、まるでバスツアーの添乗員のように皆に確認すると、走行ボタンを押して車を発進させた、自動運転の車なので、運転席に座っているが、目的地まで運転する必要は無い。

「指宿温泉に行くんだ」

ディスプレイに表示された目的地を助手席のエリが覗き込む。

「ええ、ここには軍の保養施設がありますから、そこへ向かいます」

「大丈夫なの?」

「ええ、軍の関係者の家族でしたら利用可能です、それにセキュリティも軍の施設なみですので...」

「いや、そうじゃなくて...」

エリが聞きたかったのは、こういった公的な施設は建物がやたらと古かったり、サービス的に難ありな所が多いので大丈夫なのか、という意味で言ったのだが、考えてみればこれは家族に迷惑をかけないための緊急措置として出かけるのであって、少しぐらいサービスに問題があるのは仕方ないことなのだ。


宿泊先の施設に着いたエリ達は、呆然として宿を眺めていた。

「エリねえ、本当にここなの?」

「え?た、多分...」

目の前にあるのは、隣にある高級リゾートホテルと遜色ないような立派な建物だ、巨大な屋外プールに、海に面した建物の前には、宿泊者専用のビーチまであり、宿泊客が日光浴を楽しんでいる、さらに一階のフロアにはカフェや有名ブランドの店もいくつか出展している商業施設まであった。

何度かエリも出張で利用した事がある他の場所の保養施設とは全く別物といっていい施設だった。

「間違いありません」

サラの言う事だから間違いはないと思うのだが、つい聞いてしまう。

「軍の保養施設だよね?」

「そうです」

サラが当然といった感じで答える

「ほかの保養施設と同じ料金でいいんだよね?」

軍専用の保養施設は、関係者とその家族なら誰でも、通常の相場の3割ほどの料金で宿泊できる。

「もちろんです」

豪華で広々とした吹き抜けのエントランスホールにあるカウンターでチェックインを済ませると、ベルボーイが荷物を持ち部屋まで案内した。

こんな所に宿泊した事のない岸川家の一行は終始落ち着かない様子だった。

ベルボーイが案内した部屋は、7階フロアの3部屋だった。

「うわ、すげー」

「きれー」

賢治と由真ははしゃいで窓に駆け寄る、大きな窓とテラスがある部屋からは、美しい砂浜と、鹿児島湾を行き交う船が一望できた。

「何でこの宿泊費で、こんなに豪華なの?」

「ここは軍の不祥事で色々と話題になった所ですから、他と比べるとかなり良い作りになっています、もうすぐ民間に払い下げられるはずですが、今はまだ軍の施設という事になっていますので、遠慮なく楽しんでください」

エリもその話は聞いた事がある、軍の保養施設を作る際に、収賄などで主計担当幹部が、何人か逮捕された事件があった、現在その施設は軍の保養施設では採算が合わないと試算されているので、民間に競売に出ているという話しを聞いたことがあったが、まさかここだったとは知らなかった。

格安で泊まれるのは有難いが、そんな事情のある宿泊施設に泊まるのは、何となく複雑な気分だ。

「彩ねーちゃん、プール行こう」

「あーこんな事なら水着もってくれば良かったー!」

「エリおねーちゃん、下の店で水着買っちゃだめ?」


(...まあいいか)

嬉しそうな妹たちを見てエリはそう思った

「この金額までだからね、ちゃんと選んで買うのよ」

彩の情報端末に金額の上限を設定した支払いデータを転送するとエリは彩に念を押す。

「ありがとうエリねぇ、じゃあ行って来るね」

元気に飛び出した彩を先頭に、お爺さんお婆さんを含む岸川家一同は部屋を出て行った。

「サラちゃん、どうしたの?」

部屋にはエリとサラだけが残される、サラを見ると真剣な顔で考え込んでいた。

気になってエリが話しかける

「エリさん、お話したいことがあります、今朝エリさんが会った記者のことなんですが」

朝会った記者の顔が思いだされる

「南国日報に照会したところ、大野一馬という記者は現在、海外出張中だうです」

「...え、どういう事?」

「エリさんが今朝会った大野一馬という記者は、偽者の可能性があります、実はエリさんたちを連れ出したのは、家族に危険が及ぶ可能性を考えたからです」

エリは血の気が引くような思いだった、危険など考えもしなかった、サラに相談したのは、南国日報以外の記者もやって来る可能性を考えてのことだった。

「もし偽者だとしたら、いったいあの人は誰なんですか?」

エリが質問するとサラは、今朝もらった記者の名刺を取り出した

「これを読み込んでみて下さい」

企業の名刺には、会社の宣伝や連絡先などのデータが、埋め込まれていることが多い、エリは自分の情報端末で名刺をスキャンしてみた。

「サラちゃん、すぐに車を出してきて」

表示された文章を見て、エリはすぐにサラに指示をした。

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