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「おーい地球人、プロレスしようぜ!」  作者: 鶏の照焼
第二章 ~勇者ロボ「タムリン」登場~
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「勇者ロボ参上!」

 益田浩一はアメリカ人の母親と日本人の父親の間に産まれたハーフであり、外見と性格で損をしている人間だった。

 彼は曲がったことの許せない真っ直ぐな心を持ち、困っている人を見かけたら放ってはおけない性分であった。しかし母親譲りの金髪と父親譲りの吊り上がった目が、彼の第一印象を不良のそれと同じ物にしていた。元々口数が少なく、いつもどこか怠そうにしていたのも印象をマイナスにしていた。


「めんどくせえ」


 前に教師から矯正するよう指導を受けた事もあったが、浩一はそう言って相手の提案を一蹴した。その教師が自分の金髪を通して母親を侮辱したからだ。目の前の豚に従うつもりはさらさら無かった。

 同時に浩一は自分で見た物しか信じないタイプでもあった。他人の言葉には惑わされない、よく言えばブレない、悪く言えば意固地な性格であった。これもまた彼の印象を悪くしており、D組送りになった原因の一つであった。


「なんでそんな事やらなくちゃいけないんすか」


 学園のルールに従うよう執行委員に詰め寄られた時の浩一の返答がこれである。当然その場で物理的制裁を食らったのだが、浩一はそれでも自分を曲げなかった。

 しかしそれは逆に言えばそれはどれだけ非現実的な物であっても、それが目の前に存在して、自分でハッキリとそれを認識できるのならば、浩一はそれがどんなものであろうとあっさりと受け入れた。このわかりやすいスタンスもまた母親譲りであった。


「お願い、助けてほしいの! 私の話を聞いて!」


 だから浩一はある日学校から自宅に帰ってきて自分の部屋に戻った際、自分の使っている学習机の上に妖精が座っていたのを目にしても、驚くことこそあれどその存在を全否定したりはしなかった。


「そんな事が起きてるのか。で、具体的には誰が何をしようとしてるんだ?」


 彼はそのソレアリィと名乗る妖精の話を疑うことなく、あっさりと全て信じたのだった。


「……私の話を信じるの?」

「ああ」

「全部?」

「ああ」

「なんでそんな簡単に決められるのよ」

「だってお前、今ここにちゃんといるだろ。いるならその話も信じるしかないだろうが」


 ダメもとで話したら全部信じると言ってきた人間を前にして目を丸くするソレアリィに対し、浩一は彼女の頬を指先でつつきながらそう答えた。


「だろ?」

「それはまあ、そうだけど……本当に信じてくれるのね?」

「ああ。何度も言わせんな」

「そ、そう。じゃあ本題入るね。私のお願い、聞いてくれる?」

「お願い? なんだよ」


 指から離れ、瞳を輝かせて問いかけてくるソレアリィに浩一が尋ね返す。そんな浩一にソレアリィが嬉々として答えた。


「私と一緒にヒーローやってほしいの」


 もっとも、これにはさすがの浩一も目を丸くしたが。





「ディアランドには妖精族と天使族と悪魔族の三種の種族が暮らしていた。それらは共に手を取り合って生きていたが、その中には悪いことを考えている連中もいた」


 そして現在。

 若葉と彼女によって未だ拘束されていた亮の前で、アーサバインもとい益田浩一は前に自分の聞かされた話を目の前の二人に話して聞かせていた。亮に正体がバレた後なので地声で説明していた。


「その悪いことを企む連中の何人かが、次元の扉を開いてこっちの世界にやってきたんだ。何を目的にして来たのかはわからない。たぶん世界征服とか資源の独占とかだろうな。で、そいつらの野望を食い止めてディアランドに送り返すために、王女見習いのソレアリィがやってきたんだ」

「コーイチの言う通りよ。私はディアランドからそいつらの野望を食い止めるためにこの世界に来たの。でも私だって馬鹿じゃない。私一人じゃあいつらには勝てないって事はわかってたから、私はまずこの世界の人間に協力を仰ぐことにしたの」


 浩一の後を継いでソレアリィが言った。そして彼女はそう言った後で「まさかここまで協力的な人に会えるとは思ってなかったけど」と、浩一の方を向いて言った。

 若葉も亮もただ黙ってそれを聞いていたが、やがて亮が浩一に向けて言った。


「よくそんなの受ける気になったな」

「いやだって、そこまで話聞いて見て見ぬ振りとか出来ないでしょさすがに」

「迷ったりとかはしなかったのか?」

「そりゃ迷いはしましたけど、困ってる奴がいたら助けないとでしょ」

「ちょっとお人好しすぎるの」


 亮の問いかけに対していつもの調子で気怠げに答えた浩一に、若葉が呆れた調子で返す。それを聞いた浩一がムッとした声で若葉に言った。


「いいだろ別に。それにこっちだって、見返りって事で凄い物もらったんだ。あんなものもらっといて断るなんてできねえよ」

「凄い物?」

「なんだそれ」

「え? 見たいっすか?」


 浩一の言葉に若葉と亮が反応し、それを見た浩一がどこか嬉しそうに言葉を返す。手に入れた自慢の玩具を友人に見せびらかしたくてたまらないといった感じだった。そしてそれを聞いたソレアリィは何事かを察し、驚きの表情を浮かべて浩一に言った。


「まさか、今ここで呼ぶの?」

「呼んじゃ悪いか?」

「当たり前よ! 自分から手の内さらしてどうすんのよ!」

「戦わなきゃいいだけの話だろうが。ちょっと見せるだけだ。ちょっと見せるだけ」

「む、むう……」


 浩一の言葉を聞いてソレアリィが黙りこくる。なんだかんだ言って浩一には世話になっていたし、彼が悪人では無いことも把握済みであり、それに自分たちの都合に巻き込んでしまった事に少なからず責任を感じてもいたので、ソレアリィは浩一に必要以上に強く当たる事が出来なかったのだった。

 しかしそれでも、ソレアリィは自分の感情は隠そうとはしなかった。納得できずに眉間に皺を寄せて不満げな表情を浮かべるが、当の浩一はそんな自分を睨んでくるソレアリィを全く気にすることなく、事情を知らない目の前の二人に向けて自慢げに言った。


「じゃあ、いくぜ」


 両足を肩幅に広げ、真上を見るように顔を上げて右手を高々と掲げる。


「来い!」





 その直後、空の彼方から巨大な何かが垂直に落下してきた。





「な、なんだ!?」


 倉庫の天井をぶち破って浩一の背後、自分たちの眼前に姿を現したそれを見て、亮はそう叫びながら目を丸くした。若葉も同様に目を見開き、口をあんぐりと開けてそれを見ていた。


「なにあれ……」

「ロボットだ」


 若葉の放った言葉に、亮が無意識に返す。亮の言う通り、それは人型をした一体のロボットだった。

 外見は今の浩一の姿――アーサバインとほぼ同じであり、装甲を身に纏った全身は全て漆黒に染め上げられていた。等身大のそれと唯一違うのは、腰にオートマチックの拳銃を据え付け、背中にマントの上から身の丈ほどもある両刃の大剣を担いでいた事だった。


「こいつの名前は「タムリン」。ディアランドで勇者と認められた者が操ることの出来る巨兵だ」


 呆然と見上げる二人に浩一が言った。


「これは普通のロボットみたいにコクピットに乗って操縦するんじゃない。勇者と合身する事で初めて動くんだ」

「合身ってなんだ?」

「ロボットと勇者が融合するの。文字通り一心同体って奴ね」


 亮の質問にソレアリィが答える。


「それと今のコーイチとタムリンが同じ格好なのにもちゃんと理由があって、合身した際の両者のシンクロニシティを高めるためなの」

「タムリンから勇者として認められた証でもあるな」

「ロボットの方が誰と合体するのかを決めるっていうのか?」

「そうよ。タムリンは自分から動くことはないけど、ちゃんと意思を持った存在なの」


 ソレアリィが無い胸を張って亮の質問に答える。そんなソレアリィの横に立ちながら、浩一が腕を組んで言った。


「まあこんな感じだ。そろそろ本題に入るぞ。先生返せよ」

「あ、覚えてたんだ」


 浩一の言葉に若葉が意外そうな声で返す。そして話を聞いている間少しも力を緩めなかった手を再び亮の首筋に近づけながら、若葉が浩一達に向けていった。


「でも、今の状況わかってるの? あなたがちょっとでも動けばどうなると思う?」

「やれるもんならやってみろ。タムリンは傷を癒すビームを発射する事が出来るんだ。お前のやった事は全部無駄になるんだよ」

「それ本気で言ってるのか」


 唐突すぎる設定の追加に亮が苦言を呈する。それを聞いたソレアリィが浩一に代わって「もちろん!」と自信たっぷりに返す。そのソレアリィの横で、浩一は若葉となおも対峙していた。


「どうせハッタリなの。あるわけ無いに決まってるの」

「ならやってみろ。そいつは合身しなくてもこっちが念じるだけで発射される仕組みなんだ。それで先生の傷を治してから、こいつと合身した俺が直接先生を取り返す。先生には悪いとは思うけど、他にやりようがないからな」


 若葉が冷ややかに返し、浩一も負けじと食い下がる。互いに睨み合い、張りつめた空気が漂い始める。


「……本当にやるよ?」

「ああ」

「先生どうなってもいいの?」

「俺は別にいいぞ」


 若葉の言葉に亮が答える。予期せぬ方向からの返答に若葉が驚いていると、亮が目を閉じながら続けて言った。


「生徒を信じるのは教師の仕事だからな」


 次の瞬間、亮が全身から力を抜く。ほぼ密着していた事でそれを直に感じる事のできた若葉は、即座にこの男は本気だと言うことを察して軽い戦慄を覚えた。


「なんでそこまで」

「……わかったよ」


 そして驚く若葉の向こうでは、腕を解いた亮が重々しい口調でそう呟いた。彼もそれまでは若葉と同様に驚きを見せていたが、その亮の言葉と若葉の態度の変化を見て吹っ切れたようだった。


「すぐ終わらせる」


 その言葉と共に浩一の体がゆっくりと浮かび上がる。ソレアリィもまた浩一と併せて浮遊し、それを見た若葉が驚きに弛緩していた表情と気持ちを引き締める。

 その若葉の眼前で、亮が握りしめた右手を胸の前で斜めに掲げながら叫んだ。


「行くぞ! 合身!」

「てめえかぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 刹那、その叫びをかき消すように別の誰かの叫び声が倉庫の外から響きわたった。そして次の瞬間、タムリンは遠くから飛びかかってきた何かと激突し、直立姿勢のまま遙か遠くへ吹っ飛んでいった。





「オラッ! どこだッ! 吐けッ! 先公どこにやったッ! 吐きやがれッ!」

「早く白状なさい! ブッ殺しますわよ!」


 それから数分後、亮と変身を解いた浩一とソレアリィは、共に呆然とした顔で目の前の光景を眺めていた。若葉は目の前の光景を見て「先生側の増援がやってきた」と勘違いし、そそくさと逃げていった。


「この野郎シカトこいてんじゃねえぞ! マジで真っ二つにするぞ!」

「黙っていても良い事なんて一つもありませんわよ! さあ早く! 先生はどこにいますの!」


 相も変わらず直立姿勢のままのタムリンに十轟院麻里弥の専用ロボ「メガデス」が背後からスリーパーホールドをかまし、そしてがら空きになったタムリンの腹に、かつて大暴れした月兎獣「アラタ」が真っ赤な目を大きく見開いてデンプシーロールを決めていたのだった。

 装甲の破片が飛び散り、白い拳がぶつかる度に間欠泉の蓋が開いたかの如くそこから火花が吹き上がる。それはまさに武者巫女ロボと宇宙ウサギの極悪タッグ。止められる者はどこにもいなかった。


「……なにこれ」


 装甲のひしゃげる重々しい音をバックに、ソレアリィが血の気の引いた顔で弱々しく呟く。浩一は「めんどくせえ」と興味なさそうに大きく欠伸をし、亮はすっかり青ざめた顔のソレアリィに助け船を出した。


「宇宙は広いってことだ」


 それが本当に助けになっているのか、亮には全く自信が無かった。

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