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血路の先の魔人達 38

 瓦礫原に漂う臭気が鼻腔を刺す。

 つい数分前までひしめき合っていたはずの高層建築群(ビル)の成れ果てだ。か細く漏れ出すガスは火を噴き、脆く不安定な足場はいつ落盤してもおかしくはない。

 二次災害へ細心の注意を払いつつ。ゴクロウとアサメは身を滑らせるように進行。敵性因子は不明だが、蹴り出る足取りに迷いはない。

 死にかけのナガサらの元へ、すぐに辿り着く。


(妙だな)


 ゴクロウは(いぶか)しげに負傷者を見下ろした。

 左腕、両脚の義肢を欠損するという致命傷を負い、瓦礫に背を預けて頭を垂れるナガサの姿。総髪は解け、栗色の髪が表情は窺えない。


(血痕がほぼ見当たらねえ。こんだけズタボロになりゃ血溜まりだが。ナガサの身体はどこまで改造の手が仕込まれてんだ)


 信じがたい。マルドバの言葉通り、途絶え途絶えの息遣いが聞こえる。

 そして右半身のほとんどを失い、息絶えて横たわる巨狗スカヤ。アサメが痛ましい眼差しで毛むくじゃらの肉塊を見下ろしていた。

 ゴクロウは振り向いてアサメと視線を合わせ、手ぶりで『スカヤを注視しろ』と伝えた。小さく頷き返し、了解と応じる。


「生きてっか、ナガサ」


 わずかな望みも虚しく、返事はない。

 ゴクロウは長刀を杖代わりにし、人一人分の距離を空けてしゃがむ。限りなく死に近いであろう彼女の顔を覗き込んだ。

 血の気の失せた頬。

 眼は半開きで焦点は定まっておらず、緩んだ口許からは血交じりの唾が伝っている。どこも煤だらけで軽微ながら火傷も負っていた。

 破壊された義肢から細々と流れる透明な液体。血液や髄液に似た役割を果たしているのだろう。

 これは生命を維持する上で欠かせない、彼女特有の代物。ナガサ本人に間違いない。

 間違いないが、言いようのない不安が残る。


「誰にやられた」


 返事があろうとなかろうと構わず、ゴクロウは問いかけ続ける。

 反応は、あった。

 折れてひん曲がった右の義腕が、キリキリと無機質な音を立てて上がる。ひび割れた唇を震わせ、喉を呻かせて何かを伝えようとしていた。


「ろ」


 聞き取れない。

 だがゴクロウは不用意に耳を近づけようとはしなかった。


「もっとハッキリと喋るんだ。もう一度」


 聞きようによっては冷徹にも思えるゴクロウの声が響く。

 ゴクロウは介抱どころか、手を差し伸べようともしない。放っておけば死にゆくナガサをただじっと観察しているだけだった。

 壊れてあらぬ方向に曲がった右の義腕がゴクロウへ差し出される。


「し、ろ」


 何を。

 ゴクロウの視線が鋭く細められた。

 そのわずかな発音の差違に。


「う、し、ろ」


 殺気。


「アサメッ」


 叫ぶゴクロウは漆黒の異腕を伸ばし、一閃。まだ生身のまま残っているナガサの腰回りを抱き寄せた。襟首を強引に鷲掴まれる感触。

 目前、爆砕。

 転瞬、宙へ放り飛ばされる。爆風とアサメの膂力(りょりょく)により、ゴクロウとナガサは投げ飛ばされていく。

 吹き荒れる粉塵。

 ゴクロウとナガサはもみくちゃになりながらもアサメに支えられて難着地。細かい破片が頬に刺さる程度で、致死の爆発範囲からギリギリ逃れ切った。


「アサメ、助かった」


 ゴクロウの首根っこを掴んだままのアサメから舌打ちが降る。


「不覚です。見破れませんでした」

「充分だ。かすり傷だけで済んだ」


 腕の中のナガサにも新たな外傷は見当たらない。名前を怒鳴り叫んだだけで意図を読み取ったアサメの采配に感謝する。

 粉塵の煙が晴れていく。

 朧げな人影。奴が爆破を引き起こした張本人だろう。

 突風。


次回 血路の先の魔人達 39


更新予定日

12月18日(金)



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