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血路の先の魔人達 11

 アサメ、スカヤの半身組が敵を察知。

 四名は何も示し合わせず、ほぼ同時に駆け足を開始する。先導はスカヤ、ナガサ。すぐ背後をゴクロウ、最後方にアサメが配備。

 隙のない単縦陣だが、恐怖の象徴たる幽鬼の風貌のまま白昼堂々と大通りへ飛び出るにはあまりにも悪目立ちが過ぎる。すぐにナガサが面紗(ベール)(めく)り上げた。

 やや乱れた栗色の髪が露わになり、慣れた手つきで襟首へ仕舞い込んでいく。ゴクロウとアサメもそれに(なら)う。黒衣のお陰で返り血の染みはあまり気にならなかった。


「相手も素顔で忍び寄ってくるからね」


 纏めた髪を手早く結い直したナガサは軽く身なりを整え、右腕に仕込まれた暗殺刃を射出。


「殺すなら密かに」


 先鋭な銀光を見せつけ、即格納。

 一瞥をくれた栗色の視線は、軽快な口調とは裏腹に冷め切っていた。

 紛うことなき、人殺しの眼光を前に。


「承知承知」


 ゴクロウは左拳をごきりと鳴らし。


「善処します」


 アサメは銀髪の蠍尾をくねらせて応じる。

 戦意を押し殺し、だが警戒心だけは高めていく。迫り来る敵はこの世から静かに消えて貰う。

 薄暗い路地裏を抜け、人で賑わう大通りへ。

 人の歩みは緩く、中央帯は急ぎの馬車が走る広い道。とにかく息遣いが多い。過密だ。その場に降りて自らの目線で移動するとより広さを思い知らされる。多種多様な匂いが情報として一気に脳内へ叩き込まれるほど雑多と連なっていた。

 この人混みから殺気を寄り分けて始末していくのは至難の業。(あら)ゆる感情が渦巻く人垣の中を避けながら早足で突っ切っていく。

 先導する巨狗スカヤに睨まれた通行人が顔面を蒼白させて左右に分かれるおかげで歩みは快調だが、やはり周囲からは浮いていた。


「眩暈がしそうです」


 ゴクロウはアサメの心中を察する。他者の視線に敏感な彼女の能力が仇になっているのかもしれない。


「嫌でも慣れるぜ。背後は任せた」


 善意悪意を即座に判別し得るアサメが鍵となる。戦士に気遣いなど不要だった。


「言われなくても」


 見回せば建ち並ぶ商業家屋の屋号や看板にはほぼ必ずと言っていいほど『東六方郭(りくほうかく)街道』の文字が店名に添えられている。

 旧煤湯(すすゆ)本町と六方郭(りくほうかく)を結ぶ東部方面の主要な幹線道路の一つなのだろう。

 平らに踏み均された硬質な歩道が左右にずらりと横たわり、中央の専用路面には馬車や馬、人力の二輪車が幾つも走る。左側通行三車線、合計六車線。広い訳である。

 空を舞う人型の紙、形代の群れが列を成して路面の交通状況を逐一と整理し、信号機の役割を果たしていた。車道と言っても差し支えない。確かな秩序が広がっていた。

 ゴクロウの金眼が忙しなく縦横無尽と走る。

 瞬時に狙撃位置を予測、感情を制御して人垣を盾にし擦り抜ける。実際に狙い撃つとなると自慢の巨軀は恰好の的だろうが、抑止力になることには違いない。

 また歩行動作も曲線的だった。肩が左右に不規則にぶれて狙い難い。余程と腕の立つ狙撃手でも無い限り、この市街地での暗殺は諦めて別の機会を窺うだろう。

 ごくごく自然とナガサの側に寄るゴクロウ。


「ナガサ。死闘宗の狙撃手が敵に回る可能性は」

「低い。けど油断しないで。元々一枚岩じゃないから誰が敵に回ってもおかしくない」

「味方は」

「期待するだけ無駄。私達はずっと単独で動いてきたし。何さ、私よりも面倒な奴、味方に欲しいわけ」

「俺は好きだぜ、面倒な奴」


 殺気。

 前を往く中肉中背の男。ナガサが横を通り過ぎ、ゴクロウが追い抜こうとした瞬間、男がナガサの背後へ突進。


「ぐッ」


 男のくぐもった悲鳴。

 伸びたゴクロウの左腕が奇襲者の肩を握り潰して阻止。怪力自慢の五指が容赦無く肉に食い込む。

 歯を食いしばって耐える男は負けじと金的狙いの踵を振り上げるが遅い。ゴクロウの膝が敵の膝裏を蹴り、崩し落とす。

 一瞬だった。

 顔面へ伸びたゴクロウの太腕。締め上げる暗闇。


「こんな奴とかな」


 ごぎりと太い首が折れる不快音。

 頭蓋固め(ヘッドロック)状態から刹那的に腕を引き絞り、頸椎破壊、即死。

 敵の手から溢れた短刀をゴクロウは蹴り上げて掴み、ごく自然に懐へ忍び込ませる。

 流麗なる暗殺。

 あまりの手際良さにまともな通行人達は殺人行為に気付かず、雑踏の中を行き交っていた。

 だがこのまま路上に投げ捨てて騒ぎを起こす訳にはいかない。襟首を引っ掴んで死骸を強引に立たせると手頃な横長椅子(ベンチ)に無理矢理と項垂(うなだ)れさせた。折れた首の角度さえ気にしなければどうみても徹夜明けで眠こけた酔漢である。


「あんたが同胞じゃなくて良かった」


 前を向きながらも呟いたナガサは一瞬のやり取りを感覚的に視ていた。武者震いだろう。非情な、だが洗練された武威に背筋が騒ついている。


「そりゃ光栄だ」

「そろそろ口、縫いつけますよ。来ます」


 いつまでも舌を滑らせるゴクロウをアサメが鋭く止めた。


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