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血路の先の魔人達 8

「あのまま突っ込んだとしてもあのいけすかねえ野郎をぶっ飛ばせたかもしれねえが、雑魚(ザコ)の部類なんかじゃねえ。それにまだ隠し玉を持ってやがる。お前も致命傷を負ってたぞ」

「そんなことは、ありません」


 歯切れが悪い。

 本当は分かっているはずだが、口を突いて出る言葉は相変わらず強情だった。強者相手にわざわざ講釈を垂れて追及しても心に届かないだろう。

 ゴクロウは捨てられた直刀を拾い上げ、にやりと笑った。


「だったら頼むぜ。強えってのは腕っ節と心が真っ直ぐな奴のことを言うんじゃねえのか、最強喰らい(アヴァミネーター)殿」


 返す言葉もなく、黙れ言わんばかりに歯牙を剥く。


「はいアサメの負け。俺の勝ち。つまり俺が最強」

「ぐぐぐ」


 恨みがましい声を絞り出すアサメを背に、適当といなすゴクロウはどこ吹く風と境内(けいだい)へ引き返していった。敗北感を味わったまますごすごと後ろを追ってくるアサメがなんとも滑稽(こっけい)であった。

 むせ返る血臭を冷たい硫黄の風が運ぶ。

 仏が座す寺の至るところに、死屍累々と殺戮手の死骸が転がっている。隣は墓だ。後片付けもしやすいだろう。

 酸鼻(さんび)極まる光景の中、本物であろう血銭手ナガサと巨狗スカヤが一体、また一体と面紗(ベール)を捲って正体を暴きに回っていた。どの死に顔も激怒や歓喜に歪んで凝固している。哀切を訴える者は一人も居ない。


「片付いたばかりか」

「まあね。そっちは随分と怒鳴っていたみたいだけど」


 面紗(ベール)を被ったままのナガサはゴクロウらに見向きもせず返す。


「ああ。吠えたくなる時もあるだろ。宿敵と瓜二つな野郎と出会した、とかな」


 ナガサが勢い良く振り向いた。

 食いつきの良い反応に肩を竦めたゴクロウは持っていた直刀を放って渡す。それを危なげなく掴み取ったナガサは鯉口を切って僅かに抜刀し、己の得物と確かめるとすぐに納刀。拾ったであろう太刀をぞんざいに捨てて己の腰に差す。


「やっぱりマグサだ。バスバの半身だよ」

「手癖も性格も上品な悪趣味野郎だった」


 横に並んだアサメに視線を送る。やはり相手は宿敵シクランではないと悟った彼女は罰が悪そうに眉を顰めて黙っていた。激情を悔いているのだろう。


「姿を変える能力を持っているんじゃないかとは勘繰(かんぐ)っていたけど、精素の質まで真似(マネ)るとはね。私も油断した。対峙するのは初めてだったから見破れなかったよ」


 言葉の端々で忌々しいと言わんばかりに激戦を振り返るナガサ。

 その横に巨狗が颯爽と駆け寄る。


「まだ臭うぞ。さっきよりも数が多い」


 再び緊張感が張り詰めていく。情報を共有する時間も息つく暇も許されない。


「付いてきて。一旦撒く」

「行く当てはあるのか」


 ナガサは短く頷く。


「煤湯の中央、六方郭(りくほうかく)。バスバの狙いは六仁協定だから」


 この後手という状況から脱しなければ、生存は極めて困難。


「二人とも」


 ナガサが声を掛けるや否や、緋色の輝きを二つ放った。例の硬貨(デスコイン)だ。

 反射的に受け取るゴクロウとアサメ。突っぱねた呪いの証が、何の因果か手元に戻ってきた。


「やっぱり渡しておく。敵が姿を偽るなら、見破れる材料が一つでもあった方がいいでしょ」


 何か言葉を返す前に畳み掛ける。確かに彼女の言う通りだ。


「要りません」


 甲高く爪弾く音。

 アサメは何を思ったのか、硬貨(デスコイン)を真上へ跳ね飛ばした。乱反射する緋色の輝きが頂点に達し、そして落下をし始めて頭上へ。

 抜刀。

 火花が閃く。力の限り金属を叩き斬った音が二重と響いた。


「呪いは一つで、充分です」


 途轍もない剣速による十文字の残光を放ち終え、何事も無かったかの様に納刀。

 二片はゴクロウとアサメの足元へ、もう二片はナガサとスカヤの側へ。


「これ、散銭様から一枚を頂戴するのに三千灯も掛かるんだけど」


 ナガサの視線が足元から、無礼極まりないアサメの顔へと向く。込められた感情は怒りに近しい。


「知りませんよ。手放したモノの扱いに文句を言うのは、お門違いでは」


 四分に割れ散った硬貨(デスコイン)

 言うなればこの世に二つとない形状の金属片を拾う。意を汲み取ったスカヤも厳つい面のまま欠片を舐めて飲み込んでいた。


「あんた、本ッ当に嫌な性格してるね。アサメ」

「無言で斬り掛かってくる貴女に言われたくありません。ナガサ」


 一頻(ひとしき)り不可視の火花を散らせた後、ふんと視線を逸らした。


(儲け儲け)


 そしてゴクロウといえば硬貨と金属片、総額三七五〇灯をちゃっかりと懐へ忍び込ませる。


「なんだ。お前ら、けっこう息揃ってきたな」


 二つの視線が同時に殺到。

「実に不愉快です」

「ほんと、不快なんだけど」


 やはり気が合うのかもしれない。先程の戦いの中で、二人なりに絆を見出した様に思えた。

 スカヤがくぐもる様に唸る。


(じゃ)れている場合か」


 騒つく境内の外。

 異変に気付いた近隣の住民に紛れ、不穏な気配が忍び寄っている気配を察知する。

 すぐに四者とも視線を交差させ、誰が何を言うまでもなく移動を開始した。


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