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血路の先の魔人達 5

 技、いや正常な動作ですらない乱舞へ、八刃もの鋭い鉤爪が猛獣を斬り刻まんと唸った。

 轟く金属音。


「こいつッ」


 攻め手が苛立ちを吐き捨てた。

 ただ振り回すだけの拙い剣筋の隙を突いたはずが、死を察知した瞬間だけ変転。爪が弾き返される。

 二度、三度と響く剣戟(けんげき)

 歯噛みする鉤爪使いだが、もう長くは保たないことを悟っていた。

 追撃の苦無(クナイ)が八つ飛来。

 ふらつくゴクロウは全てを弾き切れずに右頬を掠め、肉を刺す鈍い音。右の肩に一つ、左太腿に一つ、計二本もの毒苦無(クナイ)を喰らう。


「ヅッ」


 一歩、二歩とたたらを踏むゴクロウ。

 がくり、と巨軀が膝を突いた。がらんがらんと刀が転がる。全身が打ち震え、全ての筋肉は脳からの指示を一切受け付けられないでいる。

 貰った。

 鉤爪の殺戮手は近付きながら面紗(ベール)の奥でほくそ笑む。

 下手投げの要領で左の爪を振り被ぶると、がら空きの胴体を串刺しにせんと一気に放つ。


「あ」


 右腿に違和感を感じた鉤爪使いは、ゴクロウを見失っていた。標的(ターゲット)を探る視線が何故か地面へと傾いていく。止められない。


「うがああああッ」


 転倒直後、激痛にのたうち回る殺戮手。

 それを見下す者は。


「痛えよな。よおく解るぜ」


 狂乱を演じ切った、ゴクロウ。

 偽王の持つ自浄作用により、解毒完了済み。

 左太腿から毒苦無(クナイ)を抜くと転身、無防備に晒されていた右脚へ反撃の刺突。電撃の如き挙動は(きょ)を完璧に突いていた。

 もはや聴き慣れた飛来音。

 最小動作で全て躱し、逃げ去っていく投擲手の後頭部を睨む。分が悪いと察したらしいが、もう何もかも遅い。


「ガハアッ」


 投擲の殺戮手の背に、反りのない刃が生えた。

 血みどろの直刀がずるりと引き抜かれ、死骸は力無く項垂(うなだ)れる。

 露わになった細身の幽鬼はやはり血塗れで、右腕の(そで)は焼けて千切れていた。白肌の腕が剥き出しになっている。ナガサだ。よく持ち堪えたものだ。


「ああ痛え。まだビリビリしやがる」


 ゴクロウは肩に刺さったままの毒苦無を抜く。未だもがき苦しむ殺戮手に全て突き立てた。沈黙。


「練り毒を短時間で中和するなんて、本当に人間なの」

「さあ。英雄の末裔かもな」


 気付けば境内は嘘のように静まり返っていた。

 火薬や血の臭いがそこら中に充満し、酸鼻(さんび)極まる戦場跡が無残と広がる。

 強い。四十数名もの殺戮手を、強者の集団を、たった三人一匹で全て返り討ちにしてのけた。


「移動しよう。奴等、まだ来るよ」


 直刀に滴る血を死骸で拭った小さな殺戮手が早足で寄る。

 じっと見つめるゴクロウは鎖鎌を右腕に巻き直しつつ、落とした刀を拾っていた。


「どこへ移るんだ」

「地獄」


 音速の抜き打ち。

 重く(とどろ)剣戟(けんげき)


「逝くにはまだ早えッ」


 相手が誰だろうと不用意に踏み込ませたりはしない。かつての裏切りがゴクロウを護った。妙な気配を読んでいた甲斐があり、一足早く跳び退いて一気に距離を取る。

 掌に残る威力の深さに、相手が他の殺戮手とは別格の実力者であると瞬時に察した。

 直刀を手元で踊らせたナガサと思わしき幽鬼は猛然と踏み込み。真一文字の剣閃を間一髪で防ぎ、受け流して袈裟(けさ)斬りを仕返す。だが空を斬るだけ。

 交錯する敵視。

 はためく面紗(ベール)の向こうを見抜かんとゴクロウの眉間に皺が寄る。


(ナガサ、じゃねえ)


 斬り合いへと発展。

 左半身を突き出して下段に構えたゴクロウの刃が石畳を浅く裂いて火花を散らす。

 対するはふらふらと脱力した謎の殺戮手。柳の如く斬り上げを回避する上、予測し難い剣筋を放つ。打ち返すが、ぬるい剣戟。まるで手応えが感じられない。

 踏み込もうとした瞬間、鋭い刺突がゴクロウの胴へ。


「くッ」


 防御が間に合わず、腹部を浅く掠める。強引に斬撃を振るいに詰めるが、大きく後退された。

 受け流しに強く長い面紗(ベール)に覆われていなければ、血を噴いていただろう。


(緩急の差を使い分けるのが上手い。なら)


 猛攻を仕掛けるゴクロウの気配が変わる。鎖で巻かれた右腕を振り回し、鎌を投げ放った。

 首刈りの一撃を謎の殺戮手は弾いて(しの)ぐ。そのまま掻い潜って緩く前進、続く二歩目で急加速。


「ったく使いにくいッ」


 分銅ごと鎖を投げつけた。

 不意を打つ一手を敢行したゴクロウは、だが予想を大きく上回る回避に眼を見開く。

 大きく広がって空を薙いでいく鎖鎌。

 謎の殺戮手は、全身を捻り搾ってぐにゃりと折れ曲がって避けていた。


(こいつ、どこのどいつの半身だ)


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