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血路の先の魔人達 4

 立ち回りながらも全方位を睨んで戦況を把握していたゴクロウは次の標的へ。

 しつこく飛び交う毒の苦無(クナイ)を弾く。呆気なく割れ、刃の欠片が散った。別種の薬の匂い。立ち昇る煙。しまったと思った頃には遅い。

 耳を劈く噴射音。

 青白い煙幕が爆発的に拡散。

 吸い込むまいとゴクロウは息を止め、効果の及ぶであろう圏外へ大きく跳び退(ずさ)る。


(奴等、退くか、それとも)


 煙幕の向こうから突き抜け飛来する苦無(クナイ)。今度は見切って躱す。ゴクロウの獣じみた反射神経と動体視力による芸当。それでも執拗(しつよう)な狙いが風を斬って伝わる。視えているらしい。


「勝機ありってか」


 高く立ち昇る煙の奥が見渡せず、だが敵はこちらを捕捉し続けている。どう考えても不利。


(この煙幕は狼煙にもなる。増援が駆けつける前にズラからねえと、全て後手に回っちまう。何とかして裏をかけねえか)


 ゴクロウは窮地を打破すべく、竹林が茂る本堂の裏手へとわざと足音を上げながら突っ走った。石灯籠(とうろう)を盾にしながら(うるさ)苦無(クナイ)をやり過ごし、敵を釣る。

 ナガサ、アサメを心配する必要はない。彼女らの戦闘能力ならばまず切り抜ける。今もなお響く剣戟を聴きながら右側に本堂を置いて路地に駆け込み。


(来たな)


 後方を確認。


「何処へ逃げる」


 戦慄(せんりつ)。前方から斬撃。

 欠けた右腕を盾に、勘任せで体躯を(よじ)る。

 飛沫(しぶ)く鮮血。その向こうには(ひるがえ)した鎖鎌を振るわんとする殺戮手。


(上手く潜みやがってッ)


 歯を食い縛りながら、返す連撃を刀で弾く。

 だが体勢が悪い。(えぐ)るような前蹴りがゴクロウの鳩尾(みぞおち)に突き刺さった。

 激痛、呼吸困難、吹飛。

 苦痛の音を漏らすことすら許されない痛撃を抱えながら転がり、だが気力で跳び起きて竹林に飛び込んだ。蜂のような重い風切音。間一髪で追撃の分銅を避ける。

 太い青竹に炸裂、爆散。

 骨など簡単にへし折る重りが次々とゴクロウを襲う。じゃらじゃらとした金属音に微かな変化を聴き取った。

 回避地点に先んじる破壊の分銅。


(さっさと終わらせてやる)


 使い手の挙動を見抜いたゴクロウは紙一重で回避。豪速が右耳を擦過。僅かに裂けて流れ出す熱い血液。気にせず欠けた右腕で鎖を絡め取った。

 連鎖する喧しい金属音。巻き取られた鎖が勢い良く張り詰めた。

 一瞬の膠着。

 片腕で分銅を制したゴクロウ。

 対するは鎌と鎖を両手で引き結びて構える殺戮手。


「ッ」


 狼狽(うろ)たのは後者。


「俺と綱引きか。あと百人は連れて来い、よッ」


 ゴクロウの怪力に引っ張られた殺戮手が前へつんのめった。右腕がきつく締め上げられるが構わない。ゴクロウは生まれた隙へ一気に踏み込み、左手の刀を突き刺す。だが敵も執念深い。

 刺突を受け流す鎌。刃と刃が擦れ合う金切音。

 受け流し、首刈りという攻防一体の反撃がゴクロウの首筋へ。

「がヴぉッ」


 だが鎖付きの右腕による肘鉄が殺戮手の鼻、上顎、下顎を粉々に砕いた。

 反撃を覆す反撃に大きく後退する幽鬼。更に肉薄したゴクロウは足払いを仕掛けて仰向けに転倒させ、闘気の赴くままとどめの突き下ろし。顔面を地面に縫いつけた。

 どばり、と毒々しい鮮血の華が石床の小道に咲く。

 殺戮手の図体がびくりと大きく跳ね、完全に沈黙。

 呼吸で肩を落ち着かせながら頭部から刀を引き抜く。ゴクロウは鎖が絡みついたままの右腕を振り、じゃらじゃらと巻きつけていく。


「代わりの右腕にさせてもら」


 首の動きだけで苦無(クナイ)を回避。

 二名の追手を睨む。

 奪ったばかりの鎖鎌を逆回転に振り回し、横薙ぎに投げ放った。残酷な風斬音。がつりと本堂の木壁に突き立つ。

 回避と踏み込みを両立した殺戮手の急疾走。

 その両手には鉤爪。さらに敵後方には無手の幽鬼。恐らくは投擲剣専門の名手。


(きりがねえ)


 接敵寸前、鉤爪使いが壁を蹴って大跳躍。

 幽鬼の死角から突如と現れた幾つもの苦無の切先と目が合う。横っ跳びで回避。

 だがその先に分厚い投げ短刀。寸前で身を引くが右肩を冷たく熱く掠め。


「ぶ」


 顔面への衝撃に視界が暗転。

 首の筋が千切れんばかりの激痛、顎にみしりと罅走る不吉な音。鉤爪使いの空中回し蹴りを顔面へ諸に喰らったと遅れて気付くが。


「ぐう、がああああッ」


 それすらも上回る猛毒の責め苦に、ゴクロウは暴れ狂う。

 刃に塗布された劇薬が血流に乗って全身を駆け巡っていた。右腕に絡んだままの鎖が連動して喧しく鳴る。壁から鎌がすっぽ抜けた。

 ゴクロウは千鳥足になりながら滅茶苦茶に刀を振り回し、絶体絶命の乱舞を演じる羽目となった。


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