八話 異世界と言えば観光、観光と言えば買い物!
「わあ………」
街へ出ると色んなお店があって目を奪われた。デパートとは違うけどすごい賑やかさがあったんだ。
「お二方はこのような場所は初めてですか?」
僕とさなえを見て王女様が言う。
「うん」
とさなえは言うけど僕は…………
「いえ、天界でそういうとこ見たことあるんで慣れてます」
僕は冷静さを取り戻して言った。
「て、天界?!天界に、行ったことがあるんですか?」
王女様が口元を手で覆って驚いた。この世界の人でも天界に行くのは難しいみたいだ。
「今は無理だけどついこの間までアマツカとよく行ってたんです」
「勇者様はすごいのですね…………」
「そんな話聞いてないけど」
さなえが冷たい瞳で言う。
「ごっめーん、言う必要ないかなって」
僕は首に手をやりながら答えた。
「はあ…………………。魔界にもっと早く来れるならエミリアにも早く会えたのに」
「ごめん…………」
ため息をついて言うさなえに思わず僕は謝ってしまう。本当は現地の人と揉めたら大変だから人のいそうな場所ほ避けてただけなんだけどね。
「まあいいじゃないですか、こうして会えたんですし」
王女様が笑うとさなえの表情も柔らかくなった。
「では参りしょうか、この露店街は私の方が詳しいですから」
護衛役のジルドレイさんが言う。流石に僕達だけで王女様を守るわけには行かないからこの国の騎士であるジルドレイさんが一緒に行くことになったんだ。
露店街を進むと絨毯や掛け軸のお店があった。旅の身である僕達にはこの辺りのものは必要ないね。
少し進むとアクセサリーや置物のお店があった。女の子三人は大はしゃぎだ。因みにセンカさんの衣装はさなえや王女様と違って比較的地味なワンピースとジャケットだ。いつも目立つ服だから今日は逆のアプローチなのかな。
僕?僕はこういうの趣味じゃないしなぁ……………うーん。
「なにこれ…………」
「お、なにかいいのあったのか?」
僕は置物屋のある商品に目をつける。そこにあったのは手のひら大の金のカエルだ。
「おー、お客さんお目が高いねー。それは金のカエルと言って幸運を呼び込むカエルと言われてるんだよ。一家に一台、どうだい?」
店主のおじさんが言う。
「はあ…………」
僕にはこの手の趣味がわからない。カエルじゃなくて金だから幸運を呼び込むて言っちゃう感性が。
「これ、全部金で出来てるんですか?」
「なわけないだろー、それやったら高くなっちゃうよー。メッキだよメッキ、それでもちょっと高いけどね」
「メッキですか」
へー、この世界にもメッキとかあるんだ。
「でも目とかは金じゃないんですね」
「目まで金にしちゃったらカエルさんが幸運を見逃しちゃうんだってさ」
流石に全部金にしたら趣味悪いからな、ほどほどにしないと。因みに目は黒色でお腹は白だ。カエルくんと目が合う。じーっと見詰める、それはもう不意に野生動物と合ったみたいに。
「勇者様もおまじないとか信じるのですか?」
ジルドレイさんが言う。
「いや、この子の目可愛いなって」
こう言うとジルドレイさんがぷっと吹き出した。
「ちょっとー、笑わないくださいよー」
「いや失礼、勇者様にもそういうところがあると思うとつい…………」
ほんと失礼だなこの人、いいじゃん通りすがりのカエルに一目惚れしても。
値札を確認する、ちょっと高いけど王女様から貰ったお小遣いはたくさんあるから大丈夫。さっきから見てたけどこの世界の数字てなんでか僕の世界のと同じなんだよね。
「毎度あり!」
僕は金のカエルの置物を買った。
置物だけじゃやっぱり寂しいのでアクセサリー屋さんを見ることにした。ペンダントやイヤリング、指輪などお店によってバラバラだけど色々なものが売っていた。
その中の一つ、指輪屋さんで目が止まった。中でも羽根のかざりがあるもの、十字架がついてるもの、龍の顔があるもの、狼の顔があるものが気になったんだ。その五つは僕や僕達の仲間のパートナーのモンスターを象徴してるように見えたからだ。
僕はその五つの指輪を購入する、こっちは金のカエルと違ってそんなに高いわけじゃないから五つ買っても安上がりだ。
「そんなに指輪買ってどうするんです?まさか全てはめるとか?」
ジルドレイさんが聞かれてこう答えた。
「そんな趣味してるように見えます?」
「じゃあどうして」
「ひみつです」
僕は舌を出して言った。
さなえ達はイヤリング屋さんにいたんだけど何か困ってるみたい。
「どうしたの?」
僕は気になって声をかけた。
「うーん、この子に合うイヤリングを選んであげようと思ったんだけど人間界はルールが厳しいらしくていらないって言ってるのよねえ」
「世知辛いものです」
人間界てことはさなえのことか、真面目だなさなえも。
「ごめん二人とも………」
さなえがすまなそうに顔を伏せる。
「向こう帰っても夏休みだから大丈夫じゃない?」
僕はさなえに言ってみる。
「でも………」
「たまには耳もお洒落した友達も見てみたいな」
「なら、いいかな………」
最初は躊躇っていたさなえだけどちゃんと説得したら頷いてくれた。
「じゃああなたには………」
「待って」
センカさんがさなえに合いそうなイヤリングを選ぼうとしたけどさなえが止めた。
「司が、選んで」
「え、僕?!」
急に指名されて僕は驚いた、なんだって僕が。
「司に、選んで欲しいの」
さなえがはにかみながら言った。
「まあいいけど………」
イヤリングを見るとシンプルな形や月を模したもの、ハート型、星型、十字型など様々な形が並んでいた。僕はその中から月の形をしたものを取り出した。
「じゃあこれで」
「うん、これにする。これください」
「あいよ」
さなえがイヤリングがお店の人に出して購入する。
「司、これ付けて」
「え?」
さなえが僕の方にイヤリングを差し出してきた。
「司が選んでくれたものだから、司に付けて欲しいの」
その言葉にドキッとしてしまう。笑顔も相まって破壊力が増していた。さなえって、こんな可愛かったっけ。
イヤリングとか僕自身付けたことないからちょっと緊張するな。さなえの横に回り耳を傷つけないよう気をつけながらイヤリングを装着していく。いや、イヤリングだから耳に穴が空くのは当然なんだけどそれでも女の子の耳だから気をつけないと………。
「どう?似合うかな」
さなえが装着したイヤリングを僕に見せながら言う。
「う、うん………」
だめだ、予想以上の可愛さにまともにさなえを見れない。見た目にじゃない、キャラにだ!あー、このさなえほんとムズムズするんだけどなんなのいったい。
「可愛いじゃない」
「素敵ですー」
「大変お似合いです」
センカさん達がさなえに賛美を送った。
それから僕達は服屋さんに行って色んな服を試着した。勇者や魔法使い、騎士や僧侶の服を着たりしたんだ。て、よく考えたらただのコスプレだしお城にも色々服とかあるんじゃないの?!
そう言ったらジルドレイさんが頷いた。
「た、確かに…………。なぜ我々はここにいるのでしょう?」
「でしょー、服屋とかもう出ましょうよー」
するとセンカさんががっつりため息をついた。はぁぁぁぁぁぁという僕に対するすごい呆れが出ていた。さなえや王女様も信じられないという顔でこっちを見ている。
「分かってないわねえ。服屋の服と家にある服は別物なよ、たとえ似たようなのがあって微妙に違うし買い物っていうのはお店で実物を見たり試着しながら欲しいものを選ぶっていう過程が大事なの、分かる?」
センカさんが指を立ててチッチッチッと振りながら言った。すごい馬鹿にしてそうな言い方だな………。
「過程…………ですか」
だめだ、さっぱりわからない。女子ってそういうものなのか。
「司は試着、楽しくなかったの?」
「もしかして、無理に連れ出してしまったでしょうか………」
さなえが冷たい目で、王女様が不安そうに言う。
「そんなことないよ!十分楽しいよ!たまにはこういう遊びもいいかなって、あはは…………」
僕は慌てて言い訳のように言う。
「なによ、あなたも分かってるじゃなーい」
センカさんが僕の胸に指を当ててくる。その時にセンカさんの大きな胸が揺れてそこに見入ってしまう。今は露出の低い服着てるけどやっぱ巨乳ってすごい。
せっかくなので何着か買うことになってそのまま出歩くことになった。これだとお城出る前に着替える意味なかった気がするけどまあいいか。
今度は食べ物屋さんが並ぶところに来た。
「ねえ、そろそろ何か食べない?こっちの世界来てから何も食べてないんだけど」
僕はお腹をさすりながら言った。
「あっ、申し訳ありません!わたし、気づかなくて…………」
王女様が口に両手を当てて慌てる。
「言わなかったこっちも悪い、ごめん」
さなえが言う。
「そういえばあたしも朝から何も食べてないわねえ」
センカさんが思い出したように言う。朝食べずによく今まで動けたね。
「では何か昼食に良さそうものがある店を探しましょう。ここはわたしにおまかせを、商店のことは騎士一詳しい覚えがあります!」
ジルドレイさんが胸に手を当てて言った。ここは専門家に任せようか。
「じゃあお願いします」
「わたしも」
「普段騎士の方がどんな昼食を食べてるのか知りたいです!」
「期待してるわよ」
他のみんなも同じ気持ちみたいだ。
「おおとも!」
そう言ってジルドレイさんが案内したのはカレー屋さんだった。その店は赤いレンガや赤い屋根で出来ていて全部が真っ赤な家だった。カレー屋さんだけじゃなくてこの国の建物はみんな赤っぽい色が多かった。
「なんて書いてあるの?」
メニュー表をウェイトレスさんから渡されるけど世界が違うせいでなんて書いてあるかわからない。
黒いロングワンピースに白いエプロンでメイドさんみたいなウェイトレスさんだ。
見るとさなえやアマツカも眉を潜めている、アマツカもわからないってことは天界の字とも違うのか。
「勇者様、これは………」
ジルドレイさんが指でメニューを一つ一つ指しながら教えてくれた。
メニューを聞いていくとどうやらこの店はご飯やナンをカレーに添えて食べるみたいだ。他にもカレーにトッピングされたメニューが色々ある。
「カレーにナンつくお店なんて初めて来たな」
そうつぶやくとジルドレイさん達が声を上げた。
「そうだったんですか!」
「あら、遅れてるわねえ。この国じゃカレーにナンをつけるのは当たり前なのよ」
「中でも、ご飯とナンはカレーの付け合わせとしてどちらが相応しいかは個人によって別れそれはもう何千年も争われてるんです」
ご飯とナンの争いて、きのことたけのこみたいなものかな。どっちもチョコがついてて美味しいことには変わりないんだけどな。
「因みにわたしはご飯です」
とジルドレイさんが言うとセンカさんが合わせて言った。
「あら奇遇ね、わたしもご飯派なの」
「真似をするな、お前みたいなやつはナン派と決まっている」
「やだ失礼ね、あなたの方こそカレーにご飯なんて合わないと思うけど」
「失敬ね」
「先にに失礼なこと言ったのはそっちじゃない」
「なにぃー!」
「なによ」
ジルドレイさんとセンカさんの争いが徐々にヒートアップしてきた、ここは早めに止めないと。
ていうかご飯かナンで揉めるって聞いたのになんで自分と同じもの食べるなって揉めるんだろう。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。同じご飯派なんだからここは仲良く一緒に食べましょうよー」
『ふん!』
僕は争いを止める言葉を投げたけど二人はそっぽを向いてしまう、この二人仲が悪いのかな。ジルドレイさんが初めてセンカさんの名前を聞いた時態度が冷たかった気がするし。
「みんなはなに食べる?」
僕はさなえ達に言う。
「ナンにする。ナンのカレーとか給食でしか食べたことないし」
とさなえ。
「わたしもナンにします。城だとナンを食べると手に粉が付いて汚れると言われて普段食べさせてくれないので」
王女様が言った。
「そもそも俺は家ですら食べたことないんだが」
アマツカがムッとした顔で言う。
「天界てナンないんだ」
「ない、そもそもナンとはなんだ」
アマツカの言葉に場が凍った。とんだカルチャーショックだよ、食べたことないどころかナンて概念すらないなんて。
「絵で見た限りだとひらべったい白いパンらしいのですがわたしも実物は見たことないですね…………」
王女様が説明した。
「パンか、パンでカレーを食べるのも面白そうだな。俺もナンにしよう」
「僕もナンで、ナンとか自分の家でも作らないからね」
というかナンてスーパーでもそんな売ってなくない?
注文してしばらくしてカレーが出てくる。銀色の魔人の出そうなランプを上半分で切ったような入れ物にカレーがあって別のお皿にナンが乗って出てきた。ご飯の方はご飯とカレーが真ん中で別れた盛り方だ。
「おい、これどうやって食べるんだ」
アマツカがナンを前に固まってしまう。
「ちぎってカレーに漬けるんだよ、ほら」
僕は彼に実演して見せるとカレーの辛みと身の詰まったパンがいい感じにマッチして口の中に広がった。
「なるほど」
僕の真似をしてナンを食べるアマツカ、すると目を見開いてどんどんナンをちぎっては食べ始めた。
僕達ナン組がカサカサとナンをちぎって食べる中ご飯組のジルドレイさんとセンカさんがスプーンをカチャカチャする音が響く。
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