六話 勇者様の宿泊部屋
部屋に到着し鍵が開けられる。その中を見た時、僕は目を丸くした。広い、一言で言って部屋が広い。てっきりベッドとタンス、鏡台だけかと思ったけどそれを含めても余裕があって小さいテーブルと椅子もあった。ベッドはシングルじゃなくてダブルくらいの大きさ。ピンクの枠の薄型テレビみたいなのもある。
騎士団の人達が驚かないのを見ると何度か来賓が来た時に見たのかな。
「あ、さなえ様はこちらです」
王女様がさなえを隣の部屋に案内する。ここ広いけど二人用じゃなかったんだね。まあ、夫婦でもないのに男女を同じ部屋に泊めるのは変だからね。
「わたし達は騎士用の宿舎で待機してるので何かあったら使用人に知らせてください。すぐ駆けつけます」
ジルドレイさんがそう言って騎士団の人達とは別れた。
僕はとりあえず部屋の中に入り登山用のバックを下ろしてテレビ?の方へ近づく。普段見ないピンクの枠に入ってるけどそれは確かにテレビのような形をしていた。
「ねえ、これテレビだよね?」
僕は本当にテレビがあるのか疑わしくなってアマツカに聞いた。だってファンタジーだよ?魔法の世界だよ?なのになんで文明の、電気の方の文明の機器があるのさ!
「どう見てもテレビだろ」
驚いてないアマツカの返事。
「お祖母ちゃんの家にはなかったんだけど!」
前にマカイターミナルの機能を使って天界のお祖母ちゃんの家に行ったことがあるんだけどそこは江戸時代とか中世の暮らしをしててテレビとか文明の機器はなかったはず。
「知り合いに金持ちのやつがいてな、そいつの家にはあった」
「あったんだ…………」
アマツカの言葉に僕は言葉を失った。ファンタジー世界にもテレビはあるんだね。でもお金持ちの家にしかないってことは贅沢品なのかな。
「つけてみるか?」
「やってみてよ」
「いいがちょっとテレビから離れてろ」
「う、うん」
アマツカがテレビを置く台の下の段にある金属の枠にはまった水晶を出して手前のテーブルに置くと手をかざした。するとテレビに映像が出てくる。映像は水晶からテレビ画面に投影されている、プロジェクターかな。
「ん?」
その映像は雲がゆっくり動くだけのもので僕の知ってるテレビとは大分違った。何かの録画かな。
「これじゃ駄目か」
アマツカが映像を変える。けどそれは森の木々が風に揺れるもので僕の期待したものとは違った。
「ならこうだ」
次出た映像に僕は目を丸くした。
「え、ここ9係やってるの?!」
それは以前アマツカと見た刑事ドラマのものだったんだ。
「いや、まあ………」
アマツカが躊躇うような反応をすると映像はすぐに消えた。
「ちょっとー」
僕はアマツカに抗議するように声を上げた。
「すまない司、これはお前の知ってるテレビとは違うんだ」
「どういうこと?」
「あくまで自分の見たいものをイメージして映すのであって放送局とかがあってそこから映像が来るわけじゃないんだ。だから記憶のないものやイメージの難しいものは映せない」
「ああー」
アマツカの言葉にほのかな期待は裏切られた。だよね、ファンタジー世界に僕達の世界にあるみたいなテレビがあるわけないよね。考えれば分かることだよ、ははは…………。
「あ…………」
僕はふと気づいて声を上げる。
「どうした」
アマツカが僕を見る。
「いや、こっち来てから戦いやら王様に会うのに忙しくて豊太郎や悠と連絡とってないなって」
「そういえばそうだな。出来るのか?」
「やってみる」
僕はMギアを取り出して通信モードを使ってみる。表示される四つの名前、Mgearとあってそれぞれ横棒の後にRed、Black、Blue、Pinkとある。その中のRedを押してみる。
画面に出たのはザーザーと鳴る黒や白の点ばかりで通信機としてはまったく意味をなさなかった。
「圏外かな、ははは…………」
「はは、ははは…………」
もう僕達は笑うしか出来なかった。あの二人、ていうか二人と二匹?ほんとなにしてんだろ、暗黒ジャグラーズにやられてなきゃいいけど。
「司、今から街に行かない?エミリアが案内してくれるって」
さなえが部屋の外から言った。王女様を呼び捨て?!僕は彼女の誘いよりも王女様の呼び方に驚いた。
「え、エミリア?」
「王女様だとなんか呼びづらいからエミリアにした、あとあたし達の呼び方も下の名前にしてもらった」
「うっそー。君、人見知りじゃなかったっけ」
僕はさなえの普段と違う言動に驚きを隠せない。さなえは人見知りというだけじゃなくて年の近い女の子が色目を使うのが嫌いなはず、なのにどうして……………。
「人による。こいつはいいやつ、だから友達にした」
こいつ呼びに短期間での友達認定、もしかして王女様てさなえのタイプだったりする?
「意外、だな」
「うん………」
アマツカの言葉に僕は驚いた。
「司さん、司さん達にぜひわたし達の国を知ってもらいたいのです!さあ、街に繰り出しましょう!」
王女様が握り拳を作って力説してくる。
「どうする、アマツカ」
他の仲間と連絡が取れない状況でこんなことしてていいのかと不安になった僕はアマツカに判断を仰ぐ。
「暇つぶしに行ったらどうだ?暗黒ジャグラーズもいない今なら観光にもなる」
アマツカの言葉に固くなった頬がゆるくなった。
「よし、行こう。行きましょう王女様」
「ありがとうございます!」
王女様が笑った。まだ他の仲間の安否はわからないけどこの人の笑顔に少しだけ救われた気がした。
「じゃあ行きましょうか」
「あ、その前に…………」
部屋を出ようとする僕を王女様が止めて僕を見つめてきた。僕っていうか僕とさなえの服?
「この街でそのようなお召し物は人目を引くので替えのものを用意した方がよろしいかと………」
「あら、あたしの服が不満だっていうの?」
いつの間にか王女様の後ろにいたセンカさんが言った。
「事情は存じませんがあなたのようなしっかりした女性ならともかくうら若き乙女がそのような格好はいかがかと」
王女様が苦い表情をしながら返した。
「それもそうね。このままだとあたしも目立ちそうだしもう一つ替えの服用意してくれないかしら」
「かしこまりました」
王女様がお辞儀して立ち去る。その所作の一つ一つが丁寧に感じた。
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