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Case.after エピローグ的な何か

 今、学生から社会人までの幅広い世代で話題の店がある。


 その店の名前は――――『恋愛相談所』。

 たった一人の女性(・・)によって営業されるその店は雑誌やニュースでも取り上げられてからというもの、元々の人気に拍車をかけるようにして連日お客が舞い込んでいるらしい。


 大々的に打ち出された宣伝文句は道行く人たちの目を奪い、強烈な印象を与え続けている。

『恋愛相談所――気になるあの子の好感度、教えます』

 こんなものが大きな看板に貼り付けられていたらそりゃあインパクトは相当なものだろう。


 完全予約制の『恋愛相談所』を今から予約しようとすれば、恐らくしばらくは待たされることになるだろう。

 それほどまでに、その店は人気を博していた。


 かく言う僕自身、まさかそんなことにはならないだろうと楽観視していたため、随分と待たされることになってしまっている。

 そしてようやく今日、僕の予約していた日がやってきたのだ。

 勤めている会社には既に有休を貰っているので、心置きなく店に行くことが出来る。


「……ふぅ」


 僕は一度だけ小さく息を吐いて、店の扉をくぐった。




 店の中に入ってまず目に入ったのは受付のカウンターに座る女の人だった。

 そんな彼女が恐らくこの店唯一の従業員兼オーナーだろう。

 物凄く美人で、すれ違えばまず間違いなく振り向いてしまうはずだ。


 僕は自分の腕と足が同時に出ないよう気を付けながら、カウンターの前に座る。

 視線は、まぁ……合わせられるはずもない。




「本日はどのような恋愛相談でしょうか」




 凛と澄んだ声が響く。

 僕は女の人に促されるままにゆっくりと顔をあげた。

 いくら見ても美人で綺麗なのは変わらない。

 いつ見たってそうだ。

 こっちが緊張しているのを知っていて、この態度なのだからちょっと悔しい。

 でも、今日はちゃんと用があってここまで来たんだ。




「僕は今日、気になる人の好感度を聞きに来ました」




 恋愛相談所。

 そのキャッチフレーズにあるように、僕に、気になる人の好感度を教えてほしい、ただそれだけだ。

 ずっと昔から気になり続けている人、それは。







「冴島 灯里さん――――あなたの好感度を教えてください」




 ◆   ◆


「もう! 忙しいときに何を読んでるんですかっ! とっくに休憩時間は終わってますよ!」


「あ、ほんとだ。ごめんごめん」


 読んでいた本を閉じ、時計を見てみるとどうやら本当に休憩時間が終わっている。

 ぷんぷん怒る灯里さんを宥めつつ、僕は身支度を済ませていく。


「とっくに依頼人がやってきてますよ!」


「え、ほんと!?」


 さすがにお客さんが来ているのを待たせるわけにはいかない。

 ただ何の用意もしていなかったために、まだもうちょっと時間がかかりそうだ。


「あ、灯里さんごめん。先に言って相談聞いておいてくれる?」


「はぁ……仕方ないですね……。でも急いでくださいね?」


 怒りながらもお願いを聞いてくれる灯里さんはやっぱり優しい。

 そして何というか普段怒らない分、たまに見る怒っている顔もやっぱり可愛い。

 ……おっとこんなことを考えている暇じゃなかった。

 灯里さんが相談を聞いてくれているとは言え、僕も出来るだけ急がなくてはならない。


「……よし、こんなもんかな」


 そんなこんなで準備も済ませていき、大体出来た。

 最後に鏡で身だしなみのチェックだけ済ませるが、特に問題もなさそうだ。


 ただ、想定していたよりもかなり早く準備が終わってしまった。

 もちろん出来るだけ早く灯里さんの下へ行かなくてはならないのだが、そんな僕を引き留めるものがある。

 それはさっきまで読んでいた本だ。

 あと少しだけ読み終えるところだったのがいけなかった。


「ち、ちょっとだけ……!」


 誘惑に勝つことが出来なかった僕は椅子に座りなおして、さっきまで読んでいたページを開いた。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


「冴島 灯里さん――――あなたの好感度を教えてください」










 僕が体験してきたことを綴っただけのこの恋愛小説を信じるか信じないか、それはあなた次第です。

 ただ、それを抜きにしても、好感度というものは確かに存在しています

 そしてそれは自分のものでさえも理解するには難しいでしょう。


 でも、だからこそ面白いのかもしれません。

 自分の気持ち、他人の気持ち。

 それが分かってしまうということは、生きる楽しみの大半を棒に振っているようなものです。


 僕たちは『分からない』からこそ、相手の反応に一喜一憂します。

 分からないなりの苦悩も確かにあるでしょう。

 相手の気持ちが分からず、悩むこと、苦しむこと、泣いてしまうこともたくさんあると思います。

 それは決して悪いことではありません。


 思う存分、悩めばいいんです。

 思う存分、苦しめばいいんです。

 思う存分、泣いてしまえばいいんです。


 僕の小説風に言うのであれば、それは全部「自分」にしか出来ないことだと思いますから。




 それでも、自分の力だけじゃどうしようもない時が来るかもしれません。

 自分の気持ちをちゃんと理解しているのに、そこまでしか出来ないかもしれません。

 自分ではあと一歩が踏み出せない人が、いるかもしれません。


 勇気の量だって一人一人違うんだから、そんなの当たり前です。

 僕たちは一人一人個性があって、勇気があって、慎重さがあります。

 だからといってそこで諦めないでください。

 自分の周りには誰か手を貸してくれる人がいるはずです。

 もし望むのであれば、僕たちも手を貸します。




 僕たち、恋愛相談所は。

 気になるあの子の好感度、教えます。







 気になる人がいる方。

 好きな相手がいる方。

 付き合いたいと思う人がいる方。

 結婚したいと思う人がいる方。

 好きな人との関係をもう一歩進めたい方。







 貴方の恋愛相談をお待ちしています。

 

『告白したクラスメイトが実は有名配信者で、その秘密を知った僕は配信の手伝いをさせられている』

http://ncode.syosetu.com/n6036dr/

こちらも現代ラブコメですが、もしよろしければご一読ください。

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