10 なにこれ、すごいファンタジー。
テ「わー、空いてるね、ユウちゃん」
朝の清澄な空気に包まれた英国風の食堂にテルカちゃんの声が響いた。
食堂には最後の晩餐に出てくるような長い机が何列も横に並んでいて収容人数は何人ですか? と聞きたくなるほど、広い。流石、城。
ケ「空いてるって言うより、むしろ誰も居ないねー」
テ「そうだね〜。うれしいな、一番乗りだよ」
テルカちゃんとケイトくんはそう言いながら、入口から入って右側の方へ小走りする。
そこには白いテーブルクロスの敷かれた机があり、銀の大皿がたくさん乗っている。
あれ? 空っぽなの?
銀の大皿を覗いてみるが何も入っていない。
まだ出来ていないとか?
「おや、今日は早いですね、ケイトさん」
私が首を傾げていると、コックコートを着こなしているオールバックの素敵なおじ様が後ろから現れた。
ケ「おはよ〜、ジレンさん。今日は他の子と一緒に食べに来たよ〜」
テ「おはようございま〜す、コックさん」
ジレン「おはようございますケイトさん、テルカさん。本日のデザートはプリンでございますよ」
ケ「あ、ほんと〜、ボクの予想が当たったよ、うれしいな〜」
テ「ケイトくんの鼻、やっぱりすごいね」
甘党わんこ達とおじ様コックさんとで和やかに会話が進んでいるとおじ様コックさんはこちらに笑顔を向けてきた。
ジ「貴女とは初めてお会いしますよね?」
ユ「あ、はい。自己紹介が遅れましてすいません。
私は昨日より転入して来ました、ユウ・フジサキと申します」
ジ「初めまして、ユウさん、ですね。
私はここの料理長を勤めます、ジレンと申します、よろしくお願いしますね」
おじ様コックさんは馴れた所作でお辞儀をしてくれた。グッとくるダンディーさだ。ポイント高し。
ケ「へー、"ユウ"ちゃんって言うんだ〜」
横から笑顔を浮かべたケイトくんが話しかけてくる。
あ、自己紹介聞かれてた。
テルカちゃんが私の名前を呼んでいたのに気づいていなかったから、これも気づかないと思ったんだけどね。
そこまで甘くはないようだ、残念。
ユ「……名前を呼ばれるのは慣れてないので、苗字かあだ名でお願いします」
一応そう言っておくが聞いてくれないんだろうな。
ケ「ユウちゃんでいいよね?」
はい、スルー頂きましたぁ!
やっぱな、分かってたぜ、わんこ。
お前アレだろ? あえて空気読まないタイプだろ? 分かっててやってるだろ?
嫌だ、ってはっきり言っても聞いてくれない気がバリバリする。
かと言っても頷くのも癪なんで放置決定。
無視される切なさを知ればよい。
ユ「ところで、ジレンさん、どうして料理が出てないんですか?」
さっき疑問に思ったので聞いてみる。
ジ「あれ、初めてですか?」
おじ様コックさんが驚いたように言うが、何をだろう? 疑問は深まる。
ジ「では、見せた方が早いですよね」
だから、何をだ。
含みのある言い方をされ、気になる。
テ「そう言えば、昨日はユウちゃん最後の方に食べに来たからね、見てないよね」
いや、いい加減気になるんだが。にっこり笑ってテルカちゃんは言ってるが、もういいだろ、仲間外れも切ないぞ、泣いちゃうよ。
疎外感を感じていると。
ジ「転移」
――パチンッ
とおじ様コックさんは指からいい音をならした。
瞬き一つしなかったその瞬間、銀の食器に朝ごはんが現れた。
なにこれ、すごいファンタジー。
指パッチンでご飯出てくるとか……あり得ない。
さっきまで空だった大きな銀の皿には香草で香り付けされた鶏の照り焼きやら、バターをたっぷり塗ってある胡桃パンやら、みずみずしそうなフルーツやらでいっぱいになっていた。
これ魔法だよね? 魔法すげーな。夢とロマンで溢れすぎでしょ。これは魔法を学ぶのがすごく楽しみになってきた。
私が感心してるとおじ様は少し誇らしげにしていた。
ジ「これは転移魔法をかなりの量を一度で複数の場所に転移出来るようにした改良型です。
ここの学園の生徒さんが改良してくれたのもので、魔力と運ぶ量を調整して転移位置を指定して……」
その後も嬉しそうに解説くれるが、分からないよ、おじ様。
私、今日初めて魔法見たのよ。理論とかまだ全然分からない。
目をキラキラとさせ、いかに出来立て料理を皆に食べてもらえるかを研究していて、と語られれば無下にはできない。
良いコックさんだなー。そう思いながら良く分からない魔法理論を右から左に、左から右に受け流してると。
テ「ほ、ほら。早く食べようよ! ね? 小難しい事はおいしい食事中にはよくないんだよ!」
テルカちゃんが慌てたように助け舟を出してくれた。
まぁ、テルカちゃんは難しい話とか苦手だから、違う話題にして逃げたかっただけかもしれないが、何はともあれ、ありがたい。
ケ「そうだね〜冷めない内に食べたいしね。じゃあジレンさん、またね〜」
ケイトくんはジレンさんの様子に馴れたように笑っていた。
ジ「……は……いつまでも引き留めてすいませんでした。
今日も料理人が腕によりをかけて作らせてもらいました、ごゆっくりお召し上がりください」
ジレンのおじ様は照れ笑いながらそう言うと、一礼して足早に厨房と思われる扉へと入っていった。
ケ「いや〜ジレンさんは昔から料理の事になると熱くなるんだよね〜」
ユ「昔から、ですか?」
ケ「あれ、言ってなかったけ?ジレンさんはボクの家のコックさんだったんだよ」
ユ「へー、そうだったんですか」
軽い無視をケイトくんにしていたのをすっかり忘れて反応してしまった。
知らなかったな。そうか、おじ様は狼男さんの胃袋を握ってたのか。
ケイトくんの家はお金持ちだからコックとかを普通に雇えるのだろう。
フジサキ家にもコックさんは居たが、私の気分は日本の庶民のままだから正直、気後れがすごいです。きっとこれがブルジョアだね。
それにしても、ゲームでは見なかった人だけどケイトくんルートの時に出てきそうな人だったな。おじ様、格好よかったし。
重要そうだけど、開発者の知らない人が出るって、本当に現実っぽくて面白いね。
シナリオもやっぱり変化したりするのかな!?
え、楽しんでる? って?
ハハハ、そんな訳ないですよ。別にどんなシナリオ展開するのか興味あるわけないし、面白かったら参考にしようとかも思ってませんよ、ええ、はい。…………多分。
私が脳内で挙動不審になっていると。
……グー。
テルカちゃんのお腹がなった。
テ「あっ……、あはは。二人ともご飯食べながら話そ? 私、お腹空いちゃったみたい」
そうだったね、シナリオ展開に興味が移ってしまったが今は朝ごはん前だ。
時間はまだあるが、腹が減っては戦は出来ぬと昔から言いますし、早く食事にしますか。
ユ「そうですね、テルカちゃんもそう言ってますから、早く取りに行きましょうか?」
私はそう促すと二人は好きなものを取ろうと、パタパタと食器の置いてあるテーブルに向かって小走りした。
ケ「じゃあ、ボクはプリンを取りに行ってきまーす」
ケイトくんは銀食器を持つとまた小走りしてデザートコーナーに向かった。
ユ「いや、朝ご飯食べてからにしようよ」
私は軽くつっこみを入れたが絶対に届いてない。
ま、いいか。美味しそうなご飯の前、私は細かい事を忘れて食べるのに専念する事にした。
このチキンとか美味しそうだし。え? 朝からカロリーヤバそう? いやーそれはきっとなんとかなるよ。うん、きっと。
私も銀食器を持つと選びに向かった。




