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平和(かのじょ)を愛した魔女  作者: 井上笑子


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第九話 拒絶の雷

 

 私の牢には珍しい騒めきを感じて、私は、微睡から抜け出す。

 

 牢には、まだ誰も来ていない。

 だけど、扉の外から、何人かの人の声がする。

 アヤセじゃない。

 なら、誰?


 私が、扉を睨んでいると、ケンサの時の白いローブの人たちと、白衣の男が入ってきた。

 「ひっ!」

 ケンサで散々受けた痛みが、頭の中によぎって、悲鳴が漏れた。


 また、痛いことをされるの?

 また、あの部屋に連れて行かれる?


 「いや、嫌。嫌だ!

 来ないで!

 私に近づくな!」

 口から勝手に獣が唸るような声が飛び出す。


 彼らは、いつも通りお構いなしに、私に近づく。

 絶望。

 反射的に後ずさろうとして、壁に背をつける。

 ベッドの上で、硬直した。


 その瞬間のことだった。

 室内に雷が爆ぜた。

 こないだより大きな、青白い稲光りが、牢内を走っては消えた。

 

 今度怯えたのは、大人たちだった。

「うわっ!」

「ぎゃあ!」

「ヒイイイィ」


 大人たちは、稲光りから逃げ惑い、我先にと牢から出ようと、扉に殺到した。

 大きくもない、一人用の扉を押し合いへしあいしながら通る、自称神の代弁者たちは、あまりに醜く人間でしかなかった。

 

 牢に残ったのは、白い服のおじさん一人だけ。

 私は、意図してなかった一連の流れに追いつけず。

 だからだろうか?

 牢の中は、もう雷は止んでいた。

 

 おじさんはアヤセと同じくらいの歳に見えた。

 アヤセより賢そう。

 この人は、どうして出て行かないんだろ?

 

 私がポカンと、男と扉に視線を迷っていると、じっとこちらを見下ろしていた男が、ようやく口を開いた。

 

 「君、アヤセに何か言ったかい?」

 「え?」


 「最近、あいつは機嫌が悪い。落ち込んだり、苛立ったり。とにかく調子が悪そうだ。

 ちょうど、君があいつを拒絶した日から。

 あの日、君はあいつに何を言ったんだ?」

 

 おじさんは、私を責めるように、こちらを睨みつけた。

 思わず、私は肩を揺らす。


 「あ……」

 あの日、私は何を言ったっけ?

 アヤセはあの日、私が国を救って死ぬ話についてどう思うか聞いてきて、私は今までの勘違いを知って、ショックで。

 ……そうだ。

 あの日、私は、「あなたたちが大嫌い」だって。

 アヤセに、「あっちへいって」って。「消えて」って言った。

 

 でも、その程度で、アヤセが調子を崩す?

 わけがわからない。

 嫌われるようなことをしたのは、あなたたちなのに?


 「知らない」

 私は、おじさんから目をそらした。

 なぜか、悪いことをしたような気持ちになる自分が嫌だった。

 

 「……まあ、いい。今後はあいつに余計なことを言わないでくれ。

 もうあいつと君が会うこともないだろうが」

 「え……?」

 私が振り返っても、おじさんは足を止めず、牢を出ていった。


 世話役のアヤセと、私がもう会わないって、どういう意味?

 あの騒ぎの後も来たのに?

 どういうこと?

 

 一人きりの牢で、私の疑問に答えてくれる人はいなかった。

 

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