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【天賦拝命】アーツブローカーの苦節  作者: 中折れ青二才
ep0《神銀の剣・喪失編》
4/30

《魔の来たる深淵》にて

◆◇◆◇◆


 そこは驚く程に静かだった。魔物は愚か罠の類も少なく、血痕や汚れすらなく真新しさを感じさせる程だった───名前負けもいいところだ


 少なくとも先人たちが行って帰ってくる。もしくはその地に身を伏せ、後に続く者に何かを託した筈だ。しかし、そこには死体すらもなかった


「これはどう言うことだ」


 動物が食い漁ったか自然に分解されたのか。しかし、動物が食い漁ったにしては綺麗な状態に説明がつかない。よしんば動物が食い漁ったとして、油や血、肉片が飛び散り、さらに汚す筈だ


 自然が分解したとして、それ程までに時間が経っているとは考えづらい。この線も薄い


「…」


 いや、そんなことを考えている場合じゃない。一刻でも早く神銀の剣の皆んなを探し出さないといけない。安否確認が先決だ


 そんな通路の先でモンスター───人類に仇す存在が現れた。見た目から菌類型と分かった。なるほど死体の少なさと綺麗なのはこいつらの仕業だったのかと納得できた


 細かいことは抜きにして、人型のそれは大きなきのこに手足が生えた見た目をしていた


「…」


 想像通りの両手による攻撃範囲は近接の間合いをしており、振り回す拳に武術の気配は感じられなかった。身体を使っているだけで使いこなせている訳ではなかった


「どうせ後で使うし」


 荷物の中から松明を取り出し、火をつける。菌類型には再生───群体特有の身体維持機構がある。物理的な切る、刺す、打つによる効果はあれど即座に再生される。故に再生を繰り返す機構を破壊しなければ無駄に資源を費やすハメになる


 薄暗い通路に揺らめく火───松明による殴打で《彷徨うキノコヒト》を燃やし焦がした。燃えた箇所が黒ずみ欠けていく


「気色悪いんだよ」


◆◇◆◇◆


 追加の敵はおらず、動くものは松明の火と俺だけになった。轟々と燃える松明の火が映し出す光景に俺は言葉を失った


「これは暗黒…」


 モンスターの抵抗が見られる箇所にそれはあった。『暗黒化』───炭化しているものとは違うその部位。『アーツ』として理解しているせいでそれが『暗黒化』であることが分かった


 しかし、身体を暗黒化させるなんて、そんなことが罷り通るなら装備の概念が崩れるぞ


「いや、今はそれより」


 身体を焦がす勢いで菌類型を除去していく、モンスターの暗黒化した部分を手持ちに加えるべく手短に加工を始める


「考えるな、考えるな」


 頭によぎる最悪を考えない様にした


『死者蘇生』と『起死回生』は似て非なる物だ。ティーナのそれは【起死回生】だ。死んだものを呼び戻せる訳ではない───それでも縋るしかなかった。彼女でなくとも教会であればと精神を落ち着ける


 菌類型の特性───死体に取り憑くモノ、生者であればまず問題ない。身体と魔力が侵食を無効にする。死んだとしても対策をしていれば


「…」


◆◇◆◇◆


 本当に不気味だ。彷徨うキノコヒト以外のモンスターは愚か、罠の類すらなく迷宮の核である一室の手前までやってきた。アルトラ達の姿がなかったのは幸か不幸か


 迷宮と核の部屋を隔てる扉の前に立つ。迷宮は異質だ。人口的に見えて自然由来、モンスターの巣窟ながら崩壊しない内部、奇妙な例えだが迷宮に意思があるように見えて仕方がない、物に意思が宿る


 そんな馬鹿馬鹿しい話がある訳がない。と一蹴できない理由がある───《意思ある魔道具インテリジェンス・ツール》。道具自身に不調を申告させる機能だ。不可能ではない、寧ろ取り入れるべきだろう


 故に恐ろしい、迷宮には意思があると仮定した時、それが何故人類に仇すのか。皆目見当がつかない、不気味───その一言に尽きる


「…」


 それでも進まねばいけなかった。俺は学術書に描かれていた絵と同じ物が彫られた石扉に触れて中へと入った

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