人狼の幼体《シズク》ー4
【辻褄合わせ】
・「奴隷になんて」を
・「あんな場所に」へ【改変】
◆◇◆◇◆
「はぁ、はぁ
ここまで来れば」
「ここまで来れば?」
「!」
俺は息も絶え絶えのシズクに声を掛けた。追跡は彼女の爪の痕から所々に残る血痕へと追跡対処が移っていたため探し出すのにそれ程の苦労は掛からなかった
見れば両足の爪、両手の爪は全て剥がれ落ちており、爪があった所には血の化粧が施されていた。血液の凝血───止血になっているのは不幸中の幸いだった
しかし、これ以上の逃走を許せば、命が危ない
「お前は誰だ、なんの様だ!」
「俺は…」
「《威嚇》」
駄目だこりゃ、興奮状態だ
シズクは荒い呼吸を繰り返しながら、俺を睨みつけた。その瞳には《激しい怒り》が燃え盛っていた
剥がれ落ちた爪から滴る血が僅かに彼女の早まった鼓動を俺に知らせていた。獣と人の混ざった顔とその瞳に灯る闘志がことの厄介さを物語る
「戻るか!あんな場所に
戻るもんか!!」
震える声でそう叫ぶ彼女は力を振り絞って、俺に襲い掛かってきた。しかし、その動きはあまりにも遅く、途切れ途切れだ。毒が全身を蝕み、指先すら思うように動かせないのだろう
受け止めて捕獲と言いたい所だったがそうはいかなかった。彼女は獣人だ───心臓の鼓動が続く限り、相手の喉仏を嚙みちぎらんと牙を剥き出し、死の淵を彷徨っていようとも誇りを失うことのない高貴な種族。その朽ちかけた肉体を突き動かしているのはそれだろうか。面倒だ
「…」
「ハァア!」
シズクの細い腕が、俺を掠める。一撃一撃に彼女の全身全霊が込められているのが分かった。弱っていても流石というか、受けた腕に僅かな痛みを覚える威力だ
しかし、その激しい運動が彼女の体力を奪い、毒の進行を加速させるとは彼女は知っているのだろうか
「…」
状況はあまり芳しくない
彼女の呼吸がさらに浅くなり、瞳の輝きが揺らぎ始める。これ以上の消耗は好ましくない。それに速度が著しく落ちていく攻撃の勢いは消えていく誇り、命の灯火か───見ていられない
「ここだな」
『捕縛術』を仕掛けた───速度の落ちた腕を素早く掴み上げる。その腕は見たまま、細く、弱々しい。しかし未だ敵を討たんとしていた
狙うのは関節の可動域を奪うこと───採寸布で脇、肘、手首を絡め取り、隙間をなくす様に身体を小さく畳む。耐久性に難のある布でも力みの余地を潰せばある程度気にしなくていい
「ぐっ、あ…」
シズクの体が強張った。抵抗をしようとしているものの力はもう残っていない様だった。薄く脆い採寸布でさえ、今の彼女ではどうすることもできないだろう
「寝てろ」
彼女が意識を手放した。息はしている
一刻でも早く帰らなければいけないと彼女を担ぎ上げる。血と汗のすえた匂いがする。身体が汚れているということは傷口から新たな状態異常を受けるかもしれない。急いで宿屋へと向かった




