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夢に見るのは【遠い背中】

◆◇◆◇◆


『アーツ』の取得は地道だ。よく植物の成長や育成過程に例えられる。植物によって成長の過程や必要な環境、はたまた育成方法も違ってくる


『アーツ』も同様で正しい手順を踏まなければ芽吹くことすらない。芽吹いた所で間違った方法を取れば枯れることすらある。枯れると言っても良くて『成長しない』悪ければ『死ぬ』程だ


 だからこそ新しく『剣術』を取得するより【剣術】を磨く様に『アーツ』を取り【成長】に繋げるのである。それが常識であり、『アーツ』を好んで主軸に揃える者は余程の【ハズレ】か酔狂者、愚か者だ


◆◇◆◇◆


「気をつけて…」


「あぁ」


「…」


「お見送り感謝します」


「ん、吉報を待つ」


 俺は見送るしかできない。それぞれが【素晴らしい力】を持ち『シナジー』を身につけたパーティメンバーだ。『共有』を終えた俺はその役割を終えている。後は結果を待つばかりである


「…」


 皆を送り出し、寂しくなった宿屋に戻る。俺ができるのは精々が皆が帰ってくる場所の整理と維持位だ。鉄の盾を見ながら物思いに耽る


◆◇◆◇◆


 始まりは5の年を刻む前、駆け出しだったアルトラからの声掛けから始まった。口は中々悪いが言っている事は利益より人情を大切にする奴だった


【皇帝剣術】と言う【呪われたスキル】───皇帝と特権階級の者以外が行使することを是とされない【スキル】を持って生まれた男は野心も持っていた


 俺に声をかけた理由は「直感」だそうだ。特権階級の甘い汁に興味がなく、知識豊富な俺を見て欲しくなったんだとか。その後アルトラの腐れ縁ゴードンが加わった


【暗黒化】と言う【変性スキル】───装備を【強靭な物】へと変える【準魔術師】の盾役により3人で始まった《神銀(ミスリル)の剣》かつて勇者の旅を支えた武器の名前をそのままパーティ名となった


 名が上がるにつれ『魔術師擬き』の俺では手が足りなくなりエリアが仲間になった。【古の叡智】と言う【スキル】により魔術でありながら『古代魔術』───詠唱を伴った強力な一撃を放てる魔術師が仲間になり、躍進を遂げた


 名が上がり、アルトラが特権階級になり本格的に【皇帝剣術】を主軸に立ち回る様になった時【天使の白キ歌声】───死に瀕した者でさえ呼び戻し、その命を深く繋ぎ止められる《祈祷師聖女》ティーナが派遣された


 アルトラは最初こそ彼女を嫌っていたがティーナの心根にその態度を軟化させた


 そして、活動3年目。事件が起きた


《厄》の活発化だ。厄毒もそのひとつで各地で猛威を振い始めた───一心不乱に足掻き続けた。気がつけば最前線、先人達の屍を足元に戦う状況に違和感のない練度となっていた


 活動4年目。アルトラからの命令で前線を離れ『アーツ』の習得に専念する様に言われる。俺とゴードン、エリアは反対したがアルトラとティーナの説得により、俺は折れた


 そして現在、軽口を叩く間柄なのもあって雰囲気とその言葉の裏にある真意も分かっている。それでも不安は拭えない


 この1年間、俺はどんな顔をしていたのか。死地に赴く彼ら、彼女らに手を振ることしかできないことを呪った


 それでも【天賦拝命】の真価が今まさに出ているからこそ、この状況───後方という状態に甘んじている。雑用さえもただ自分を納得させる理由づくりだ


◆◇◆◇◆


 それでも俺には一途の希望があった『アーツ』の成長だ。俺は酔狂者だろう


「…ふっ、ふっ」


 剣を振るい、盾を構える。槍を穿ち、槌を叩きつける。武の【才能】がなくとも『アーツ』を持って事態に備える。実践はできていないものの肩から肘、手首、手のひら、指先そして得物と扱いに慣れてきた


 複数の『アーツ』を成長させ、身体を鍛える本職には勝らずとも劣らず、腐ることなく続けてみた。それもこれも【天賦拝命】のおかげで『武芸百般』なる『アーツ』を手に入れた


 あらゆる得物を扱うにあたり、その特異性を見抜くばかりか活用できる域に達する『アーツ』なのだとか、実戦で使えないのが歯痒いばかりだ


◆◇◆◇◆


 よく前線に出して貰えないばかりか雑用までさせられることを不遇と称すが、評価に本人が環境に甘んじているのであればそれは不遇とはならず───ましてや変わる気のない怠惰を不遇とするのは不遇に対する侮辱である


 努力をしている、否それは努力ではなく我武者羅だ。それでは前に進むどころの話ではない。進むべき道と進み方を知っている身で言うのも《アレ》だが視野が狭いと思われる


 なれば変える努力ではなく変わる努力が必要となる。それは一重に苦難であることに変わりはない。それだけは確かだ


「…風呂に行こう」


 とは言うものの、今や教えを乞う側に等しいながらアルトラやゴードンの『アーツ』を未だに磨いているのは置いていかれている事実から目を背けたいからだろうか。そうであって欲しくないと思う度己の女々しさに苦笑が漏れた


◆◇◆◇◆


「…」


 魔術の鍛錬は最早行き詰まっていると言っていい『詠唱系』『属性節』『修飾詞』など手数こそ勝り、本職の火力に劣っていたこれらも今どれ程の能力を持っているのかが不明でならない


 エリアが使い終わった魔道書や学術書、文献を渡してくれるため最適化は問題はないものの、やはり不安が残る


◆◇◆◇◆


「…」


 専ら試せないのが『斥候』『盗賊』『工作』の類だ。使い方によっては犯罪者になり得るこれらも迷宮では活躍の場を受けられる。小手先の技術故に大きな差が開けば壊滅的な被害を出せないが罠の発見や地図作成、風を読み、地形を把握し、環境を利用して戦況を有利に運べる視点はやはり欠かせない、皆に共有してるため臨機応変に対応できるだろう


 せめて俺を『斥候』として同行させて欲しかったと言えば我儘だろうか


◆◇◆◇◆


「…」


 対照的に『料理』や『錬金・錬成術』は目に見えて分かる。野菜の切断面や味付けに盛り付けの美しさ、食べる側、盛り付ける側のいずれでも楽しみながら成長を実感できる


 錬金や錬成に至っては金策や宿屋の手伝いで嫌でも上がる。おかげで宿屋の布団の柔らかさや虫避けについて、かなり深く理解ができている。野営の時でも安心・安全、健康・健全


 迷宮の中でも質のいい休息が取れること間違いなし、ティーナが「これは、いけないものです」とエリアから垂れ込みがあった時は流石に笑った


 そんな、現場を間近で見たかったな

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