271. マンダリンの変貌
ホテルのロビーも、かなり変わっていた。
それは予想の範囲内だ。
なにしろ二十数年が過ぎている。
私は地球で三十年あまり生き、死んで、異世界で転生して育ち、また地球へと戻ってきた。
二十年という歳月は、一人の人間にははっきりとした刻みを残す。
学生から社畜へ、社畜から中年へ、中年から、老いるまでもなく列車の線路に落ちて死んだ人へ。
だが街の変化は、たいてい人よりも遅い。
一夜にして変わるものではなく、毎日は気づかないが、ある日ふと振り返ったとき、スカイライン全体が別の色に変わっていた。
そんな類の変わり方だ。
曼華大酒店も、そうだった。
私とユーナが肩を並べて回転ドアを入ったとき、まず目に入ったのは、ロビーの中央の、吹き抜けになった中庭だった。
あの中庭は覚えている。
前世でここに三ヶ月、フロントアシスタントとして勤めた。
毎日、出勤も退勤も、そこを通らねばならなかった。
白い円形の大理石の床、中央に置かれた丸い水盤の庭。
その水盤には何匹かの錦鯉が飼われていて、魚はオレンジと白で、水のなかをだらだらと泳ぎ、行き交う客にはまったく無関心そうだった。
天井はアーチ型で、巨大な球形のシャンデリアが一つ、吊るされていた。
ランプシェードはすりガラスで、灯りが点くと暖かな黄色の光が拡散し、ロビー全体を暖かく、若々しく見せていた。
それはあの時代のデザイン感覚だった。
活気があって、明るくて、「私たちは活力にあふれています」と外に向かって懸命に示そうとする、あの熱意。
そして私の目の前にある曼華大酒店のロビーは、すっかり姿を変えていた。
丸い水盤はもうない。
かわりに、ヘアライン仕上げの金属のラインで構成された、四角いインスタレーションが置かれていた。
約二メートル四方、高さは肩まで。
内部には、不規則な形の擦り消し金色の金属片がいくつか吊るされ、ロビーのエアコンの気流のなかでゆるやかに回転しながら、ときおり触れ合って、軽くて短い金属の打音を響かせる。
それはまるで、意図的にデザインされたアンビエント音のように聞こえた。
床の白い大理石は変わっていなかったが、敷き方は変わっていた。
かつての円形の組み合わせから、簡潔な四角い敷き詰めへと変わり、継ぎ目には細長い黒い石板が埋め込まれていて、整然としていた。
控えめに。
ロビー全体のメインカラーは、かつての暖白と原木色から、黒と灰色の二色が支配する、ミニマルなビジネススタイルへと変わっていた。
天井のシャンデリアも取り替えられていて、あのすりガラスの球はもうなかった。
かわりに、異なる高さに吊るされた何本もの細長いラインランプが、白く冷たい光を下へと打ちつけ、床やフロントのカウンターをはっきりと、硬質に照らし出している。
フロント後方の背景壁には、もとの花のレリーフ模様が削り落とされ、全面が、つや消しの濃い灰色の石材に張り替えられていた。
そのうえに「曼華」の大きな金色の文字が嵌め込まれ、字体の角は四角く、筆画は剛直だった。
あの錦鯉にいたっては、少し考えてみたが、どこに行ったのか、答えは見つからなかった。
たぶん、もうずっと前に、いなくなっていたのだろう。
「ずいぶん変わったね」ユーナが隣でそっと言った。
声は低く、平坦で、感慨を飾る修飾語もなかった。
ただの陳述。
「うん」
「昔、ここに何かあったよね……」彼女は記憶を探った。
「水盤? 魚がいたあれ?」
「まだ覚えてるんだ」
「だって、あなたが前世でここでアルバイトしてたとき、私が会いに来て、隣のソファに座ってると、真正面にあの水盤があってね」
彼女はしばらく考えた。
「私、そこに座ってあなたを待ってて、一日中なにもすることがなくて、錦鯉を見つめるしかなかったんだ。あの魚たちを一匹ずつ数えて、何度もね。最後に、オレンジの一匹の腹のところに白い小さな斑点があるのを見つけて、あなたが退勤するのを待って、わざわざその話をしに来たの」
私は首をかしげて彼女を見た。
「私に、一匹の魚の腹の話をするためにだけ?」
「あのころ、話すことなんてなかったんだから」彼女はもっともらしく言った。
「あなたはフロントで忙しいし、私はソファに座ってるだけで、しょっちゅう話しかけにいくわけにもいかないし。それで魚を数えてね。それからあなたが退勤するのを待って、なにか話し始めるきっかけを探して」
私は何も言わずに、何秒か彼女を見つめた。
それからようやく、ゆっくりと言った。
「前世のお前は、本当に、ものを認めるのが下手な人だったな」
「……今は、ちゃんと素直になってるでしょ」彼女は顔を横に背けた。
声には筋は通っていないが、どうにか通そうとする、そんな意地があった。
「前世の分の埋め合わせと思って」
私はそれ以上言わず、ただ顔を戻して、視線をロビーのフロントの方へと、改めて向けた。
さっき入ったときは、フロントの方の様子をじっくりと注意して見ていなかった。
今、立ち止まってよく見てみると、スタッフの服装までがすっかり変わっていることに気づいた。
前世の曼華大酒店では、フロントスタッフの制服は、あの若々しい生気あふれるスタイルだった。
色はホテルのテーマカラーである暖かなオレンジのパーカーに、クリーム色のゆったりした長ズボン、足には軽いスニーカー。
あのころは、多くのサービス業がそのスタイルを採っていた。
「親しみやすさ」「若々しさ」「親近感」。
接客スタッフを、モールで偶然出会う同級生のように着飾ることで、客の心理的な距離感を縮め、チェックイン率を上げられる。
そんなふうに言われていたのだ。
当時、その制服を着ているとき、私はいつも、ここで働くスタッフというよりは、むしろ、ちょうどチェックインに来た普通の宿泊客のように思えたものだ。
これがのちに、ある事件の伏線にもなったのだが、それはまた、後の話だ。
今ではフロントのスタッフたちは、まったく別の装いに変わっていた。
黒いスーツ、白いワイシャツ、ネクタイの色はホテルのブランドカラーである濃い金色で、標準的なプレーンノットで結ばれている。
下は黒いスラックスか、同じ色のAラインのタイトスカート。
ズボンの折り目もスカートの線も、きれいにアイロンがけされていて、余分なシワは一切見当たらなかった。
革靴はぴかぴかに磨き上げられ、ロビーの床の白く冷たい光の下で、ほのかに光っている。
さっき私の外見によってあっさり撃沈されたあの若い男の子さえ、この黒いスーツに身を包めば、遠くから見ると、落ち着いた老練な大人の姿に見えるのだった。
「まさに馬子にも衣装」
ユーナが横からそんな言葉を放り込んできた。
その口調には、あの濃厚な、隠しようのないツッコミの味があって、私は思わず、軽く笑みを漏らした。
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