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主人公は誰か

 勇者の元を離れて向かった際は、ほんの少し、マジで一瞬留守にしていた魔王城。

 よかったよ。ユリエルに無視されても嘘を吐いて保持し続けた魔法。

 仲間の危険が分かる魔法。

 俺が仲間の元に駆け付けられるのは、聖杯でもなければ聖剣の力でもなく、魔法。

 最終的に結局自分の力しか信じられないってのは悲しいもんだな。

 冗談もいいところで、魔王城は喧噪に包まれていた。

 騒がしい。恐れや混乱というよりは……そうだな、最初の方によく聞いた、反乱の声、か。


「なんの冗談か知らねえが、ネクロン。その椅子、誰のもんか知ってんのか?」


 ネクロン・ダーク。

 元大魔族の一人で俺の考え得る最強のパーティーに新加入した期待の新生。

 それが今、長い間俺のために……いや、俺たちのために戦ってくれていたユリエルを足蹴にして玉座に座っていた。

 しかも、片手には聖杯まで持っていやがる。


「ルカさん……! ごめ、ウチのせいで」

「おいふざけんなよユリエル。お前が悪い事なんざ何一つねえだろ。大人しくしてな、今すぐ助けてやる」

「気を使ってほしいな、ルカ。私はようやく聖杯が手に入ったというのに、この子が余計な結界魔法をかけたお陰で使えない」

「ファインプレーだ。本当にこんなクソゲーでお前はいつだって助けてくれる。ネクロン、今寝返るってなら許すぞ」

「寝返る? 勘違いしないでほしいな。私は正統なる魔王だよ。君こそ、魔王面をしないでほしいな」

「魔王だよバーカ」

「その粗暴な態度に言葉遣い。魔王の格が何たるかを、父親に学ばなかったようだ」

「すかした喋り方してんじゃねえよ。お前こそ親父にジョークの一つも学ばなかったか?」

「父は死んだ。あなたの父が殺した40億の内の一人だ」


 ネクロンは怒りを露にするわけでもなく、ただ淡々と事実を口に出した。

 魔王が殺した40億の中には、魔族も入っている。しかも一人や二人じゃない。確認できただけでも20万人。少ないかもしれないが、それは魔族の絶対数が少ないからだ。

 勇者を有する王国や周辺諸国、世界の半分が人口を失った。

 逆にそこまでしなければ、魔王軍は世界から集中して狙われていただろう。

 魔王軍が無事だった理由はただひとつ。魔王軍に対して戦う力がなかっただけだ。

 だからこいつは分かってない。この時代に魔王になることの意味が。


「お悔やみを。で? 聖杯の力で何を望む。勇者を殺すのは止めといた方が良いぞ」

「魔王になりたがる人間というのは、何故こうも、浅慮なのだろうね」

「婉曲な言い回しは止めろや、はっきり言え」

「聖杯で勇者を殺す必要はない。既に先の戦いで勇者フィーネは捕らえ、聖剣も手に入れた」

「お前程度の魔族に負けるたまじゃないと思うがね」

「勇者軍や自らの弟を手にかける程の度胸は、なかったようです。あんな姉でも、少しは尊敬できるところがあるということでしょう」


 白金の髪の毛。どことなく雰囲気が、特に目がフィーネにそっくりな少年が、魔王城の入り口から現れた。

 俺はすぐに移動してきたはずだが。入れ違いか。こんなことなら、あのまま勇者を誘拐でもしておくべきだった。

 こんな奴の手に聖剣が渡るよりはずっとマシだ。


「なるほどな、勇者を殺す必要はない。仲間にした、と。良いのか? 聖杯のストーリーと大分違うクソ台本だが」

「魔王と勇者が手を取り合うことの何に問題があるんだい?」

「古い世代の人間の話しです。聞く必要はないでしょう。僕の姉すら殺せないような、見せかけの魔王です」

「あーあ、傷ついた。で? どうすんのよ、魔王になって勇者と仲間になって。この後の時代は地獄だぞ?」

「驚いた。世界を巻き込んだ戦争について考えが及んでいたとは」

「俺だけじゃねえ、ウチの参謀も気づいたよ」

「優秀です。こちら参謀はどこかで死んだようですが、仰る通り、魔王が40億の人を殺したことで魔王軍は世界共通の敵となりましたが、同時に反抗する手立てすら潰えさせた。挙兵できる数が全く揃っていなかった」

「今まではだろ。もう80年だ。そろそろ他の幾つもの国が動くぞ?」

「構わない。私には、死者を蘇生させる魔法がある」


 ネクロンの影から骸骨が這い出て来る。風化した骨にボロボロの剣。

 散々魔法を使ってるってのに、こういう現実離れした物を見ると驚くと同時に、吐き気がする。


「下衆野郎が。冒涜も大概にしろよ。その仏さんのことを知ってるのか?」

「さあね。この辺で掘り当てたから勇者軍の誰かだろう。君を恨むにはもってこいの動機だ。ユリエル君に手伝ってもらった甲斐があった。彼女に私の固有魔法を改良してもらってね……彼女はどこだ」

「ひっひっひっ、まったく悪党って言うのは詰めが甘くて仕方がないのう。行け、リラ」


 影からミミがリラを伴って姿を現した。

 すぐに武装を生成したリラがネクロンを狙うが、横から割って入ったカイン・アークライト、新勇者に止められる。

 残像が目に焼き付くほどの速さ。人の速さじゃない。

 新勇者は笑みを見せると、リラの銃をへし折ってそのまま剣で圧しきり、素早く背後に回って背中を叩き落とす。

 だが次の瞬間には前に回り込んで腹に足を打ち込み、壁際まで吹き飛ばした。

 速すぎる。何より剣術のキレが尋常じゃない。ただの体術だけでリラを圧倒している。

 リラは戦闘の最中防御を解き、ほぼ終わっているバランスで新勇者を撃つ。

 いや、新勇者の後ろのネクロンを撃った。

 胸に弾丸をもらったネクロンはさすがに後ずさったが、涼しい顔をしている。


「カイン」

「申し訳ない。すぐに終わらせる」


 連続攻撃のラッシュ。リラの弾丸は新勇者を撃つ前に軌道が歪んでどこかへ行った。

 どういう加護なのか説明がほしい位に滅茶苦茶やってる。


「やれやれ。ところで元魔王。魔族とのハーフは死ぬとどうなると思う?」

「あ? 魔力の残滓が消えた後死体が残る。魔族と違ってな」

「その通り。私はハーフでね。死んだところで残った体を蘇生する術式を自身に刻んでいる」「不死身ってか? 俺と同じじゃねえか」

「君の治癒能力とは比較にならない。君の殺し方はある程度把握しているからね」


 襲い来る骸骨兵の頭を掴んでそのまま地面に倒した。

 頭が取れても、体の方は動いたままで変わらず襲い掛かってきた。まるで、ゾンビ。


「B級もいいところだな。燃やせば、天に召されてくれるかな?」


 一般的に使われる爆発や炎系の術式ではなく、俺が見た未来の歴史書の固有魔法。

 地獄の業火を出す魔法。

 青々と光る炎が骸骨を包み込み、今度こそ安らかなる眠りについた。


「ほう。やはり君の能力は突出している。聖杯でも聖剣でもない、まったく別の力。興味深いが、魔力消費も大きそうだ」


 さらに多くの骸骨兵が出現する。こいつ、節操もないし規模も普通じゃない。

 何でこうなったんだろうな、まったく。

 俺たちは特に間違いを犯さずここまで来たはず。計画も練り上げられたものだ。

 俺が考えてミミが形にした。しかもこっちはある程度未来まで見たって言うのに、こいつらは……あ? 未来。


「ええもう、めんっどくさ。何? 神託装置まだあんの?」

「今回の計画に邪魔だったので教会は潰しましたが、司祭を拷問して装置の予備を発見しました。よく気付きましたね」

「教会を潰してくれたことには感謝しますが、勇者のやることですか」


 リラの突っ込みを軽くいなし、武装を全て剣で破壊する新勇者。

 戦いの速度が上がってきている。新勇者の聖剣の試運転に使われているような物だ。


「計画は完璧だよ。私はね、元魔王。私を作り出したダーク家はもちろん、この世界を支配しかけて破壊だけした魔王も、何もかも嫌いなんだ。新しい世界を作り変える。戦争もなく。固有魔法のない平等な世界に」

「馬鹿もここまでくると極まったものよのう。その平等はそもそも選ばれた人間のみが享受する様なものじゃ。軽々しく重い言葉を口にするでない」

「さすがは1000年前の皇帝は言うことが違う。幼帝ミミ・レクスギア。最後の最後に仲間に裏切られ、何を願ってか現代の歴史作りを邪魔している」

「余にとっては1000年も昨日のことでは」

「考えたことはないかい? 例え仲間が君を信じて戦ったところで、負けていた可能性を」

「そんなことは――」

「無いとは言い切れないはずだ。君も見てきただろう。勇者という存在を。もしかしたら敗けていたかもしれない未来も想像したはずだ。だったら一体、何人、何万人、君のかもしれないに付き合わないといけないのかな?」

「俺は死なねえ。この話は以上だ。おい幼帝、切り替えろ」


 言葉に詰まった幼帝の後頭部を雑に撫でると、嫌そうに頭を振った。


「撫でんじゃない。ふう……ガキ魔王。ユリエルはエリスとゼハートが回収した。ゼハートが下で暴れて退路を作っている。まだうぬに従う魔王軍残党を連れてな。後は余とリラが好きをついて逃げ出す。うぬは指パッチンでも何でもして逃げろ」

「冗談だろ馬鹿が」

「冗談ではない。見たろ、完全適合者に握られた聖剣を。そしてあやつの物量を。今はまず勝てぬ。特にうぬ……治してないじゃろ、風邪を」

「ぐう……」

「馬鹿が……今は良くて相打ちじゃ。それでは結局、うぬの世界も作れぬし、余らも願いを叶えられぬ。聖杯も聖剣も向こうじゃ。出直すぞ」

「おしゃべりは、終わったかな?」

「まあギリギリ、終わらせようかなそしたら!」


 床を跳んで、骸兵士の方を足場にさらに跳躍。

 リラを狙っていた新勇者に魔剣を叩きつけた。

 有り得ない角度で剣をさし込んで無理やり対応してきやがったが問題ない。

 このままリラとスイッチだ。

 物量を捌くならリラの方が適任だ。逆に、単体スペックが高いだけなら、俺がやる。


「僕の相手はあなたですか?」

「相手したくないんだ、さっさと終わらせるぞ」

「そうですか」


 聖剣を床に突き刺すと、光のオーラが広がった。

 衝撃波ではない、ただのオーラだが……俺の中の魔力が打ち消された上に、なんだこの激痛。


「驚きましたか? 魔族に対する特攻と魔力を弾き飛ばすオーラ。それと、戦闘予測シミュレーター」


 俺の動きを先読みして移動先に剣が置かれている。

 無理やり近づいてもオーラで全ての魔法が消される上に痛すぎる。

 まともな戦いが出来ない。こんなに戦いにくいのか? 勇者ってのは。

 おまけに、俺の攻撃が明らかに当たっていない。当たるより前に妙な空気やその辺の環境が力を合わせて軌道を逸らしてくる。


「あなたに勝ち目はない」

「マジでそうで笑えない。お前、そんな政権の強い力があって剣術も磨いてんのはなんでだ? いらねえだろ」

「それが何か?」

「いや、お前の剣さ、姉ちゃんにそっくりだよ。単純な剣だと、姉ちゃんのほうが強いけどな」

「黙ってくださいよ。イライラする」


 さらに速度が上がる。

 もう目で追えない。追う必要もない。ここから先は、勘の世界――

 一撃目、次もかわせた。

 三発目は当たるが致命傷じゃない。治癒は間違いなく間に合わない。

 四、五、これも当たる。速すぎる上に痛い。長くいれば俺の中の魔法が壊れかねない。

 だとしても、無理をしてでも、こいつを止める。元より、覚悟の上!

 剣が三枚におろされる。ただ叩き割るよりも高度なことを……こいつ、思った以上に温まりやすいな。

 武器を再生成する時間はない。

 何度もこの窮地を救って来たのは結局、俺の右腕!


「安い挑発に、適当な攻撃。そんなもの、一体何になると?」


 腕ごと持ってかれた。

 こいつ……俺の腕は野菜でもなんでもないってのに。


「あなたの時代は終わりました。魔王。次代を経るごとに、勇者の持つ星剣は力を増します。今では、現代兵器を壊すことだってできる。対魔族でも対魔王でもなく、対世界。僕は世界の勇者になります」

「おめでたい頭だな、おい」


 失った腕を止血して、その場で腰を下ろした。現実問題、確かにこいつは強い。

 俺の速度じゃ嘘みたいについていけない。親父もけったいなものと戦ってたな本当に。

 魔王ももう少し強めに設定してほしい物だよ、まったく。


「こんなところで終わりとは悲しいですが、あなたのことはしっかりと脚色しますよ。次代にうっすらと現れ静かに消えた魔族だと」

「そりゃあありがたい」


 新勇者が剣を振り上げた途端、ソレは突然現れた。

 勇者の聖剣の加護の外。理外からの一振り。勇者フィーネに唯一、序盤で一撃加えた最強の固有魔法。

 勇者を殺す、力を持つ者――


「いつの間に――」


 ソレの一撃が勇者の腕を斬り割くが、すぐに反撃を食らって城の壁を破壊する程吹き飛んだ。

 一瞬の隙、そして利き手きり付けた一撃のお陰で手から離れた聖剣。

 急速に訪れたチャンス逃すまいと聖剣を手に取った途端、まるで家を持つような重みを感じた。馬鹿ふざけた剣だな本当に……適合しなきゃ触れもしいねえ。

 だが、気合いで持ち上げ、聖杯を持つネクロンに近づく。


「つ……ネクロン!」

「ほう。来るかい? 元魔王」

「俺は、魔王だ!」


 聖杯を叩いた途端、何か見えない大きな力に弾かれる。

 何が、起きた?

 耳鳴りがして、視界が一気にぼやける。

 拒絶された……馬鹿な、聖剣で壊れるんじゃなかった……違う、聖剣を使える人間が、壊さなきゃいけない……クソが。


「時間じゃ、ガキ魔王」


 ソレがブチ空けた穴から外に跳び下り、ドラゴンで幼帝は退いて行った。

 今のどさくさでリラも姿を消したようだ。

 一応、逃げるだけは成功した様だな。まったく、天下の魔王軍がなんて様だ。


「また会いに来る。首を洗って待ってな」

「弱者の言葉だ。君を世界も私も、待ちはしない」

「ああ、そうかい」


 パチン――

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