崩壊した物語の序章
「つは……何、が、あっは……」
起き上がった勇者フィーネは、瓦礫の中から身を出した。
空から降り注いだ貫通術式砲弾。爆撃術式付与砲弾。どれも製造に時間がかかる外力は絶大な近代兵器。
最終決戦で傷ついた魔王を殺す分には、十分だろうが、フィーネも殺されかけた。
偶然、瓦礫が重なって防御術式が強化されていなければ、死んでいた。
「しぶといな、お嬢ちゃん」
聞き覚えのある声に振り向くと、顔面に衝撃が走った。
思い切り蹴り飛ばされたと気づくのにたっぷり数秒かかってしまった。
「ざまあねえな、勇者フィーネ」
「ヴァイス……何を……」
「お前を殺せれば万々歳だったが、まあ良い。こいつが手に入ればそれで十分だ」
「な、返して――」
聖剣を奪ったヴァイスに反撃の構えを取ると、ハンドガンで数発撃たれた。
咄嗟に張った防御術式ごと破壊されて痛みと同時に熱が体中に広がる。
「なんで、裏切……裏切った、ヴァイス!」
「失礼だな、順切りだ。勇者パーティーに入った瞬間から、お前を殺して弟を据えるつもりだったよ」
「なんで……」
「魔王と勇者の戦争の歴史で、最後まで生きていたのは勇者だけだ。他の連中はみんな偶然や物語に殺されるんだ。勇者である、お前を強くするために」
「強く?」
「味方を殺されて覚醒する。窮地に追い込まれ覚醒する。魔王を殺すまでの旅路は、いわば勇者を完成させる儀式だ」
「そんなわけが……」
「あるんだよ。歴史書の編纂が我が家の家業だから気付けた。それに、影で暗躍する教会。聖杯と聖剣の関係に気付いていながら片方を魔王に渡していたのは連中だ。まず教会を消し、神の勇者を据え、俺こそが、影の英雄になる。どうだ、勇者フィーネ、素晴らしいだろう!」
「あなたは……狂ってる」
「狂って何が悪い!」
フィーネの腹を蹴り上げ、倒れたフィーネの体を足蹴にしながらヴァイスは叫ぶ。
「40億死んだんだぞ! 俺のじいちゃんも母さんも友達も! 狂って当然だろうが! 明日は我が身って言葉知ってんのか勇者! 手前は良いよな、死なねえんだからよお!」
さらに強く蹴り飛ばされたフィーネは地形が変わる程に砕けた地面の破片に体を打ち付けた。肉体の痛みよりも、心の痛みの方が強かった。
何のために戦って来たのか、また何のために生まれてきたのか、存在そのものが分からなくなっていた。
「俺は死にたくねえ。だから書き手に回った。お前のことも書いてやるよ。物語半ばで魔王と相打ちし、その後の世界は姉の後を引き継いだ弟が救うってな」
「それが、あなたの筋書きですか」
「魔王になっても良かったんだがな。今の時代の民衆が求めるのは勧善懲悪だ。仕方がない、お前が死ぬだけで許してやるよ」
「ああ、待て待て。魔王になりたいのか? あんまりお勧めしないぜ? この職業」
かすれる視界で、確かに死んだはずの魔王は、ヴァイスの首に手を添えていた。
「おま……生きて……!」
「再生に時間がかかった。マジで、魔王ハンバーグ作れるとこだったぞ」
「待て――」
ゴキ――
ヴァイスの首をへし折って、魔王は咳をしながら吐血した。
「病気、なのかしら」
「魔族風邪だ。仲間に黙っててくれ。どうしても捨てきれない魔法があってな」
「……礼を言うわ。これを失っては、あなたを倒せもしなければ、世界も救えない」
「殊勝すぎねえ? お前さ、まだ勇者のつもりでいるのか?」
「生まれて死ぬまで、勇者よ」
「今のお前から聖剣を場おうとすると今度こそ死にかねねえし……ちょっと用事が出来た。またやろう。次はアップルパイを持ってくるよ」
「じゃあ、私は好きな紅茶を」
「コーヒーで頼む」
パチン――
指を鳴らして、魔王は姿を消した。




