勝てばいんだよこういうのは!
「オラクルバスティオン以来、かしら。会うのは」
「まったく、俺のパーティーは魔王使いが荒くていけねえ。久しぶりだな、勇者。飯でもどうだ?」
緊急で通信が入ったかと思えば、勇者を止めろとたった一言だけ言われた。
ふざけた話だね。俺は魔王城にいることで権威を示し、全軍に最後の希望として君臨し続けるってのが仕事だったのになにこれマジで。
開けた荒野。邪魔は入らない。前方には勇者軍の残りをすべて集めた上に国中から招集した兵士及び同盟国からの覇権義勇兵を合わせた総勢50万の軍勢。
対する俺は、俺ひとり。滅茶苦茶しやがる。魔王軍は再編途中。任せていたゼハートは間に合わないことを詫びつつ別の作戦に向かった。
あいつは気の利く武闘派だ。頭役は幼帝と、吸血鬼。
そして、リラとソレ。正直、それだけそろってれば勇者以外は余裕だろう。
「残念だけど、もう、私に時間は残されていない。後世に書かれる私の伝記のページはあまりに薄いんでしょうね」
「心配すんな、あったりなかったりしたことを加筆して上中下巻と外伝が出るぜ」
「……なるほど、今わかった。あなたの固有魔法は未来を視るなんて崇高なものじゃない。あなたは後の歴史を文字ベースでみることができる」
「勘のいい勇者は嫌いだぜ」
「ええ。私も――」
剣を抜くと同時に地面を蹴り上げ、袈裟懸けに斬り落とす。
強烈にして速い。しかも軌道が途中で変わって肩ではなく足を狙ってきやがった。
武器を作り出す魔法。俺が持つ数少ない複製固有魔法で作りだした剣で力いっぱい弾いた。
勇者は涼しい顔で、言葉を落とす。
「勇者が嫌い」
「そうか。だったらその剣を寄こしてくれ」
「無理だと言っている」
「ああそうかい、じゃあ予定通り、奪わせてもらう!」
一騎打ち――
後方の50万の兵士は動くつもりがない。というか、動けば勇者も巻き込まれる。黙ってみているしかない、か。
「安心して。全員には手を出さないよう厳命した。もう、あなたたちに誰も殺させない」
「はっ、手前こそたくさん殺しといて被害者面かよ!」
二刀流精製。
勇者に看破された俺の固有魔法、架空の歴史は未来に発行される歴史書に書き記された固有魔法を使える。
そして俺が行くも見た歴史書で、最後は勇者が勝ち、勇者が聖杯を使って人類はほぼ全滅する。別に一冊なら読み飛ばしたが、ある一定の先にある未来は全て、その歴史書で埋め尽くされた。
さすがに怖いよな、与太話だって笑えねえよな。
この戦いは、多くの命を救うため、あと、俺や俺の仲間が幸せになるための戦いだ。
「たくさん殺したのは魔王軍の方が余程多い。あなたの父が殺した40億は少ないと?」
「俺の親父? 魔王だよ、殺したのは」
「……あなたは、私より余程勇者の器なのかもしれない」
驚いた。
ステップ一つで俺の視界から消える。瞬きを執拗に狙って近づき、俺の付け焼刃の剣術を嗤うように切り込んできた。
受けるとすぐに離れ、勢いをつけて再度踏み込んで切り結ぶ。
次は離れず剣で圧しきって来た。攻撃のレパートリーの多さは努力の賜物か。
「俺が勇者? 勇者はお前だろ。後ろの部下が泣いてるぜ!」
剣を振り抜き一本を投げる。
感嘆に弾かれたが、弾いた方向から突っ込んで蹴りを打ち込んだ。
勇者は片腕で足を掴んで俺の方へ投げ捨ててバランスが崩れたところに拳を打ちこまれた。
辛うじて腹筋を固めて受けきれたが……
「腰が入ってねえよ!」
後方宙返りで勇者の顎を蹴り上げる。
これも掌で受けられたが、軽い体が浮いた。
「迷ってんな、勇者様。どうしたよ」
「……あなたは、いつだってそれは父親が勝手にやっただとか、部下が勝手にやったとか、そうやって責任を押し付けたことがない」
「ああ?」
「私は、信じることしかできないのに、今は味方を信じられずにいる。私は結局、一人で戦っている。でもそれは……私が私の責任から、逃げているだけ」
「……はっ、知らねえ。俺の親父は確かに40億の人間と30種類の生物を滅ぼしてお前が向かう国を作った。どういう意図があったのかも知らねえ。だけどな、俺が魔王を名乗るからには、そりゃ魔王がやって来た全部のけじめを着けるに決まってんだろうが。俺が、歴史上最も人を殺した魔王だ」
「……世界が私にあなたを討たせる。何世代にも渡って、私がこの場であなたを殺すことは決まっていた」
「そうだな。それが聖杯の作る歴史だ。親父も恐らくそれで聖杯を壊そうとしたんだろうさ。そして気付いた。聖剣が聖杯を壊す唯一の魔道具だと。マジで、教えてくれてもいいのにな」
「私も父とあまり会話した記憶はないから、よく分かる」
「てか、親父のことを書いた書物が偶然全焼したんだよ。マジで呪いだよ、あの聖杯は。壊させてくれねえか? その剣で」
「……最後の願いを私に使わせてくれるなら」
「そいつは無理だ。俺にも俺の仲間がいる。この話はもう終わりにしよう。お互い、途中までは準拠しようぜ。ご都合主義にな」
「そうね……悪いけど、私にも、歴史がある。守るべき歴史が!」
「作る側に回れよ、古めかしい武勇伝は流行んねえよ!」
伝説の勇者をあと一歩倒しかけた魔王の剣を生成。高度は俺が作り出した剣でも史上最高高度。
出し渋っていた理由はただひとつ。聖剣は都合よく勇者を勝たせる加護と、あらゆる事象を上から叩くための適応能力がある。
俺が万が一初見殺しに失敗すれば、この戦いだけで勇者をパワーアップさせかねない。
ただもう、出し惜しみしてられねえ。
「私はあなたを討って、勇者が必要ない世界を作る!」
目の前の勇者は、都合よく覚悟を決めやがった。最初のふらふらしてた時に殺しておくべきだったな。無暗に人の話を聞くのはマジでよくない。
斬り結ぶたびに衝撃が骨に響く。剣の硬度を抜ける衝撃が俺の体を蝕む。
化け物が――体の方がもたねえってなんだ。
既に剣を抜いた状態から納刀、そして抜剣のモーション。不思議な剣術だが当たると衝撃が普通じゃない。何をしている? こいつの……待て、勇者の固有能力は何だ?
剣が抜かれるより前に腕を狙う。
が、既に抜かれている剣の先が俺の剣の表面を叩き割った。
こいつ……最初から俺が狙ってくるのを逆手に取って剣を破壊しに来やがった。
「だがな、歴史は無数に存在する!」
「それは、どうしようもなく勇者が勝てない歴史」
俺の動きが止まる。
勘づかれた……俺が生成できるのは、勇者以外に勝った剣。
勇者に負けた、剣。
切っ先が、顔を横に斬り割いた。
出血だけ止める最低限の治癒を施して、前に出る。こいつは下がれば追撃してくる。
攻めの姿勢は崩しちゃいけねえ。
「勇者らしくなってきやがったじゃねえか」
「私は勇者だ!」
「俺は魔王だよ!」
地面を叩き壊して瓦礫から瓦礫に飛ぶ。
イメージだ。歴史書から取れた固有魔法は、本来存在しない。確定するまでは、使って見るまでは完全なフィクション。
作り替えろ、俺の、都合のいいままに!
振動を起こす魔法の解釈を作り替え、物に伝播させる。共振を起こして破壊する。
「無駄」
聖剣が地面の破片を切り刻んであろうことか前へ進む。
こいつ……ふっきれやがった。勇者に必要なのは覚悟と努力と友情そして勝利。
勇者の持つ星剣の加護が、破片から勇者を守っている。
待って待って、無理なんだけど、幼帝さん。俺、死ぬかもしれねえ。
「はっ、だけどまぁ、別に俺のやんなきゃいけねえものでもねえ。誰かがやってくれりゃあ、俺はここで死んだって良い!」
「少しムカつく。あなたは本当に私にない物を持っている」
「そりゃそうさ! 俺もお前も、これからなんだ、何が正しいかなんてやった後決めりゃいい! ごちゃごちゃいう奴は無視しろ! それが、やるって決めた奴の道だ!」
「そう。ありがとう。心置きなく、あなたを倒して、私は私の道を進む!」
「その意気だ勇者!」
「私はフィーネ。フィーネ・アークライト。あなたを討つ、勇者!」
「俺は魔王ルカ。歴史上はじめて、勇者を殺した魔王だ!」
溜めた魔力を解放する魔法を両手に使う。俺の異常な魔力量を力に変えて、聖剣に体が壊れないように。
後は力の押し付け合いだ。
剣を打ち、弾いて、攻勢に出る。
互いに退かないが、力の差で俺が一歩リード。勇者の足をじりじり――
「甘い」
回転して俺の力をいなし、逆に背中に肘を打った後、膝を腹に打つ。
続け様に剣を振って俺を弾き飛ばした。
戦い方がクリエイティブになった。俺にとっては最悪だよ!
派手に戦いを演出する。全力で出し惜しみをしない。俺に出来ることは――
「時間稼ぎのつもりなら、無理よ」
「殺す気だよバーカ!」
全力の一撃。溜め込んでいた魔力と、ダメージを攻撃に転化する魔法で地面を叩いてもう一度破片を散らす。
今回は別に攻撃が目的じゃない。目晦まし。
隙間を縫って、命を狙う――
「そうすると思った」
聖剣が閃き、岩の間を進んで俺に迫る。
そうすると思っただ? 俺もだよ。
逆に聖剣を奪い取るチャンス。今までの会話も、囮に見せた演出も全てがブラフ。
狙ってんのはお前の命じゃねえ。聖剣だ――
聖剣に手を伸ばした俺の手を、偶然、砕けた破片が落ちて来た。
おいマジでさぁ、ざけんなよ本当に――
「終わり」
腕が切られる。
届かない。全てを組み立て、最後のゴール手前まで完璧な牙城が、たった一つの偶然にぶっ壊された。
都合よく勝利する聖剣と、偶然勇者を勝たせる聖杯。
ダメだ……俺じゃもう、こいつに……勝てない……
なんて――
「言うと思ったか馬鹿が!」
「な――」
先の取れた腕をそのまま顔面にぶつけて勇者の度肝を抜いて、互いにもみくちゃになりながら地面に体を叩きつける。
大ダメージ。
先に立ち上がったのは、治癒魔法を持つ俺の方。
しかし、勇者もたまたま当たり所がよかったらしく、思ったより剣を杖にすぐ立ち上がった。
否、聖剣を地面に深く刺し、足場にして俺に殴りかかって来る。
そこから先は、文明を失った原始人の喧嘩だ。
「なんて愚かな、戦い方を!」
「愚かで結構、勝てばいいんだよ、こういうのは!」
「撃て」
泥臭い戦いを終わらせるように、青々と広がる空から言葉が落ちて来た。
言葉と共に俺たちを襲ったのは、夥しい数の、術式付与砲弾。
暴力の、雨だった。




