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二度と同じ食材が出てこない話

「ええと、魔族風邪には、この薬が効くんだけど……材料、あるかな」


 温かみのある小屋。この辺の廃材を使って作ったのではなく、わざわざどこかから仕入れて作った小屋の中で苦しむルカを横目にユリエルが本に目を通していた。

 横ではついでとばかりにソレも寝かされていた。

 確かに安全と言えば安全な上、魔族風邪は人に移らない。病状が風邪に似ているからそう言う名前が付いているだけだ。


「ご命令くだされば、命に変えても探し出します。ユリエル様」


 2000年の時を経て治療魔法を探す大魔法使いに、親衛隊隊長は跪いて言った。


「いや、そんな、難しい物じゃ、ないから。ウチが取って来る、よ」


「そのようなことをさせてしまっては、私が閣下に叱られてしまいます。これは上下関係の問題にございます。ユリエル様」

「あー、じゃあ、これ、材料、お願いできる?」

「すぐに」


 魔法か何かか、風邪の速さで目の前から消えた隊長に溜息を吐いて、病床を振り返った。

 苦しそうな息遣いと、上気した頬。汗をかいていて、体が痛いのか時折身を捩るルカ。

 会ってからそこまで日が経っていないものの、いつも余裕の笑顔を浮かべていた魔王候補が弱弱しい表情なのは不思議な感覚だった。


「よう、ユリエルか? すまねえな、手をかけさせて」

「ううん。熱いね……ウチの手、気持ちいい?」

「ああ。さすがは氷の大魔法使い」

「ただの、末端冷え性。待ってて、おしぼり変えるから。ソレさんは?」

「そいつは、治癒魔法が効かないんだ。だから普通の治療に切り替えた」

「……酷い傷」

「黙れ」

「触れると怒るぞ。何度死にかけても生き延びるとは言え不死身じゃないから休ませてる」


 ユリエルはそっと治癒魔法を試してみるが、確かに効かない。というより、術式が途中でグチャグチャに離散していく。

 2000年前に魔族以上に魔法の研究を重ねた大魔法使いであるユリエルでも初めて見た。過去には存在しない事象に興味は沸いたが、取りあえず薬草を取り出して擦る。


「魔族風邪には効かないけど、傷には効く。今から、治療焼く、作る。ルカさん、ごめん。材料来るまで、待って」

「おう。俺は不死身だ。いつでも待つぞ」

「余計な事をするな」

「ウチにとって自己満足でも、やらないより、やりたい。ウチは昔、問題から目を背けて、一杯、死んだ」


 大魔法使い、ユリエル・フロスティアの歴史。

 彼女がもし、王国の指示に従っていれば、多くの無関係な人間が死ぬことはなかった。

 忘れようとしても忘れられない過去の魔女狩りという記憶は、魔力を吸い取る装置以上に、ユリエルを縛り続けていた。

 ユリエルの言葉にソレも何か言う事はなく、おとなしく治療を受けた。


「なあ、ユリエル」

「なに? ルカさん」

「俺は余計な事をしたか?」

「え?」

「俺はお前たちを無駄に召喚させて、やらなくてもいい戦いに巻き込んで、余計な事をしたか?」


 知らない顔。

 自信を失い、不安が支配した、ユリエルが最も見て最も嫌う顔。

 気丈に振舞ってはいるが、魔族風邪は魔力が高ければ高い程熱と痛みが大きい。

 病気のせいで弱音を吐いてしまったというところだろうか。


「他の人は、分からない。でもウチは……楽しい。色んな人、すごい人に出会って、見たことない魔導書にもいっぱいあって、こうやって、人が救える。魔王と勇者の戦いはどうでもいいけど……勝って、魔法をなくせるって希望があるだけ、前よりマシ」


 ユリエルは言葉をポツポツと落とすと、病床で苦しむルカの頬に手を添えた。


「遅くなって、ごめん、ね? この時代に呼んでくれて、ありがとう」

「……あっち向け」

「なんで?」

「男には、女に見せたくねえ顔ってのがあんだよ」

「……カッコ悪いね」

「談笑中失礼いたします。ユリエル様、ご指示いただいた素材をお持ちいたしました」

「はや……」

「閣下のためならば私は翼を生やして見せます」

「そう言う魔法も、あったかも」


 ユリエルは素材をもらい、小屋の外で巨大なかまどに諸々突っ込んで火をくべた。

 ぼうっと立ち上る火が大鍋の熱を開けて、ぐつぐつと煮え始める。

 魔力風邪の治療薬は素材を混ぜて一定時間煮込めば完成する。特に難しい工程はないが、ユリエルは魔力を注いで味を調え、効能が最高に高まるように仕上げていく。


「うん、完成」

「ユリエル様、誠に無礼と存じますが、万一がございます。まずわたくしが一口頂いてもよろしいでしょうか」

「うん。いいよ、味見して」


 親衛隊長は熱々のスープをそのまますくって口に運ぶと頷いた。味は良いようだ。

 その後、小屋に戻って、スープをふうふうと冷ましてルカの口に運んだ


「……アルヴマッシュとエルダ草。あとスレイヴフィッシュの骨で出汁を取ってるな。薬草類の苦みを魔力操作でうまみ成分に変えたか。無粋な味付けだが美味い。ありがとうな」

「子供にはそうやってお薬飲ませてたから。ルカさん、みたいな、料理じゃないの」

「すまんすまん」

「いいよ。だけど、魔法、使わないで。簡単に説明すると、今、体内に、入れた、ウチが作った魔力に暴走した魔力が攻撃する。その隙に、魔力が正常に戻る。だから、魔法使うと、またそっちを、攻撃する。治りが遅くなるとかじゃなく、ずっとキツイ」

「分かってるよ。使わねえ。ミミの方はどうだ?」

「どう、だろ。ウチと、リラさんはそれぞれ別任務で、要塞を空けたから」

「なんだと? もうすぐ、勇者が来るはずだぞ」

「……ウチは、ミミさんを信じるよ」

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