第1話 日常編
おひさ
「おはようございます」
「え、あれって……」
「おはようございます」
「うそ、久々に見た!」
「おはようございます」
「おい、あいつ――」
「「「鹿島蒼汰じゃん!!」」」
久々に学校に来た僕が校門前で挨拶をしているのだけど、登校してきた人達は中々校舎へと入らず、僕を囲むように遠巻きに見ていた。
「おはようございます」
気にしないけど。
「この状況でも挨拶運動続けるのかよ」
「英雄って呼ばれてるのに、蒼汰はホント変わらないね」
派生スキルの[カジノ]のメダルが枯渇したから、[フレンドガチャ]で手に入れるために、挨拶してポイント稼がないといけないから仕方ないでしょうが!
僕が切実な理由で挨拶運動をしているとも知らず、大樹と彰人は呆れた表情を浮かべていた。
「……[カジノ]のメダル目当てとか、全然大した理由じゃない」
「「「「「でしょうね」」」」」
オルガが[マインドリーディング]で僕の心の声を読み取り、乃亜達が分かっていたと言わんばかりに頷いている。
「もうダンジョンに潜ったりする必要ないのに、なんで[衣装ガチャ]のためのコインとか集めようとしてるのよ」
確かに冬乃の言う通り、ダンジョンに潜る為の目的だった、デメリットスキルのデメリットの影響が一時的に無くなる最終派生スキルまで到達したから、ダンジョンでレベル上げをする意味は無くなってしまった。
ついでにお金だって、【魔王】討伐とかで何百億と稼いだから、金銭目的でも今更ダンジョンに行く意味はない。
だけど世の中何が起こるか分からないし、いざという時のために色々な効果を持つ衣装を手に入れておくべきなのだ!
「……そんなにボク達にコスプレ衣装着せたいの?」
「先輩、言ってくださればいくらでも買ってきて見せますよ? もちろんベッドで……」
外で危ない発言しないでください。
あ、ちょっ、全員が顔を赤くしてるせいで、大樹の顔が凄い形相に……!
「お前は……! オ マ エ ハ……!!」
「まあまあ、落ち着きなよ大樹」
彰人がいて良かった。
挨拶運動を中断されたら、何のために朝からここに立ってるか分からなくなるからね。
「おはようございます」
「あ、あの……!」
怒れる大樹はひとまず置いておき挨拶をし続けると、意を決した様子の1年生の女子が僕に声をかけてきた。
なんなのだろうか?
「サインくれませんか!」
「おはよ――僕芸能人じゃないから……」
サインとか求められても色紙なんかに書く様なサインとか作ってないから、ただの署名活動になってしまうよ。
あと普通に恥ずかしいし。
「あ、俺にもサインくれよ!」
「私も私も!」
「なあ、アイドルの西風柚子と知り合ったりしてねえか? もしそうなら彼女のサインを――」
いや、ちょっ!? これじゃあ満足に挨拶できやしないよ。
周囲で僕を囲んでいた人達が、1年生の子が声をかけてきたのに触発され、次々と僕へと近づいて来てしまった。
「下がって、ね」
「はいはい、これ以上ソウタに近づかないでね」
「蒼汰先輩には近づかないでもらおうか」
咲夜、ソフィ、リヴィの3人が中心となって近づいてきた人達を僕から引き離してくれたから助かった。
「やはり先輩、[フレンドガチャ]で出るものはお金で買えばいいので、挨拶運動止めません?」
「そんな!? [カジノ]のメダルはお金で買えないんだよ……!」
出来るだけ[フレンドガチャ]を回したいから、ポイントを貯められるだけ貯めたいのに。
「でも先輩。テレビに出たせいで知名度上がってますから、芸能人ではなくても有名人になってしまってるせいで、この騒動になってるんですよ?」
ぐぬぬ。やはりあの依頼は断るべきだったのか。
【魔王】討伐後、その証明である【典正装備】、〔簒奪せし命の器〕を持つ僕は、世界の人々を安心させるためと言われて仕方なくメディアの取材を引き受けたのだ。
【典正装備】が【魔女が紡ぐ物語】討伐を証明するのは周知の事実なので、それを見せることで人々を安心させたいという気持ちは分かる。
一見ただの硯で、ぶっちゃけ[鑑定]などのスキルがないと分からないと思うんだけど、[鑑定]結果をテロップで出す事で【魔王】の【典正装備】であることは示せるから、見せないよりいい、ってことなんだろう。効果はさすがに公開されたくなかったので黒塗りにしてもらったけど。
僕だけでなくパーティーメンバーのみんなも一緒だったけど、メインが【魔王】の【典正装備】である以上、僕だけでテレビに出ることも多々あった。
本来【魔女が紡ぐ物語】を討伐すれば、4つの【典正装備】が手に入るはずなのに、【魔王】に限っては僕しか手に入れられていない。
活躍を考えると乃亜達も手に入れてもおかしくないし、僕以外誰も手に入れた報告がなかったのだ。
元凶であった“憤怒”の魔女アグネスに他にも手に入れた人はいないのか尋ねたけど、返ってきた言葉がとんでもないものだった。
『決まっておるのじゃ。ワシが認めておらん人間に【魔王】の【典正装備】が手に入るのはムカつくから、“憤怒”の力で無理やり怒り任せで報酬を1つにまとめただけじゃ』
【魔女が紡ぐ物語】のルールを変えるとか無茶苦茶やりおる。
『じゃがその分、お主の手に入れた【典正装備】は破格の力を持っておるはずじゃぞ?』
確かに〔簒奪せし命の器〕は生き物を一定数殺せば命のストックが際限無く作れるので破格だけど、そのせいで僕ばかりがメディアに出ないといけなかったから大変だった。
画面映えするのはどう見ても乃亜達なのに……。
一緒に出たら出たで掲示板じゃ〝ハーレム野郎〟とか散々書き込まれてるから、まだ1人で取材を受けて、【魔王】を倒した〝英雄〟呼びの方がマシだけどさ。
「先輩。物思いにふけってないで、早く校内に入らないといけませんよ」
「まだ大して挨拶できてないんだけど!?」
「言ってる場合じゃないわよ蒼汰! どんどん人が登校してきてるのにこの場に留まるから、その内校門前が誰も通れなくなるくらい密集しちゃうわよ!」
冬乃が指さす先では校門を通れなくて困っていそうな生徒達が複数いた。
「おい、お前達。何をしているんだ!」
そうなれば当然先生がやってくるわけで。
強制的に挨拶運動が終了してしまったよ……。
新作を投稿するので、その宣伝のために蛇足話書きました。
楽しんでいただければ幸いです。
新作は主人公が現代でダンジョンマスターをやることになった話です。
【運で決まる。ガチャつく現代ダンジョン】
https://ncode.syosetu.com/n7121md/
興味があったら是非。




