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非科学的潜在力女子  作者: ゆずさくら
非科学的潜在力女子
22/42

(22)

「?」

 念入りに各フロアのプレートを触っているのをみて、清川が口を開く。

「……何やってるの?」

 亜夢は目をつぶって手を動かしている。

「……」

 ポン、と清川が亜夢の肩を叩く。

 ビクッとして亜夢が目を開けると、フロアの案内をもう一度上から下までなめるように見て、言う。

「ここ…… ここに行きましょう」

「六階ね。何があるの?」

「わかりません。けど……」

「けど?」

「何かいる気がします」

「それが超能力ってやつね」

 亜夢が静かにうなずいた。

 エレベータの呼び出しボタンを押して、二人で待った。

 下ってきたエレベータから、普段着を来た男の人が二人降りて、空になった。

 清川と亜夢が乗り込み、清川が六階と八階のボタンを押した。

「?」

「ああ、もし六階が何かヤバそうだったら、間違えたふりしてそのまま八階に上がろうかと」

「警察の人のテクニックなんですか?」

「あっ、いや…… そういうわけでは」

 そう言って清川が少し笑った。

 エレベータは二人だけを載せ、途中停止せずに六階で止まった。

 清川が顔をだし、左右をうかがうと、亜夢に手招きした。

「あの…… あまりそうやってるとかえって目立ちませんか?」

「そ、そう?」

 清川は明らかに視線が泳いでいて、落ち着きがなくなっていた。

 亜夢は清川にたずねた。

「フロアに書いてあった会社名、何かご存知なんですか?」

「ううん。何も知らないんだけど…… そうじゃないのよ。捜査っぽいのに慣れてないっていうか……」

 亜夢がうつむいた。

「じゃあ、ここで待っててもらっていいですか?」

「えっ…… 加山さんが一人で行動するなって」

 亜夢がムッとした顔をつくる。

「じゃあ、落ち着いてください。警察官の服を着ているんですから、相手がビビるのはわかりますが、清川さんがビビっちゃだめじゃないですか」

「は、はい」

「普通にして、ついてきてください」

 亜夢は廊下を歩き始めた。

 扉に貼ってある社名を見て、通路を戻り、フロアの案内図をもう一度確認する。

「タキオ物産…… ここに行きましょう」

「なんでここなの?」

「カンです」

 二人はフロアを横切り、南の角にあるタキオ物産のオフィスへ向かった。

 廊下を歩いていると、突き当りのタキオ物産の扉が開いた。

 髪は短く、マスクをしていて表情はわからないが、目つきは鋭かった。

「!」

 亜夢はヘッドフォンをずらした。

 タキオ物産から出てきた者が一瞬、足を止めたように見える。

「……」

 互いの距離が縮まっていく。

 五メートル、三メートル……

 亜夢たちが右に、出てきた人は逆へ避けた。

 亜夢も清川もその者を振り返らず、一直線にタキオ物産の扉に向かう。

 扉につくと、亜夢が清川に耳打ちし、清川がインターフォンのボタンを押す。

「警察の者です」

「は、はい。なんでしょう?」

「先日の事件のことでお話が……」

 少しして、ガチャリ、と扉が開かれた。

「どうぞ」

 女性が出てきて、テーブルと椅子のあるところへ案内してくれた。

「どうしましましょう。誰に話があるのでしょうか?」

 清川が答える。

「全員に順番にお話をきくことはできますか?」

「えっ…… と全員ですか、となると、かなり時間が」

「お時間はとらせませんから」

 清川はオフィスの中に入っていきそうな勢いで言うと、女性も困った顔で急いで奥へ戻っていった。

 しばらくするとタキオ物産の人が、順番に出てきてくれて、名前と当日いたか、気がついたことはなかったか、を話していった。

 清川がメモを取り終えると、頭を下げた。

「ありがとうございました。すみません、それでは次の方をお願いします」

「あ、私で最後なんですけど」

 亜夢が清川に耳打ちした。

「私達が来たときに、外ですれ違った方がいるはずですが」

「?」

 首をかしげる。

「ちょっと待っててください」

 そう言って奥へ戻っていく。

 何人かが話し合う声が聞こえる。

 最初に出てきた女性が一緒に戻ってくると、清川に言う。

「そのすれ違った人って…… 男の人でしたか? 女のひとでしたか?」

 清川は目を泳がせて、亜夢のに助けを求めた。

 亜夢がまた耳打ちする。

「ちょっとどっちか分からなかったです」

「お客様のところへいったり営業に言ったりしているので、どの者かはわかりませんが……」

「じゃあ、今日お話聞けなかった人。その人達の名前だけでも教えていただけませんか?」

「名前を? 本人の承諾は取れないし……」

 最初に出てきた女性の人が、訝しげにこちらをみる。

「その人、なんなんですか。若い感じだし、格好も刑事さん、ってわけじゃないでしょう?」

「捜査上の秘密です。この人は関係ありません」

「清川巡査っておっしゃいましたよね。あなたの方も、本当に警察の人ですか?」

「なっ……」

 清川は警察手帳を見せた。

「なんなら電話してみてください」

「じゃあ、遠慮なく」

 女性はスマフォで警察に電話した。

「○○署の婦警だという清川あゆ、という方がここに来ているんですけど…… 間違いないか確認してもらえませんか」

 清川は腰に手を当てて立っている。

「……はい。 ……はい」

 タキオ物産の女性は少し申し訳なさそうな表情に変わる。

「はい。分かりました。ありがとうございました」

「……いいでしょうか?」

「疑ってすみません」

「では、その今日いないお二人のお名前を教えていただけませんか?」

「本人の承諾がないので話せません」

「これは捜査なんです」

「ダメです」

 決意は堅そうだった。

 清川は首を振り、亜夢も納得いかないようだったが、しぶしぶ首を縦に振った。

「わかりました。それでは……」

 立ち去ろう、と扉を向いた瞬間、ドアノブが回った。

「!」

 扉が開いて、このオフィスに入る前にすれ違ったと思われる、マスクをした人物が入ってきた。

「……」

「すみません、ちょっとお話を聞かせてもらっていいですか?」

 様子を見るような目つきで、ゆっくりとうなずく。

 亜夢と清川は、その人をつれて再びテーブルに戻った。

「あの、お名前をうかがっていいですか」

「……」

 清川は警察手帳を見せる。

「あっ、警察の方、ですか?」

 マスクの人物は、初めて声をだした。

 声からすると、女性で間違いなかった。

 制服の警官をみても警察と思われないのか、と清川はうなだれた。

「三崎京子と言います」

「あの、失礼ですが、マスクを取っていただいていいですか?」

 突然、亜夢がそう言う。

「?」

「こちらは捜査協力者です。すみません、私からもお願いします」

 三崎はとまどいながらもマスクをとった。

「これでいいですか?」

 薄くだが綺麗なピンクの口紅をしている。

 マスクをしていると中性的で男性とも見えなくはないが、性がどちらにせよ美形に違いなかった。

 亜夢がうなずくと、清川はそれを見て「ありがとうございます。結構です」と言った。

 三崎はまたマスクを着けなおす。

「このビルの付近で警察官に電撃を放った超能力者の事件、ご存知ですか?」

「はい。騒ぎになりましたから」

「当日はどちらに?」

「私は会社をお休みしていました。翌日きたら大騒ぎしていたんで、その時知りました」

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