どんな知り合いだよ
◇
……放課後。
「……」
無言で帰り支度をする魔緒。
「……」
仁奈も、帰り支度をしている。
「……」
「……」
教室には、他に誰もいない。まるで、彼らに遠慮したかのように、皆帰ってしまったのだ。
「……揃ってるわね」
七海の登場。何時ぞやの場面のようだ。
「……来たか」
魔緒が、待ってましたと言わんばかりに呟いた。
「来るに決まってるでしょ」
来ないという選択肢もあると思うのだが。
「……」
仁奈は、静かに立ち上がった。
「楠川」
そんな彼女を、魔緒が呼び止める。
「話がある」
それは決意の篭った声。彼は、決めたのだろうか。
「清田」
そして魔緒は、七海の方へ向く。
「お前にも、聞いて欲しい」
「分かったわ」
頷く七海。
「んじゃまあ、どっから話すかな」
自分から切り出しておいて、そんなことを抜かす魔緒。
「じゃあまず、俺が何を調べてたかについてなんだが」
「調べ事してたの、まおちん?」
おいおい、この前七海が言っていたことを忘れていたのか。
「……続けるぞ。俺が調べてたことだが、それはお前らだ」
二人の表情が、険しいものに変わっていく。
「お前ら、見た目はそっくりな癖に名字は違うし仲は悪いし、姉妹にしか見えねえのにそれが本当かどうかも分からねえし」
魔緒が今述べたことは、二人の少女を精神的に穿った。
「時々、先生方の手伝いをするんだがな。そん時に偶然、お前らの個人情報を目にした。実を言うと、それがきっかけだったんだが。とにかくだ、俺はその時、お前らの血液型を知った」
今まさに、少女達の何もかもが、暴かれようとしている。
「お前らの血液型は、Rh-のAB。何千人に一人の割合でしかいない希少な血液型だ。それが同じ学校の同じ学年にいて、しかもそれがそっくりな二人。となれば、普通は双子を疑うだろ?」
隠してきた素性、決して公にできない秘密。それらは最早、秘密ですらない。
「知り合いの伝手で、お前ら戸籍を調べさせて貰った。そしたらお前ら、案の定双子じゃないか」
……双子。この少女達の関係を、端的に言い表した言葉だ。だが、
「名字が違うのも、両親が離婚しているということで説明がつく。ただな」
魔緒は、予てからの疑問を口にする。
「何でお前らが、あんなに他人行儀なのか分からねえ。お前らの挙動を見るに、自分たちが双子だって気づいてたんだろ?」
そう、最大の疑問。この少女達は何故、こんなにもいがみ合っているのだろうか。ここまで引っ張るほどのことでもないが。
「……話っていうのは、それだけかしら?」
静かに話を聞いていた七海は、ぽつりとそう漏らした。
「というか、そのつもりだったんだがな」
「そう……」
そっと目を伏せる七海。そしてその目が開かれた時、その瞳は微かに潤んでいた。
「でも、この子にそれを話す覚悟があるのかしら?」
彼女は、仁奈のほうを見やる。仁奈は、唇を噛んで俯いていた。
「これは、俺の好奇心に過ぎないからな。無理強いする気は端からない」
「……ううん、話す」
仁奈が、顔を上げた。しっかりと開かれた瞳は、真っ直ぐ魔緒を見つめている。
「だから、聞いて」
「ああ」
魔緒は、小さく頷いた。




