何か、投げ遣りに書いた記憶が……
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校舎の片隅。そこに、使われていない物を仕舞っておく倉庫がある。倉庫と言っても、余っている部屋を物置として使っているだけだが。
そんな、いかにも忘れられていそうな場所に、生徒がいた。着ている制服から察するに、男子生徒のようだ。
男子生徒は、この部屋で寝ていた。倉庫という言葉から想像できるように、この部屋はとても埃っぽい。そんな所で、何故寝ているのだろうか。
「……うぅ」
男子生徒が呻き声を上げる。目が覚めたのだろうか。
「……あれ? 俺、何でこんな所に……」
おや、どうやら好きで寝ていた訳ではないようだ。
「ゴホッ、ゴホッ。……ったく、何なんだよ?」
男子生徒は、周囲を見回す。だが、ここがどこなのかは分からないようだ。
《何か、探してるの?》
「!」
突如聞こえてきた声に、戸惑う男子生徒。
《ふふっ、安心して。私はあなたの味方よ》
「み、味方?」
謎の声に、問いかける男子生徒。
《そう。味方よ。だから、何も怖がらなくていいわ》
男子生徒はふと、不思議な感覚に支配された。これはそう、まるで何もかもを委ねたくなるような安心感。包容力満ち溢れた言葉に、すっかり安心しきってしまったのかもしれない。
「そうか、味方か」
《ええ。ついでに言うと、私はあなたの願いを叶えることができるわ》
「願い?」
声の主が頷いた、ような気がした。いまだ実体が見えないので、具体的な動作は分からないのだ。
《そうよ。あなたにだって、願いの一つや二つ、あるんでしょ? 私はそれを叶えられるの》
「どんな、願いでもか?」
《当然。ただし、願いを叶える以上はそれ相応の対価が必要よ》
「何だよ、その対価って?」
声の主が微笑んだ、ような気がした。
《大したことじゃないわ。ただその体を、私に貸してくれればいいの》
「なんだ、そんなことか」
男子生徒は、声の主が出した条件を、呑むことにした。
この時、彼は知らなかった。
声の主が言った、体を貸すということの意味を。
願いを、叶えるということを。
そしてその、対価というものを。




