宿題は、ちゃんと自分の力でやりましょう
……夜も更けてきた頃、またもや仁奈の部屋。
「……あぁっ!」
何を思ったか、いきなり飛び跳ねる仁奈。
「宿題、学校に置いてきちゃった……」
宿題? 確か、数学の宿題は終わっていたはずだが……。別の教科のだろうか?
「どうしよう、まだ終わってないのに……。よりにもよって化学のだし……」
ああ、化学か。いかにも彼女の苦手そうな教科だ。
「しかも、化学の山村、すっごく厳しいし……」
山村とは、化学教師のことだろう。
「でも、もう九時だし……。だけど、提出期限明日だし……。だからって、こんな遅い時間に出歩くのは……」
今まさに、彼女の中で理性と惰性が壮絶な戦いを繰り広げていた。理性に包囲されつつも惰性が隙間を縫って這い出し、怒涛の攻めにもしぶとく粘る。まさに、典型的な葛藤である。
「それに、明日学校に行ってからやれば……。あっでも、化学の授業は一時間目だし……。だけどたけど、誰かに見せてもらえばそれを写して……。って私、宿題見せてもらえるような友達いないじゃん……。うわっ、何か言ってて自分で虚しくなってきた……。あっだけど、まおちんなら……」
ついに、彼に頼る案が出たか。
「……でも。まおちん、なんか変だったからな」
仁奈は、今日の帰り道のことを思い出していた。彼と、魔緒と一緒に歩いて、途中で少しぼうっとして。そしてその照れ隠しの後、彼の様子がおかしくなったこと。
「うーん……、よし。取りに行こう」
何かを決心したように頷く仁奈。尤もその決心は、とても初歩的だが。それとも、彼女にしては進歩したと言えるのだろうか。