ナレーターさんの職業は幽霊?
◇
「ねーねーまおちん」
「何だ?」
隣の仁奈からの呼びかけに、面倒臭そうに応じる魔緒。
「まおちんって家どこ?」
「結構遠い」
「どのくらい遠いの?」
「徒歩一時間はかかる」
「遠っ!」
驚きを、漢字一字に込めて表現する仁奈。
「だから遠いって言ってるだろ」
「それにしたって遠すぎるでしょ?」
「それで他人に迷惑掛けた覚えがないからいいんだ」
「迷惑ならもう掛かってるよ」
「誰に掛けたって言うんだよ?」
心外だと言わんばかりに問う魔緒。
「だって、そんなに遠いと私が遊びに行けないもん」
仁奈は少し拗ねたような口調で言った。これは暗に、彼女が魔緒の家に行きたいと言っているようなものだ。つまり、仁奈なりの親愛を込めた一言だったのだ。しかし、
「だったら来るな」
魔緒は、小さな拒絶を示した。
「……うん。ごめんね、変なこと言っちゃって」
そのせいか、少し俯く仁奈。
「まあ、どうしても来たい、って言うならバスに乗れ」
「……え?」
仁奈は、勢いよく顔をあげた。
「校門前のバス停から総合病院行きのバスに乗れるから、それの終点の二つ手前で降りれば直ぐに分かる。どうしても分からなかったらその辺の誰かに訊け。懇切丁寧に、お得な情報と一緒に教えてくれるはずだ。っておい、聞いてるか?」
自宅への経路を説明していた魔緒が、仁奈が半ば放心しているに気づいた。実際は、あまりに突然ゆえに言葉が出なくて思考も停止していただけだが。
「ぼさっとしたまま歩いてると危ないぞ」
魔緒の忠告も、今の仁奈には無力だ。
「しっかりしろ。って、危ない!」
「きゃっ!」
急に魔緒が、仁奈の肩を掴んだ。
「ったく、電柱にぶつかるとこだったぞ」
「へっ?」
仁奈は慌てて横を見てみると、電柱がすぐ目の前まで迫っていた。このまま進んでいたら、確実にぶつかっていただろう。
「ご、ごめん……」
「気をつけろよ。最近、何かと物騒だからな」
そう言いながら、魔緒は仁奈の肩から手を離した。仁奈はその手を名残惜しそうに見ていたが、すぐに諦めたようだ。
「……うん。気をつける」
そうしたら何故か、急に気恥ずかしくなった。へまをしたのが恥ずかしいのか、彼の手を名残惜しく思ったことが恥ずかしいのか、その辺りのことは分からない。だが、場の空気を変えたくて、とっさに話題を変えることにした。
「ぶ、物騒と言えばさ、最近学校で生徒や教師が行方不明になってるんだって。知ってる?」
仁奈が振った話は、今日学校で聞いたものだ。何でも、生徒と教師合わせて十名が、ここ数日行方不明なのだ。安否などは不明。警察も動いているが、大した成果はあげられていないらしい。
「知らねえ」
魔緒はそう言うと、一人で先に歩き出してしまった。
「あっ、待ってよぉ~まおちん」
それを追いかける仁奈。
「どうしたの?」
彼に追いつくと、再び彼の隣に並んで歩き出した。
「……」
しかし魔緒は、仁奈の呼びかけに応じない。
「ねーねー、まーおーちーん」
仁奈は魔緒の目の前で手を振ってみるが、まったく反応がない。
「まおちんってばぁ!」
今度は大声をあげてみるが、やはり無反応。
「変なまおちん」
この後魔緒は、ついに一言も発しなかった。そして、途中で仁奈と別れたのにも気づかなかった。




