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魔法が使えない落ちこぼれ令嬢、なぜか学園一の人気者に溺愛されています  作者: モーヒアス


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3/8

第三話

 翌日。

 私は、いつもより早く目が覚めた……というより、ほとんど眠れなかった。

 昨日の帰り道、レオンと並んで歩きながら、私は自分の気持ちに気づいてしまった。


 好き。


 たぶん。


 いや。


 私は、レオンが好きだ。


 そう思ってしまってからは、何をしていてもレオンのことが頭から離れなかった。

 朝食を食べていても、着替えていても、学園へ向かっているときも。

 何をしていてもレオンが頭から離れない。


「……」


 私は頬を両手で押さえる。

 だめだめだめ。

 考えると、顔が熱くなる。

 昨日まで普通に話していたのに。

 今日から、どうすればいいのだろう。落ち着けエリス。平常心だ。


「よし、まずは深呼きゅ「おはよう、エリス!」」

「ひゃっ!」


 突然声をかけられ、私は思わず肩を跳ねさせた。


「え?どうした?」

「な、ななななんでもありません!」


 振り返るとそこには、レオンが不思議そうな顔をして立っていた。


「おはよう」

「……おはようございます」

「今日、なんか変じゃない?」

「そ、そんなことありません」

「本当に?」

「本当です」

「そっか」


 レオンは笑った。

 いつもの笑顔。

 いつものレオン。

 なのに……ダメだ。眩しい。

 昨日までとは、私の見え方が違ってしまっている。

 この音がレオンに聞こえてしまうのでは……と心配になるほど心臓がうるさい。


「エリス」

「はい?」

「放課後、時間ある?」

「……ありますけど」

「ちょっと付き合ってほしい」

「どこへ?」

「それは行ってからのお楽しみ」

「……?」


 何だろう。

 私は首を傾げながらも頷いた。


「分かりました」

「じゃあ、放課後な」

「はい」


 レオンはそう言って、教室の中へ入っていった。

 私は少し遅れて教室へ入り、その背中を見つめる。

 背中を見つめる……それだけなのに、また胸が騒がしくなった。


 ――そして、放課後。


 私はレオンに連れられて、学園の裏手にある小さな丘へ来ていた。

 普段はあまり人が来ない場所だ。頬を撫でる風が気持ち良い。


「ここ、知ってた?」

「知りませんでした」

「風が気持ち良いだろ?俺も最近見つけたんだ」


 レオンがベンチに腰を下ろす。

 私は少し離れたところに立ったまま、彼を見る。


「……どうしたんですか?」

「うん」


 レオンが少しだけ黙った。

 いつもなら、何でもないように笑っているのに。

 今日は少し違う。


「エリス」

「はい」

「俺さ」

「はい」

「人と話すとき、どうしても相手に合わせちゃうみたいでさ、疲れちゃうんだ。自分が自分じゃないみたいな。偽りの自分というか」

「はい……?」

「俺、エリスといる時間が一番好きなんだ」

「……」


 心臓が跳ねた。


「最初は、図書館で変な子に会ったなって思った」

「変な子……」

「あ、褒めてるからね?」

「それ、前にも聞きました」

「でしょ?」


 レオンが笑う。

 けれど、すぐに真面目な顔へ戻った。


「でも、エリスと話すようになって」

「……」

「ディーンやクラリスと四人でいるようになって」

「はい」

「エリスと二人でいることも増えて」


 レオンが私を見る。


「気づいたら、エリスと一緒にいるのが当たり前になってた」


 私の胸が、また大きく鳴る。


「何も話さなくても気まずくないし」

「……はい」

「無理に笑わなくてもいい」

「……」

「俺が俺らしくいられる」


 その言葉に、私は顔を上げた。


「それに」


 レオンが少しだけ照れたように笑う。


「エリスが俺の隣にいるのが、一番落ち着く」

「……」


 何も言えない。

 嬉しい。

 嬉しいのに。

 胸がいっぱいで、言葉が出てこない。


「だから」


 レオンが立ち上がった。

 そして私の前まで歩いてくる。


「俺、エリスのことが好きだ」

「……!」


 分かっていた。

 もしかしたら、と。

 そう思っていた。


 でも実際に言葉にされると。頭の中が真っ白になった。


「……エリスは?」

「わ、私……」


 声が震える。


「私も……」


 恥ずかしい。

 でも、ちゃんと伝えたい。


「私も、レオンさんが好きです」

「……本当?」

「はい。よろしくお願いします」

「よかった……」


 レオンが、心底安心したように笑った。

 その顔を見て、私も自然と笑っていた。


「……ふふっ」

「何?」

「レオンさんも、そんな顔するんですね」

「どんな顔?」

「すごく安心した顔」

「そりゃするよ」


 レオンが照れくさそうに笑う。


「振られたらどうしようって、昨日からずっと考えてたから」

「レオンさんでも、そんなこと考えるんですか?」

「俺だって普通の男だからね」

「……そうなんですね」

「うん。だからすっげー緊張した」

「全然分かりませんでした」


 少しだけ沈黙が流れる。

 でも、やっぱり気まずくない。

 私はそれが嬉しかった。


「……えっとさ」

「はい?」

「これからも、今までみたいに話す?」

「はい、もちろん」

「その……」


 レオンは少し迷ってから言った。


「敬語さ……やめてくれない?」

「え?」


 レオンが笑う。


「クラリスと話すときみたいに話してほしいんだ」

「でも……」

「恋人なのに敬語って、ちょっと寂しくない?」

「恋人……」


 その言葉を聞いた瞬間、また顔が熱くなる。

 どうやらレオンも同じらしい。向こうを向いてはいるが耳が真っ赤だ。


「……はい」

「うん」

「分かり……」


 そこで私は言葉を止めた。


「……あ」

「?」

「わ、分かった」


 レオンの顔がぱっと明るくなる。


「今、タメ口だった。可愛い」

「……やめて」

「だって嬉しいし」

「恥ずかしいから……」

「じゃあ、もう一回『分かった』って言って?」

「嫌」

「エリス」

「……何?」

「もう一回」

「しつこい」

「ははっ」

「もうっ!」


 レオンが笑った。

 私もつられて笑う。

 そしてその日から……私たちは恋人になった。




 ――翌朝。


「おはよう、エリス」

「おはよう、レオン」

「……」


 クラリスがこちらを見ている。


「……何よ?」

「いやぁ?」


 クラリスの口元が、にやにやと緩んでいる。


「なんか昨日までと違うなぁと思って」

「そ、そう?」

「うん、随分と仲が良さそうですね〜?」


 クラリスが私の顔を見る。

 そして。


「レオン!ちょっとこっち来て!」

「なに?」

「貴方たち、何か私に報告してないことがあるんじゃない?」

「「……」」

「なんで2人とも顔が真っ赤なのよ!」


 クラリスが嬉しそうに笑った。


「な、何が?」

「貴方たち、付き合ったんでしょう?しかもホヤホヤ」

「「……!」」


 レオンと私は固まってしまった。


「な、なんで……」

「分かるわよ」

「え?そんなに分かりやすかった?」

「やっぱり!エリスは分かりやすいもの」

「……カマかけたわね」


 クラリスは楽しそうに私を見る。


「レオンも分かりやすかったし」

「レオンも?」

「ええ」


 クラリスは当然のように頷いた。


「二人とも、お互いのことを好きなのに自分たちだけ気づいてなかったんだもの」

「……」

「見てるこっちがヤキモキするくらいだったわよ」

「そんなに……?」

「そんなに」


 クラリスが笑う。


「でもまあ、よかったじゃない!2人ともおめでとう!」

「……うん」

「レオン、エリスは私の大切な親友よ。悲しませるようなことは絶対しないって約束して」

「ああ、もちろん大切にする」

「浮気なんかしたら絶対許さないんだから」

「大丈夫だ」

「エリス、男は狼よ。隠れて何をしてるか分からないからね。気を抜いちゃダメよ」

「エリス、分かったけどせめて本人の前で言うのはやめた方が……」


 聞こえないフリをするレオンを見て、私は小さく笑った。


「気をつけるね、ありがとうクラリス」

「うん。でもよかった」


 そのとき。


「なになに?」


 ディーンがやってきた。


「何の話?」

「何でもないわよ」

「絶対何かあるじゃん」


 ディーンが私を見る。


「エリスもなんか嬉しそうだし」

「……」


 どうしよう。クラリスを見る。

 クラリスは楽しそうに笑っている。


「ディーン」

「ん?」

「エリス、今日から私たちと同じように話すことにしたのよ」

「え?どういうこと?」


 ディーンが驚いた顔をする。


「本当に?」

「う、うん」

「じゃあ俺ともタメ口で喋ってよ!」

「え?」

「エリスだけ俺に敬語なの、なんか仲間外れみたいじゃん!」

「いや、それは……」

「俺も友達だろ?」

「……そうですけど」

「じゃあ、タメ口!」

「うん、分かった……改めて、よろしくね」

「よし!」


 ディーンが満足そうに笑う。


「これで俺たち、完全に仲間だな!」

「何よそれ」


 クラリスが呆れたように笑う。


「何で私もこんなヤツのことを……」

「何か言ったか?」

「能天気鈍感野郎って言ったの」

「?」


 ディーンだけが、不思議そうに首を傾げていた。

 もちろんこの時点では、彼だけは知らない。

 私とレオンが付き合い始めたことを。


 そしてその日の放課後。

 私はレオンを探していた。

 いつものように一緒に帰ろうと思ったのだ。

 校舎を出て、中庭を抜けようとした、そのとき。


「……あ」


 少し離れた場所に、レオンがいた。

 そしてその隣には、一人の女性が歩いていた。


 金色の髪。

 夕日に照らされて、まるで光そのもののように輝いている。遠目からでも分かるほど整った顔立ち。

 そして誰もが振り返るほど、抜群のスタイル。

 私の知らない女性だった。

 レオンは、その女性と何かを話している。

 そしてその女性は……



 レオンの腕に自分の腕を絡ませて、二人は並んで歩いていた。



「……え?」


 私は、その場に立ち尽くした。

 胸の奥が、昨日までとは違う意味で、大きく騒ぎ始めた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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