第 7話:誇れる仲間 救うため
アバン
最初に消えたのは、“音”だった。
街は騒がしいはずなのに。
車も。
信号も。
人の声も。
全部、急に遠くなる。
そのあとで。
べちゃ。
誰かの靴が、何かを踏んだ。
「……え?」
女子生徒が足元を見る。
そこには、水たまりみたいな透明の液体が広がっていた。
でも、水じゃない。
ゆっくり動いている。
生き物みたいに。
「なに、これ……」
次の瞬間。
透明な粘液が、一気に跳ね上がった。
「きゃあああっ!?」
飲み込まれる。
声が消える。
人影だけが、ぬるりと沈んだ。
そして。
何事もなかったみたいに、透明な液体だけが道路に残った。
見えない。
でも、そこにいる。
それが、一番怖い。
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深海要塞デフィトパレス。
暗い会議室の中で、ヘリンフェルは静かにモニターを見ていた。
画面には、透明な粘液に覆われた街。
ミスーネが、満足そうに笑う。
「いいじゃない。悲鳴が見えないの、逆に気持ち悪い」
ハンマンリキが腕を組む。
「ケッ。結局また小細工かよ」
オメガメアは冷静だった。
「真正面からでは勝てない。ならば、“恐怖”を戦わせればいい」
「恐怖?」
「見えない敵ほど、人間は怯える」
モニターの中で、透明な粘液がゆっくり動く。
「スライムデスペは、形を持たない。
攻撃を吸収し、感情を削る」
ミスーネが笑う。
「しかも、飲み込まれたら終わり」
ヘリンフェルが、そこで初めて口を開く。
「今回、狙うのはビクトリーイエローだ」
その瞬間。
空気が変わった。
「イエローは感情で動く。
怒り。悔しさ。仲間への想い。
強いが、揺れやすい」
オメガメアが静かにうなずく。
「孤立させれば、必ず崩れる」
ミスーネが爪をなぞる。
「じゃあ、“逃げたくなる状況”を作ればいいのね」
ヘリンフェルの目が細くなる。
「そうだ」
そして。
低い声で、こう言った。
「“仲間を見捨てた”と思わせろ」
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A
希望研究所
朝。
希望研究所には、竹刀の音が響いていた。
「はっ!」
かおるの振り下ろしは、前より速い。
アルマジロデスペとの戦いから、ずっと鍛え続けている。
かれんはプールでターンを繰り返していた。
水しぶきが光る。
あすはは、サンドバッグを殴る。
ドン。
ドン。
ドゴン。
「うおおおっ!」
今日は、やけに強い。
ちさとは静かに呼吸している。
目を閉じて、空気を読むみたいに。
はるこはリボンを回していた。
ピンクの軌道が、朝日でキラッと光る。
平和だった。
少なくとも、その瞬間までは。
けたたましい警報が鳴る。
「敵反応!」
にけが叫ぶ。
空気が、一気に変わった。
利奈がモニターを拡大する。
「希光学園付近です! でも……変です!」
「なにが!?」
「敵が、見えません!」
「……え?」
博士の顔が険しくなる。
「映像を出して!」
画面には、逃げ惑う人々。
でも。
敵がいない。
なのに、人が突然転ぶ。
悲鳴を上げる。
透明な何かに引きずられていく。
「なにこれ……」
はるこが青ざめる。
その瞬間。
画面に、透明な輪郭が浮かんだ。
ぐにゃり。
空気が歪むみたいに。
「……スライムデスペ」
博士が低く言った。
「透明型の暗至獣よ」
あすはが拳を握る。
「透明とかズルすぎるでしょ……!」
「気をつけなさい」
博士の声が鋭くなる。
「相手の体は液体。
普通の攻撃は通じない可能性が高い」
かおるが前に出る。
「でも、行くしかない」
四人がうなずく。
あすはも、強くうなずいた。
「もちろん!」
「ビクトリーチェンジ!」
五色の光が研究所を駆け抜ける。
そして。
ビクトリーレンジャー、出動。
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見えない敵
希光学園前。
街は、もうパニックだった。
「あっち行くな!」
「床が動いてる!」
「誰か飲まれたぞ!」
透明な粘液が、道路を這っている。
見えない。
だから余計に怖い。
レッドが剣を構える。
「みんな、距離を取って!」
その時だった。
突然。
イエローの足元が沈む。
「えっ!?」
透明な粘液が、急に足に絡みついた。
「うわっ!」
飛びのく。
でも遅い。
ズルッ。
透明な触手が腕へ伸びる。
「イエロー!」
ブルーが水流を放つ。
「ウォーターウェーブ!」
水がぶつかる。
その瞬間だけ、透明な敵の輪郭が浮かんだ。
いた。
巨大なスライムの塊。
でも、顔すらぼやけている。
「グニャ……」
気味の悪い声。
「気持ち悪っ……!」
あすはが顔をしかめる。
でも次の瞬間。
「イエローナックル!」
渾身のパンチ。
直撃。
……したはずだった。
拳が、沈む。
ぐにゃ。
「え」
吸われた。
攻撃が、全部。
「効いてない!?」
その隙。
透明な粘液が、一気に広がった。
「しまっ……!」
四人の足元を覆う。
「キャアアッ!」
「くっ!」
「動けない!」
スライムが、全身に絡みつく。
レッドの剣が落ちる。
ブルーの腕が沈む。
ホワイトの足が止まる。
ピンクのリボンが飲まれる。
「やばい……!」
イエローが駆け出そうとする。
でも。
透明な触手が、仲間たちを完全に包み込んだ。
「いや……!」
四人の姿が、少しずつ沈む。
光まで、飲まれていく。
レッドが叫ぶ。
「イエロー、来るな!!」
その声で。
イエローの足が止まった。
スライムデスペが笑う。
「グニョグニョ……。
次は、お前だ」
透明な巨体が、ゆっくり近づく。
怖い。
本気で。
触れたら終わる。
そんな感覚が、背中を凍らせる。
博士の通信が入る。
「逃げなさい、あすは!!」
「……え」
「今は無理よ!
あなたまで捕まったら終わる!」
「でも!!」
「逃げなさい!!」
その声は、命令だった。
あすはの顔が歪む。
仲間を置いて。
自分だけ。
逃げる。
そんなの。
でも。
レッドの声が、もう一度響いた。
「行けえええっ!!」
涙が飛んだ。
あすはは、歯を食いしばる。
そして。
走った。
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B
【逃げたあすは】
希望研究所。
自室。
ドアが閉まる。
その瞬間。
あすはは崩れ落ちた。
「うああああああっ!!」
床を叩く。
涙が止まらない。
「ごめん……!!
ごめんなさい……!!」
頭の中で、何度も再生される。
沈んでいく四人。
届かなかった手。
逃げた自分。
「アタシだけ……!」
呼吸がぐちゃぐちゃになる。
悔しい。
怖い。
情けない。
全部混ざる。
モニター越しに、博士たちが見ていた。
にけが唇を噛む。
「……つらすぎるよ」
利奈も涙目だった。
博士だけが、静かだった。
でも。
その手は震えていた。
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デフィトパレス
一方。
ディフィーペアは盛り上がっていた。
「終わりだな!」
ハンマンリキが笑う。
ミスーネも満足そうだ。
「最高じゃない。
“仲間を置いて逃げたヒーロー”なんて」
でも。
ヘリンフェルだけは、黙っていた。
「……妙だ」
「え?」
オメガメアが振り向く。
ヘリンフェルは、モニターを見つめたまま言う。
「イエローの目だ」
「目?」
「あれは、“諦めた目”ではない」
ミスーネが鼻で笑う。
「強がりでしょ」
「いや」
ヘリンフェルの声が低くなる。
「まだ、折れていない」
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【 あすはの記憶】
部屋の中。
あすはは、ベッドに顔を埋めていた。
でも。
ブレスレットが、微かに光る。
「……」
思い出す。
初めて変身した日。
かおるの笑顔。
かれんの厳しい言葉。
ちさとの静かな支え。
はるこの優しさ。
みんなで笑った夜。
失敗して落ち込んだ時。
励ましてくれた声。
「あたし……」
涙が落ちる。
「信じてないわけ、ないじゃん……」
その瞬間。
ブレスレットが強く光った。
部屋が黄色く染まる。
「……!」
あすはは顔を上げる。
胸の奥で、何かが燃えていた。
怖い。
でも。
それ以上に。
仲間を助けたい。
「絶対、助ける」
立ち上がる。
涙をぬぐう。
「あたし、逃げて終わるの嫌だ」
そして叫ぶ。
「ビクトリーチェンジ!!」
黄色い光が弾ける。
でも今度の光は違う。
粘液みたいなエメラルドの光が、イエローの周りを回る。
飲み込まれそうだった恐怖を。
逆に、力へ変えていく。
「待ってて……!」
イエローが走り出す。
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C
絶望界
戦艦勝利が、黒い空間へ突っ込む。
その内部。
イエローは、一人で前を見ていた。
にけの声が響く。
「絶望界、固定できた!」
利奈が叫ぶ。
「でも長くは持たない!」
博士の声。
「あすは」
「はい!」
「信じなさい」
短い言葉だった。
でも。
それだけで十分だった。
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絶望界。
そこは、透明だった。
床も。
空気も。
全部ぬるぬるして見える。
その中心に。
四人が沈められていた。
「みんな!!」
レッドが、かすかに目を開ける。
「……イエロー」
スライムデスペが笑った。
「戻ってきたか。バカめ」
「うるさい」
イエローは拳を握る。
「仲間置いて終われるわけないでしょ」
「また飲み込んでやる!」
透明な波が襲う。
イエローは飛ぶ。
避ける。
殴る。
「イエローナックル!!」
今度は違う。
拳に、仲間の声が乗っていた。
ぐしゃあっ!!
スライムデスペの体が弾ける。
「グオオ!?」
「効いた!?」
にけが叫ぶ。
博士が目を細める。
「恐怖を越えたのね……!」
スライムデスペが怒る。
「小娘えええ!!」
巨大化した透明な波が、イエローへ落ちる。
避けきれない。
その時。
戦艦勝利の砲撃。
ドゴオオオオン!!
「ぐあああっ!?」
透明な体が吹き飛ぶ。
イエローが叫ぶ。
「みんな!!
起きて!!」
その声に。
レッドの目が光る。
ブルーの腕が動く。
ホワイトが息を吸う。
ピンクの指が震える。
「……イエロー」
「信じてた」
「助けに来るって」
「ありがとう」
その瞬間。
四人が、自力でスライムを破る。
バシャアアアッ!!
「うおおおおっ!!」
五人が並ぶ。
スライムデスペが後ずさる。
「なぜだ……!」
レッドが剣を構えた。
「決まってる」
ブルーが微笑む。
「私たち、仲間だから」
ホワイトが前を見る。
「一人じゃない」
ピンクが笑う。
「だから戻って来られる」
イエローが拳を握る。
「絶対、助けに来る」
五人の光が重なる。
「ビクトリーシュート!!」
巨大な光。
透明な敵を、今度こそ貫く。
「グアアアアアア!!」
スライムデスペの体が崩れる。
透明だった体が、最後だけ黒く染まった。
そして。
砕けた。
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エピローグ
希望研究所。
静かな夜。
五人はソファに座っていた。
誰も、最初はしゃべらない。
でも。
あすはが急に泣き出した。
「ごめぇぇぇん!!」
「うわっ」
かおるが慌てる。
「あたし、逃げた!!」
「知ってる」
「うわあああん!!」
はるこが背中をさする。
「でも戻ってきた」
かれんもうなずく。
「そこ、大事」
ちさとが静かに言う。
「逃げない人より、逃げても戻れる人の方が強い時もある」
あすはが顔を上げる。
「……ほんと?」
レッドが笑った。
「ほんと」
その瞬間。
研究所に笑い声が戻った。
博士は、その様子を少し離れた場所から見ていた。
そして、小さくつぶやく。
「また強くなったわね」
モニターの外には、朝が来ていた。
でも。
深海の闇は、まだ消えていない。
ヘリンフェルが、静かに目を閉じる。
「次は、“速さ”を折る」
その背後で。
黒い風が、ゆっくり渦を巻き始めていた。
---
<つづく>
次回予告
見えない風。
止まらない敵。
シップウデスペ、襲来。
速さを奪われたホワイトは、もう走れない。
「速いだけじゃ、届かない……!」
止まるか。
進むか。
白い閃光が、嵐の中を駆け抜ける。
次回、第8話。
「風を掴む、白い閃光」




