第 0話:Episode ZERO
ヨーロッパの山岳地帯、霧に包まれた古城――通称「タイガー城・虎城」。
立花ジャンヌ博士は、息を切らしながら石畳の階段を駆け上がっていた。
白衣の裾が風に翻り、眼鏡の奥の瞳が鋭く光る。
彼女は二十五年間、世界各地から「分断・敗北・絶望」を愛する者たちを密かに追跡し続けていた。
そしてついに、この城に「暗黒至上主義者」と呼ばれる謎の集団が巣食っていることを突き止めたのだ。 その名は――ディフィーペア。
同じ頃、城のすぐ近くにある「虎の穴」と呼ばれる小さなほこらで、一人の日本の女子高校生が静かに座禅を組んでいた。
紅かおる。春休みを利用して一人で修行の旅に出ていた剣道部主将であり、フェンシングでも全国レベルを誇る少女だ。黒髪をポニーテールにまとめ、道着姿の彼女は、静かな呼吸を繰り返していた。
「こんな所にほこらが……」
かおるが呟いたその瞬間、ほこらの奥から異様な気配が溢れ出した。
一方、博士は城の地下通路で一人の男の肩を叩いた。男は即座に崩れ落ち、息絶えた。
「ディフィーペアを探ろうとする者は、皆、ああなるのだ!!」
壁が突然崩れ、黒い戦闘服をまとった戦闘員――デデマンが飛び出してきた。
その凶悪な笑い声が通路に響く。 地下から紅かおるが飛び出してきたのは、まさにその瞬間だった。
彼女は迷わずデデマンに体当たりを仕掛け、剣道の構えで拳を繰り出す。
「博士、大丈夫ですか!?」
「ありがとう……あなたは!?」
しかしデデマンの刃が一閃。かおるの道着が鮮やかに切り裂かれ、白い肌が露わになる。
さらに攻撃が続く。かおるは辛うじて身を翻し、フェンシングのステップで距離を取ったが、デデマンは不気味な笑いを残して姿を消した。
「何だこれは……いったいどうなってるの!?」
かおるが息を荒げながら叫ぶと、博士が震える声で答えた。
「やはり……ディフィーペアに至る通路があったのね……」
「ディフィーペア!?」
「大昔から悪魔と手を結び、多くの星々を滅ぼしてきた暗黒至上主義の集団……こちら立花。希望研究所、応答せよ!」
その瞬間、通路全体が激しく揺れ始めた。壁が崩落し、天井が落ちてくる。
「危ない!!」
「ビクトリーレンジャーを……勝利戦隊ビクトリーレンジャーを……!!」
博士の叫びが響いた直後、タイガー城は巨大な爆発を起こして崩壊した。
――その頃、某所にある希望研究所。
地下深くに設けられた作戦室で、勝にけはモニターを睨みつけていた。
彼女は戦士選抜担当。短い金髪に眼鏡、いつもエネルギッシュに動き回る少女だ。
右腕の天美利奈と共に、博士が世界中からリストアップした候補者を絞り込んでいた。
「これで……よし。あとは、話をするだけね」
にけが満足げに拳を握る。
「手分けして当たりましょう」
利奈が微笑んだ。
地球の裏側、海抜マイナス一万六千キロ。
巨大要塞デフィトパレスが暗黒の海底に沈んでいた。
そこに、ディフィーペアの幹部たちが集っていた。
「デフィロス将軍、デフィロス将軍!!」 ミスーネが慌てて駆け寄る。
「どうした、ミスーネ!?」
「諜報部の報告によれば、タイガー城以外にも我々の存在に気づき始めた者が出てきたようです」 フィロス将軍は低く笑った。
「総統デストラー、暗黒至上主義の歴史が始まって以来、初めて統一されたディフィーペアの存在を、今こそ示すときが参りました……」
「浮上せよ!! デフィトパレス!!」
「浮上!!」
巨大要塞が海面を突き破り、轟音と共に姿を現した。 観光地の海岸では、穏やかな休日を楽しむ人々が悲鳴を上げた。
「あれは何だ!?」
「海に城が現れたぞ!!」
「逃げろ!!!」
デフィトパレスが放った竜巻が観光客を巻き込み、破壊が始まった。
世界征服への挑戦状が、静かに叩きつけられた瞬間だった。
某所にある水泳部の室内プール。
岬かれんは水を切り裂くように泳いでいた。
長身でクールな美人、水泳部エース。彼女のストロークは洗練され、まるで人魚のようだ。
にけがプールサイドに駆け寄る。
「間違いない、あの人ね!!」 かれんがターンして好記録を叩き出す。
「あなた、岬かれんさんね!?」
「見てくれたかしら? 今の泳ぎっぷり」
「勝利戦隊ビクトリーレンジャーに参加してください!」
「……ん?」
次はレスリング部のリングサイド。
黄島あすはが汗だくで相手を投げ飛ばした直後、利奈の声が飛んだ。
「黄島さーん、黄島さーん!」 熱血で豪快、関西弁のレスリング部主将。あすはは振り向いてにやりと笑う。
「黄島あすはさんですね!?」
「ん? うん、なーに?」
新体操部の体育館。
森山はるこが優雅にリボンを舞わせていた。
穏やかで可憐、柔らかな笑顔が印象的な少女。にけが飛びついてくる。
「あーっ! 森山はるこさんですね!?」
「ええ……どうしたんですか?」
陸上部グラウンド。
白田ちさとが風を切って百メートル走を練習中。脚力抜群、元気いっぱいの陸上部エース。
利奈が大声で叫ぶ。
「あーっ、ダメダメ! ここですよ。この位置から仕掛けないと!」
「へー、なかなかやるわね!」
「希光学園陸上部の、白田ちさとさんですね!?」
「ええ」
そして最後の場所――遊園地ビクトピアスタジオ。
にけは岬かれんと森山はるこを電話ボックスに連れ込み、ボタンを押した。
「ちょっと何? 何するの!?」
「いいからいいから、後でわかるわ!」
「待って!! 一体何のこと……!?」
床が開き、四人の少女たちは滑り台のように地下へ落下。
「きゃあああ!」
黄島あすはと白田ちさとが悲鳴を上げながら合流する。
地下に到着した五人は呆然と立ち尽くした。
「ここ、どこ……!?」
白田が周りを見回す。
そこに立っていたのは、白衣の立花博士と、研究所の制服を着たにけと利奈だった。
「よく来てくれた。ここは希望研究所……」
博士が静かに微笑む。
「え?」
岬とかおるが同時に声を上げた。
その頃、街の上空にデフィトパレスが姿を現していた。
「何だあれは!?」
飛行機同士が衝突し、爆発音が響く。
暗黒至上主義集団ディフィーペアによる、侵略の火蓋が切って落とされた。
希望研究所・作戦室。 博士が五人の少女たちを真っ直ぐ見つめた。
「みんな、やってくれるね!?」
岬かれんが最初に頷く。
「よーし、やってやろうじゃないか!!」
にけが五人に銀色のブレスレットを手渡す。
「紅さん、これをつけてください」
利奈が続ける。
「岬さん、これも!」 ビクトリーブレスが五人の左腕に装着される。
博士が静かに告げた。
「これが……ビクトリーブレス。 紅かおる、ビクトリーレッド!!」
「岬かれん、ビクトリーブルー!!」
「黄島あすは、ビクトリイエロー!!」
「白田ちさと、ビクトリーホワイト!!」
「森山はるこ、ビクトリーピンク!!」
五人が同時に叫んだ。
「ビクトリーレンジャー!!」
――しかし。 光が収まった瞬間、そこに立っていたのは五人とも真っ白なボディスーツ姿だった。
胸のエンブレムも、ヘルメットのバイザーも、一切の色を宿していない。ただ白く、未完成のまま。
「う、うそ……!! これは……」
紅かおるが自分の胸元を押さえ、愕然とする。 博士が穏やかに説明した。
「スーツ装着時は白いのです。各戦士のエネルギーをスパークさせて、初めて色が宿ります。そのエネルギーは、装着者の『意思』を乗せなければいけないの。それで、完全なスーツができる……」
岬かれんが苦笑する。
「ということは、私たちにはその意思が足りないということ……?」
「そういうことよ」
一瞬の迷いが五人を包んだ。
しかし紅かおるが、すぐに顔を上げた。
「みんな、もう一回よ」
四人が頷く。
「ええ」
紅かおるは目を閉じ、右手を胸に当てた。
(私は……絶対に、誰かを守りたい。この力が必要なら、全部、全部、ぶつける――!)
その瞬間、白いスーツの胸元から真紅の光が爆発した。
光は全身を駆け巡り、鮮やかな赤いラインが浮かび上がる。
ポニーテールが風を孕み、バイザーが真紅に染まる。
ビクトリーレッド、誕生。 岬かれんが微笑んだ。
「ふふ……なら、私も本気出すわ」
水色の輝きが彼女を包み、クールなブルーが全身を彩る。
黄島あすはが拳を天に突き上げ、
「うおおおお!!」
黄金の光が爆発し、力強いイエローが宿る。
白田ちさとが風を切りながら叫び、
「速い! もっと速く!!」
純白の光が走り、疾風のホワイトが完成。
森山はるこが優雅にくるりと回り、
「やああああ……!」
桜色の輝きが舞い、愛らしいピンクが全身を包む。
五色の光が地下室を埋め尽くした。
博士は満足げに笑みを浮かべていた。
(うんうん、それでいいのよ)
そのとき、モニターを監視していたにけが鋭く叫んだ。
「正門付近に未確認の存在あり!!」 博士が即座に命じる。
「勝利戦隊ビクトリーレンジャー、出動!!」
「はい!!」
街では暗黒怪人・ダンゴムシデスペとデデマンが暴れ狂っていた。
「やったぞ!!」
ダンゴムシデスペが体を丸めて突進する。 突然、五色の爆発が怪人たちを包んだ。
「おのれ……」
ダンゴムシデスペが振り向く。
そこに、マッハビクトリー――ビクトリーレンジャー専用スーパー自転車――を駆った五人が崖上に現れた。
レッドが先頭に立ち、風を切る。
「行くぞ!!」
五人は崖から一斉に飛び降り、着地と同時に構えを取った。
ダンゴムシデスペが嘲笑う。
「何者だ、貴様ら!?」
レッドが胸を張り、力強く宣言した。
「悪と戦う、正義の味方・ビクトリーレンジャー!!」
「ビクトリーレッド!!」
「ビクトリーブルー!!」
「ビクトリイエロー!!」
「ビクトリーホワイト!!」
「ビクトリーピンク!!」
「勝利戦隊!!」
「ビクトリーレンジャー!!」 戦いが始まった。
レッドブレードが閃き、ブルービートディフェンサーがウォーターウエーブを放つ。
イエローナックルが高速足刈りを決め、ホワイトブーツが影斬りを繰り出し、ピンクリボンがリボンサンダーで敵を縛る。五人の連携が、デデマンを次々と薙ぎ払っていく。 しかしダンゴムシデスペが反撃。
レッドが叫ぶ。
「みんな、コンビネーションアタックだ!!」
「OK!!」
五人がツールを構え、一斉に攻撃を叩き込む。
「ビクトリーアタック!!」
ダンゴムシデスペが体を丸め、カウンターのダンゴムシアタックを放つ。
「きゃぁ!」
「うっ!!」
「うわぁ!!」
ピンク、ホワイト、ブルーが吹き飛ばされる。
「大丈夫か!?」
「ええ!」
絶体絶命の瞬間、五人はビクトリーレーザーを構え、一点にエネルギーを集中させた。
「レッド!!」
「ブルー!!」
「イエロー!!」
「ホワイト!!」
「ピンク!!」
「ビクトリー!!」
「ビクトリーシュート!!」
強烈な光線がダンゴムシデスペに直撃。
しかし怪人は絶望界へと逃げ込んだ。
巨大なブラックホールのような空間が街を覆う。
「さあ来い、ビクトリーレンジャー!!」
怪人の傷が瞬時に癒え、能力が十倍に増幅される。 博士の声が通信機から響く。
「勝利、発進!!」
「リフトアップ!!」 ビクトピアスタジオの庭がせり上がり、巨大戦艦・勝利が姿を現した。
「発進準備!!」
「発進!!」
戦艦勝利が絶望界へ突入。
ミサイルが炸裂し、五人が再び突撃する。
しかし絶望界の力は強大だった。
「5人ともかなりのダメージです!!」
「絶望界だと歯が立たないの!!」
あと一撃で変身が解除される瀬戸際。
そのとき、博士の声が届いた。
「金色の戦士……ビクトリーホープだって!?」
にけが興奮気味に伝える。
「みんな、ビクトリーホープになれることがわかったの!」
利奈「合身準備よ!!」
五人の心に、絆の光が灯る。
レッドが叫ぶ。
「合身よ! とぉ!!」
「とぉ!!」
「はい!!」
「とぉ!!」
「とぉぉ!!」
「合身!!」 五人の体が光に包まれ、融合する。
地上に降り立ったのは、金色に輝く強大な戦士――ビクトリーホープ。
レッドの声が響く。
「すごくいい感じです……勇気と絆を感じられます」
他の四人も同じ手応えを胸に感じていた。 博士が微笑む。
にけと利奈も拳を握りしめた。 ホープブレードが一閃。
ダンゴムシデスペの胸に黄金の斬撃が炸裂。
怪人が突進しても、ビクトリーホープは微動だにしない。
五人の声が重なる。
「ビクトリーインパルス!!」
巨大な勝利剣がエネルギーを最大限に込め、縦一文字に怪人を両断。
ダンゴムシデスペが大爆発を起こして消滅した。
デフィトパレス内。
デフィロス将軍が歯ぎしりする。
「おのれ……勝利戦隊ビクトリーレンジャー……何者だ!?」
デストラー総統が低く命じる。
「ミスーネ、直ちに引き上げろ……ひとまずはな」
デフィトパレスが海底へ逃げるように沈んでいく。 にけと利奈が飛び跳ねる。
「やったー!!」
ビクトリーレンジャーと希望研究所の仲間たちは、力を合わせて暗黒至上主義集団ディフィーペアの最初の攻撃を食い止めた。しかし、これは長い戦いの、ほんの序曲に過ぎない。 紅かおる――ビクトリーレッドは、空を見上げて静かに誓った。
(私たちの意思が、この世界を染めていく……絶対に、負けない)
頼むぞ、勝利戦隊ビクトリーレンジャー!!




