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ゆたかの怪奇列島第9章「アクロバティックさらさら」  作者: こうた


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第1話「視界」

夜。


東京の光は、消えない。


ビル。


ガラス。


無数の窓。


そのすべてが——


“誰かの目”のように見える。


「……まだ終わってへんな」


ななが呟く。


8章の余韻は、消えていない。


むしろ——


“薄く広がっている”。


ゆたかは空を見上げる。


「空気が重いな」


桃太郎も同じ方向を見る。


高層ビル。


その上。


暗闇。


何もいないはずの場所。


だが——


“見られている”


そんな感覚。


神父が言う。


「観測が継続しています」


一拍。


「完全には断てていません」


人面犬があくびをする。


「しつこいなぁ」


歩く。


ビル街の中を。


夜なのに、人は多い。


だが——


どこか様子がおかしい。


視線が、定まらない。


一点を見ている者が多い。


上。


横。


何もない空間。


ななが気づく。


「……なんでみんな同じとこ見てんの?」


神父が止まる。


「……来ます」


一瞬。


風が止む。


音が遠くなる。


そして——


“いた”


ビルの壁。


ありえない場所。


縦の壁に——


女。


細い。


長い髪。


不自然なほど軽い体。


逆さに、張り付くように。


こちらを見ている。


ななの息が止まる。


「……あれ」


指をさす。


ゆたかが目を細める。


「なんやあれ」


女が——


“動く”


一瞬で。


壁を蹴る。


跳ぶ。


空中。


軽い。


ありえない軌道。


別のビルの側面へ。


“ドンッ”


張り付く。


また見る。


こちらを。


桃太郎が低く言う。


「速い……」


人面犬が舌打ち。


「嫌なタイプだな」


神父が分析する。


「視認された対象に干渉しています」


一拍。


「“見ること”自体がトリガーです」


ななが一歩下がる。


「つまり……」


ゆたかが言う。


「見たらあかんやつやな」


その瞬間。


近くで声。


「……あ」


振り向く。


サラリーマン。


上を見ている。


完全に。


目が離せない。


「……なんやあれ……」


呟く。


足が、ふらつく。


それでも——


視線は固定。


外れない。


「おい、やめとけ」


ゆたかが声をかける。


届かない。


完全に。


“見せられている”


そのとき——


女が動く。


ビルから。


跳ぶ。


一直線。


男へ。


“ドンッ!!”


衝撃。


男の体が吹き飛ぶ。


後ろへ。


ガラスに叩きつけられる。


“バリンッ!!”


割れる。


血。


そのまま——


倒れる。


動かない。


ななが叫ぶ。


「おい!!」


だが——


終わらない。


別の場所。


また一人。


上を見ている。


「……いる」


そして——


“落ちる”


ビルの非常階段。


足を踏み外す。


転がる。


“ゴンッ!!”


鈍い音。


止まらない。


さらに下へ。


血が広がる。


ななが顔を歪める。


「なんやこれ……!」


神父が断言する。


「視界の固定です」


一拍。


「一度捉えた対象から離れられない」


人面犬が吐き捨てる。


「クソみてぇな能力だな」


ゆたかが女を見る。


まだいる。


ビルの上。


こちらを見ている。


完全に。


逃がさない目。


桃太郎の呼吸が乱れる。


目が合う。


その瞬間——


“ゾワッ”


寒気。


背中に走る。


視線が外れない。


逸らせない。


「……っ」


体が固まる。


ななが気づく。


「桃太郎!!」


ゆたかが即座に動く。


“バンッ!!”


肩を叩く。


強引に。


衝撃で視線を切る。


桃太郎がハッとする。


「……今……」


呼吸が荒い。


ゆたかが言う。


「見るな」


短く。


はっきりと。


人面犬も言う。


「一回でもハマったら終わりだ」


神父が補足する。


「継続観測により、干渉が強まります」


一拍。


「すでに複数名が影響下にあります」


ななが周囲を見る。


何人もいる。


上を見ている。


動かない。


ただ——


見ている。


そして。


一人が呟く。


「……綺麗や」


別の一人も。


「……すごい……」


共通点。


“見せられている”


ゆたかが舌打ちする。


「最悪やな」


そのとき。


女が——


“笑う”


無音で。


だが確実に。


そして——


一歩。


こちらに向けて。


“落ちる”


重力を無視するように。


一直線に。


ななが叫ぶ。


「来る!!」


ゆたかが構える。


桃太郎も。


人面犬が牙を剥く。


神父が後ろに下がる。


衝突——


直前。


“静寂”


また。


時間が止まる。


色が薄れる。


そして——


声。


冷たく。


近くで。


「見たな」


一拍。


「なら、もう離れない」


桃太郎の目が見開く。


神父も理解する。


ななは震える。


ゆたかが眉をひそめる。


空気が戻る。


一気に。


女が迫る。


もう止まらない。


■ 第9章 第1話 終

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