王都でもお変わりなく④
「タクロウは普段何してるの?」
「冒険したり?」
「冒険者なの?」
「まぁな」
「……強そうに見えないのにね」
「余計なお世話だ」
なぜだろう?
リオンとは初対面なのに、普通に話せている。
耐性がついたからってこともあるけど、妙に心地いい。
まるで昔から一緒にいるような……幼馴染との距離感のような……ま、俺に幼馴染なんていないんだけどね。
「到着だ」
「あ、もう着いたんだ。結構近かったんだね」
「みたいだな。もう大丈夫か?」
「うん、ありがとう。お礼にこれ、あげるよ」
彼女は腰にかけていたカバンから何かを取り出し、俺に手渡す。
四角い布製品で、紐がついている。
神社とかで買うあれに似ていた。
「なんだこれ? お守り……?」
「そうだよ。手作りの幸運のお守り。ちゃんと効果があるから持っておいて」
「手作りか。ありがとう、大切にするよ」
リオンはニコリと微笑む。
正直この手のお守りは信じていないけど、彼女の笑顔が可愛かったからそれで十分だと思った。
「じゃあね! またどこかで!」
「ああ」
リオンは俺に手を振り、人ごみのほうへと消えていく。
「不思議な子だったな」
「タクロウ!」
「――! 今の声……」
振り返ると、そこにはカナタが手を振っていた。
ジーナたちも一緒だ。
「やっぱりカナタか」
「やっと見つけた!」
「あまりに遅いから心配したぞ」
「迷子にでもなってたの?」
「そんなことより私のカードは持ってきてくれましたか?」
俺は受け取ったお守りに視線を向ける。
幸運のお守り……か。
さっそくご利益があったな。
◇◇◇
ジーナたちと合流した俺は、ようやく教会にたどり着く。
忘れ物や迷子も会って予定より少し時間がかかってしまった。
逆にそれがよかったのかもしれない。
「今日は空いているようだ」
と、ジーナは教えてくれた。
ピーク時間は偶然避けられたようだ。
人混みは苦手だからホッとする。
ラランも同じタイミングで胸をなでおろしていた。
「ようこそいらっしゃいました。お祈りですか? 加護のレベルアップですか」
中に入ると、さっそく女性のシスターが話しかけてきた。
修道服っぽい衣装が印象的で、まさに神様に仕える人、という見た目をしている。
何度も来ているジーナに、シスターとのやり取りは任せた。
「加護のほうです」
「わかりました。ではこちらへどうぞ」
案内されたのは、小さな祭壇のある部屋だった。
魔法陣のようなものが地面に描かれている。
ここで加護のレベルアップをするのだろうか。
「レベルアップを希望されるのはどなたですか?」
「全員です」
「五名ですね? では、皆様こちらへ立ってください」
「一度に全員いけるんだな」
こういうのは一人ずつやるものだと思っていたけど。
「はい。祭壇の中に納まる人数なら可能ですよ」
「あ、そうなんですね」
独り言にも反応されて、ちょっと恥ずかしい。
俺たちは言われた通り祭壇の魔法陣に立つ。
「では始めます。眩しいので目を閉じていてください」
指示に従い、瞳を閉じる。
数秒待つと、シスターの声が聞こえる。
「主よ、私の声にお応えください」
彼女がそう言うと、閉じた瞼が明るさを感じる。
スポットライトを直接浴びているような眩しさだ。
目を開けていたら、あまりの眩しさに驚いていただろう。
そして感じる。
身体の中に、女神の加護が入り込んでくる感覚を。
思い出した。
この感じ……サラスの元で加護を得た時と同じだ。
光が和らぐ。
「目を開けても大丈夫ですよ」
俺たちはゆっくり目を開ける。
全員が加護を感じたのだろう。
少し放心状態のまま経過し、徐に冒険者カードを見る。
「お! 加護のレベルが上がってる」
「あたしもだ!」
「私も上がっているぞ。ついにレベルが……」
「うわ……私も上がってるし。別に私の加護ってレベル上がっても変わらないんだけどね」
「見てくださいタクロウ! 私も上がっていますよ!」
サラスが意気揚々とカードを見せつけてくる。
レベルが2に上昇していた。
俺も同じで、カナタやジーナも同じだ。
ラランは元々レベル3だったから、今回の儀式でレベル4に上がっている。
「聞いていた通り、結婚効果があったみたいだな。ん? サラスはなんでだ?」
「私はタクロウと運命を共有しているので、タクロウが上がると私も上がるんですよ!」
「そういうものか。なるほど……なんか釈然としない」
「なんで! いいじゃないですか! これでタクロウのレベルも上がって、結婚できる人数が二十人に増えたんですよ!」
「ちょっ、おま! こんなところで!」
すぐ隣にシスターがいるんだぞ!
と、心の中で叫んだが手遅れだった。
「二十人……結婚?」
「あ、いや……」
「よかったな! タクロウ! これで百人と結婚する夢に近づいたぞ!」
「ひゃ、百人!?」
カナタの無邪気な刃が俺にとどめを刺した。
悪気がない。
よかれと思っての発言だとわかっている。
わかっているけど……今じゃないだろ。
ジーナとラランは察して、やってしまったな感が表情に漏れる。
今の発言を聞いたこの世界の人間、特に神に仕えるシスターの耳に入れば、どう思われると思う?
「へ、変態……」
「……はぁ」
またこのパターンか!
頼むからこれ以上、変な噂が広まらないでくれよ……。
王都でも変態扱いされたら、世界中どこにも安置がなくなる。
「勘弁してくれ」
王都で新しいスタートを切った俺たちだが、いきなり幸先が不安になる。
こうなったら運に頼ろう。
頼むぞ幸運のお守りいいいいいい!
俺は人生で初めて、心の底から神頼みをした。
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