王都でもお変わりなく③
「タクロウ、今日はどうするんだ?」
ジーナが皿洗いをしながら尋ねて来た。
俺は食事の席に座ったまま、腕を組んで考える。
「そうだなー。特に予定もないし。ララン、騎士団から依頼とか来てるか?」
「今は特にないな」
「じゃあ、そろそろ一度王都の冒険者ギルドに顔を出すか」
ラランの件も解決したし、本格的に冒険者としての仕事を再開する時期だろう。
ジーナとラランは騎士団を除隊したから、冒険者への転職手続きも必要だ。
動ける時間があるうちに済ませておいたほうが、後々楽だろう。
先のことを考えるなんて、俺も立派になったな。
とか考えていると、皿洗いを終えたジーナが俺の隣に歩み寄る。
「提案なのだが、その前に教会へ顔を出すのはどうだろう」
「あー確かに。タクロウとか一回も見てもらったことないよな」
ジーナの意見にラランが反応した。
俺は首を傾げる。
「教会? なんで?」
「加護のレベルを見てもらえるんだ」
「ああ」
そういえば、加護と肉体のレベルは別々で、加護のレベルを上げるには特別な場所に行く必要があるって……。
前にサラスが説明していたのをすっかり忘れていた。
そこへゴミ捨てからサラスが戻ってくる。
「教会に行くんですか?」
「加護のレベル上げって教会でするんだな」
「そうですよ! 教会には神官がいるはずなので、その人が加護のレベル上げをしてくれます。言ってませんでしたっけ?」
「そこまで詳しくは聞いてない」
あの時はそんなこと聞く余裕もなかったから仕方ないが。
加護のレベル上げか。
「加護って功績を積まないと上がらないんだろ? 俺特に何もしてないし、レベル上がるとは思えないんだけど……」
「いいや、結婚すれば必ず一つはレベルがあがるはずだ」
「そうなのか?」
ジーナはこくりと頷き説明を続ける。
「この世界の女神様は愛と平和を大切にしているお方だ。結婚したということは、それだけ愛を育み、女神様に認められたことを意味する。だから結婚はわかりやすい功績の一つなんだ」
「へぇ~、結婚が功績か」
本当に変わったルールのある世界だな。
ん?
じゃあ俺は三人と結婚したし、一気に三つくらいレベルアップするんじゃ?
『一夫多妻』のほうは上げておかないと今後詰むからな。
「よし! じゃあ先に教会に寄ってから、冒険者ギルドに行こうか」
「楽しみだー教会!」
「カナタも初めてか?」
「うん! 村に教会はなかったからな」
初めてなのは俺とカナタだけか?
確かめるように、ジーナとラランに視線を向ける。
「私は何度か行っている。加護のレベルは上がらないが、定期的に女神様に祈りを捧げているよ」
「真面目だなぁ~。ラランも初めてじゃないよな? 栄誉騎士だし、レベルも上がってるだろ?」
「上がってるけど……最初に連れていかれて以降は一度も顔出してない」
ラランは少しテンションが低い。
疑問を感じていると、ジーナが教えてくれる。
「ラランは教会嫌いなんだ」
「へぇ、なんで?」
「……だってあそこ、リア充のたまり場だから」
「え、そうなの?」
教会ってリア充が集まりやすいスポットだったのか。
愛と平和の女神様を信仰しているかとか、そういう理由だろう。
ラランが初めて言った時も、祈りを捧げにきたカップルたちが多かったそうだ。
「嫌なら留守番してるか?」
「大丈夫だ! あの頃の私とは違う! 今の私は既婚者、つまりリア充側だから!」
「そうか……ならいいけど」
ラランは力強くガッツポーズをしている。
気持ちの持ち方って大事だよな。
一日のスケジュールが決まったところで、出かける準備をする。
数分後に全員で屋敷を出発した。
ジーナの案内で王都の街並みを進んでいく。
「教会とギルドって逆方向にあるのか。面倒だな」
「仕方あるまい。教会は王国のものだが、ギルドは冒険者の管轄だ」
「前から思ってたけどさ? 騎士団、というか王国か? なんでギルドと仲良くないんだ」
「商売敵だからだよ。騎士団は国のため、ギルドは金や名誉のために戦う。そういう思想の違いもあったりする。私には理解できないけど」
ラランは呆れながら説明してくれた。
彼女が騎士になった理由は、どちらかといえば冒険者寄りだろう。
かくいう俺も、国とか平和のために戦えって言われたら、ちょっと困りますってなるな。
俺はポケットに手を突っ込んで空を見上げる
「……あ、冒険者カード忘れてきた」
「家に置いてきちゃったのか?」
カナタが首をかしげて尋ねてきた。
他のポケットにもない。
「たぶんな。悪い先に行っててくれ」
「何やってるんですかー? 私はちゃーんと……あ」
お前もかよ。
仕方ない。
サラスの分も回収してくるか。
「タクロウ。教会までの道を書いておいた地図だ」
「助かるよ。用意がいいな、ジーナ」
「タクロウの役に立てたなら光栄だ。では私たちは先に行くぞ」
「ああ、頼んだ」
さっさと回収して戻れば、みんなに合流できるだろう。
俺は急いで家に戻り、俺とサラスの冒険者カードを回収した。
十分後……。
◇◇◇
「……迷ったな」
広すぎるだろ王都!
貴族街の道は入り組んでてわかりにくいし、やっと抜けたと思ったら知らない道に出るし!
頼みの地図はというと……。
「……読めん」
手書きというのは全部が手書き。
ジーナに絵心はなかったよ。
幼稚園児の落書きみたいな地図が描かれていて、なんとか予測しながら進んだ結果、俺は迷子になっていた。
なんと情けない。
迷子属性はカナタで十分なのに……。
「どうするかな……」
通りかかる人に道を聞くのがベストか。
だが大きな問題はある。
俺は人見知りなんだ!
今までサラスやカナタが一緒にいたから心の余裕があった。
しかし今は一人。
とても心細くて泣きそうだ。
キョロキョロしていると不審者に間違われるかもしれない。
過去に職質された思い出がリフレインされる。
「あのー」
「は、はい! 何もしてないです!」
「え、な、何が?」
「あ……ごめんなさい。ついあの頃の癖で……」
突然声をかけられて驚いた俺は振り返る。
後ろにいたのは小柄で青い瞳の女の子だった。
いつか旅の途中で出会った女の子と、髪と目の色は似ている。
けれど明らかに違う。
なぜなら……。
「ケモ耳っ娘だ!」
「え?」
「あ、いや失敬、ちょっと驚いただけだ」
「そうですか……お兄さん、ひょっとっして変な人?」
「そ、そんなことないぞ!」
「じー……」
女の子は少し警戒している様子だった。
俺は一回咳ばらいをする。
女の子との話し方なら、カナタたちのおかげで免疫がついていた。
「それで、何か用?」
「あ、えっと、道を知りたくて」
「あー、それだとあまり役に立てないかも。俺もここに来て日が浅いから」
絶賛迷子中だしな。
「ちなみに行きたい場所は?」
「この噴水がある広間なんだけど」
「ああ、ここから知ってるかも」
「本当?」
買い出しの時に何度か通ったことがある。
確か貴族街を出てすぐのところにある噴水だ。
貴族街は王城に近い地域だから、方角的にあちら側か。
「ちょっと歩くけどいいか?」
「え、案内してくれるの?」
「俺もそっち方向に用があるんだ」
「ありがとう。お兄さん、変だけどいい人だね」
変な人は余計だ。
一度、屋敷のほうに戻ったほうがいいだろう。
貴族街にさえ入れば、知っている道にも出るはずだ。
そうじゃなかったら一緒に迷子になってもらおう。
「俺はヒ……タクロウだ。よろしく」
「私はリオン、旅人だよ」
「旅人か。王都には観光?」
「そんなところかな? タクロウは?」
「俺は最近ここに住み始めたんだ」
「へぇ、王都に住めるなんてリッチだね」
王都ってそういう認識なのか?
日本でいうところの東京だし、他と比べて物価が高いのは感じているけど。
今さらだけど、異世界生活一か月と少しで王都に家持ちって、中々の大出世なのでは?
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