第六話 冒険者生活の終わり
どうしてこんなことになったのだろうか
「おい、貴様!聞いているのか」
事はほんの数分前に起きた。
ここ一週間、ずっっと薬草採取をしてなんとか食いつないでいた。
そのお金を貯めてなんとか一週間、宿を取ることができたので今日は休みを満喫していたのだが、そんな私の近くに護衛の騎士っぽいのを連れた太っちょの男が通った。
普通に貴族の人間だろうと思い、そこを離れようとしたのだが見つかってしまった。
そして私を見て一言言った。
「お前、いいな。今夜領主館にこい。ワシが抱いてやろう」
他の人はいいかもしれないが現代人上がりの私は、は?って思うのは当然のこと。もちろん私の返答は
「すみません、お断りさせていただきます。」
そしてこうなったのだ。
「私はここの領主だぞ?逆らえるとでもおもったか?おい、騎士ども、連れていけ」
男がそう言うと護衛の騎士たちが近づいてきた。
「…本気?」
「すまねぇな、だが仕事だから悪く思うなよ」
発言とは裏腹に下卑た笑みを浮かべていた。
「それ以上近づけば命の保証はしないよ。」
一応、警告はするが恐らく従いはしないだろう。
案の定一度止まりはしたが、顔を見合わせたのち、再び近づいてきた。
……仕方ないか
「警告はした。代償は払ってもらう!」
そう言ってアイテムバックから愛用の大剣を取り出し前に出る。
まず最初に踏み込んだ騎士を縦に両断する。
「一人!」
次に慌てて剣を抜いた奴を剣ごと切り裂く。
「二人!」
そこで一度止まり、貴族の男の方を見ると全力で逃げていた。
「逃げられたか…とりあえず逃げないと」
仕方ないとはいえ、貴族の騎士を二人も切ってしまった。
増援を呼ばれても面倒だ。
なので、死体はそのままに剣をしまって宿に戻った。
その夜。
私は宿にこもってこれからのことを考えていた。
物語だったらヒロインを助けるためにとか何とかで貴族に対する犯罪行為もうやむやになっているが、私の場合正当防衛とはいえ、バリバリ自分から切ってるし、その上ここの貴族は一応、対価は払うらしく、めちゃくちゃ評判が悪いわけでもない。つまりは…
「今の私は犯罪者…てこと!?」」
しかも知り合いがいない私では大人しく出頭する以外打つ手なしである。
「どうしようか」
この街をでなければならないことは確定だが一応冒険者ギルドに行って何とか出来ないか聞いて見るか。
それから考えよう。ダメだったら…その時考えよう。
というわけでお休み。
次の日、冒険者ギルドに入ると強い殺気のようなもの、ついでに邪な目線を周囲から感じる。
何なんだろうか、昨日のやらかしがばれるのには早すぎる。
「すみません」
「はっはい何でしょうか!?」
「なんでこんな殺気立ってるの?」
「それは…その」
「答えなさい」
「えっと…昨日領主様と護衛の方々がいらっしゃいまして、竜人らしき女の捕縛、不可能であれば殺害という依頼を出されましてその…特徴に当てはまるのが」
「私ってわけね、納得した」
衛兵隊がまだ来てないのは好都合か。
「で、襲ってこないのはなんで?」
「ギルドの規則でギルド内では戦闘を禁じているからです。なので…」
「外に出た瞬間襲ってくると」
その時、外から声が聞こえた。
「ここに竜人の女はいるか!」
声のした方を見ると衛兵隊らしき人たちがいた。
「もう来たのか」
「貴様には騎士二名殺害の容疑がかかっている。分かっているな?」
ふむ、一応正当防衛だということ訴えてみるか。
「向こうの騎士が先に手を出してきたんだけど?」
「続きは牢で聞かせてもらう。拘束しろ」
「冒険者風情の言うことを聞くつもりはないと?」
「低ランク冒険者と領主様であればどっちが信頼できるか明白だ。」
「なるほど、ね」
チラッと後ろを見て受付嬢がまだいることを確認して言った。
「私のギルドカードはどうなるの?」
「一応、没収という形になります。高ランクの方であれば降格処分後に返却したりするのですがその、低ランクの方なので…」
「資格剝奪、と」
「はい」
私の冒険者暮らしも短かったな、Sランク冒険者になってハーレム生活とはいかないか。
でも、捕まって奴隷落ちなんて非常につまらない。
この世界には奴隷制度があり、奴隷はあらゆる権利がなく解放されなければ一生奴隷のままだ。その上、奴隷の首輪なんてファンタジーの極みみたいなものがあり、着けられると主人の言うことに絶対服従させられたり、主人を害する事ができなくなるらしい。
自分で言うのもなんだが、私はこの世界では恐らくトップクラスの実力だ。そんな私が奴隷になれば、男に抱かれた上に武力装置扱いである。
それは私は嫌なので、やることは一つ。
「では仕方ありませんね…」
アイテムバックから大剣を取り出しながら私は、
「死にたい奴からかかって来なさい。」
と言い放ち一気に走り出す。
冒険者ギルドから抜け出した直後、
「奴を追え!」だの「捕えればいいもん持ってるぞ!」
という声が後ろから聞こえた。
冗談じゃない、捕まってたまるか!
その一心で街中を駆け抜けてついに門までたどり着くと、門番のおっちゃんが話しかけてきた
「なぁ嬢ちゃん、衛兵隊から通達があったんだが竜人の女の冒険者って嬢ちゃんだろ?頼むから抵抗しないで捕まってはくれないか?俺も知り合いを捕えるのは嫌なんだ」
「私の事情も知らずに勝手なこと言わないでください。貴方は私に奴隷になればいいと?」
「そうは言ってないだろう」
「意味は一緒ですよ。というわけでおっちゃんといえど、邪魔するなら斬ります。」
殺気を放ちながらそう言うとおっちゃんは槍を落として道を開けた。
「良い心がけです」
そのまま門を駆け抜ける。
(さよなら、ジリヌスの街)
そう思いながら街を離れ、森の方に歩いていった。
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