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死にたがりのイグリット  作者: 雨野
本編 第2章
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学校生活



 不安だらけの学校生活も、トア達のお陰で普通に過ごせている。

 ただ…あちこちに、かつて私を嘲笑した人がいるから。私の大切な人以外は全て、動く人形だと自分に言い聞かせ。どうにか心の均衡を保っている。



「あの、獣人の皆様は、どうして常にマスクをしていらっしゃるの?去年の方々はそんな事無かった…って先輩が仰ってましたの」


 とある日の休憩時間に、女生徒が私に訊ねる。獣人に声を掛けるのは怖いのか、大体こうやって私を媒介して交流する。

 どうして…正直に言っていいのかしら?と躊躇っていたら、ギリアムが答えた。


「んー。生徒の中に、人間にゃ分からん獣人が嫌う匂いを発してるヤツがいんだよ。学校全体に漂ってて…特定できねぇんだけど。去年いなかったって事は、今年の1年だろうな」

「そうなのですか!?やだ、私平気かしら…!」


 と…彼が上手くぼかして説明してくれて、マスクの件は広まった。ついでにもしかして自分かも!?と怯える生徒は、私達に近付かなくなった。

 生徒間で情報共有をしているのか…トアとギリアムが寮では外しているのに、ジャンヌは自室以外では着けているのも噂され。

 臭いの元は1年生女子…というのまでは特定された。



「もう本当、オアシスは寮の談話室と部屋だけよ!ここにはイグリットのいい匂いが充満してるもの~」


 はは…ジャンヌ。私の枕に顔を埋めるのは…やめて欲しいかな…




 ***




「あ、ユリシーズ。男子は今から体育よね?」

「おう、俺は見学だけどな」


 女子は音楽なのだけれど、必須ではない。半数程は男子の見学に行く…私とジャンヌもね。

 廊下を歩くユリシーズを発見したので、一緒に運動場へ向かう。


 ユリシーズは心なしか、顔色が悪いような…

 不安になり、杖を持っていないほうの腕を組んだ。


「これ浮気にならないか…?トアに睨まれそう」

「平気よ、トアも知ってるし。ジャンヌもいるから、変に誤解するお馬鹿な人もいないわ」


 トアは珍しく、ユリシーズに関しては何も言わない。看護だって認識しているのかしら?



「あら、やあねえイグリットったら。旦那がいるとか言って、ユリシーズにも色目使って!尻軽って言うのかしら、はしたなーい」

「「「……………」」」


 いた。変に誤解するお馬鹿が。

 わざわざ手下を連れて廊下を塞いで…アウロラはこうやって、度々私に突っかかってくるのだ…



「いや貴女のお尻は重すぎるわよ。軽さで言うなら、イグリットを見習うべきよ?」

「な…っ!!」


 それもまあ、ジャンヌにこうやって言い負かされている。容姿を茶化すのは良くないけれど…毎回上手いこと言うから、つい感心してしまうのよ。

 手下も堪えきれず小さく吹き出し、アウロラに睨まれて慌てて取り繕っている。


「ふんっ!!!」


 アウロラは、ドスドス足音を轟かせながらその場を離れる。何しに来たのよ…

 テオフィルが私を一瞥したけれど、足取り重くアウロラを追った。よし、もう忘れよう。




「あっ、いたわトア!」


 男子は今からサッカーみたい。獣人の2人はバランスを取る為別チームね。当然私はトアの応援!


「ふふ、トアなんてギリアムがやっつけちゃうんだから!」

「む!負けないわよ〜…!トア、頑張ってー!」


 ユリシーズ、私、ジャンヌの並びでベンチに座り。頑張れー!と声を出す。


「見ろよレア。負けねえぞ!」

「トアだからね。僕はイグリットの応援があれば、最強なんだから!」


 お、2人は火花を散らしているわ。


「……………」


 日傘を差しているユリシーズが…穏やかに微笑んでいる。その視線の先は私。少し…照れるじゃない。

 それを誤魔化す為、応援に集中する。



「ボールいただきっ!」

「あっ!」


「あー!」

「やったぁギリアムっ!そのままゴールよーっ!!」


 トアがボールを奪われ…ゴール!あー、先制点取られたー!!

 それからも一進一退のゲームが進み、授業の残り時間は5分!トアチームが負けてる…!


「ふふ、イグリット。どうやらギリアムの勝ちみたいね!」

「ぬぬぅ…!」


 もちろんギリアムも大切な友達だけど。悔しいい!!

 ……よし、ここは…!



「頑張って!その…あなたっ!!」

「………………」


 結局恥ずかしくて、あまり使わない呼称だけど。あなたー、ファイトッ♡

 一瞬動きが止まったトアだけど…目に炎が宿った!!


「うおおおおおっ!!!」

「何いっ!?やるじゃねえか、トワ…!」

「愛する妻の前で、僕は負けないっ!!!それとトアだから!!」


「きゃーーーっ!あなたっ、格好いいー!!」

「ギリアムーーーっ!!しっかりしなさいっ!!」


 きゃあ、きゃあっ!サッカーのルールはよく分からないけど、トアは敵をどんどん抜いていくわっ!ギリアムも抜け…ゴール!!


 ゴールの度に、女子の歓声が上がる。中には…大はしゃぎする私を驚きの目で見る生徒もいる。

 だって私、人間相手(ユリシーズ除く)には無表情で無感情だもの。演技じゃなくて、どっちも私の素顔よ。

 だから、他人にどう思われても構わないわ。



 それにしても…これで同点ね。さあ…勝つのはどっち!?


「ふ…ギリアム。勝たせてもらうよ!」

「やってみろ…!オレは勝って、ジャンヌにキスしてもらう!!」


「え?ちょ…何決めてんのよっ!?」


 あら、ジャンヌ顔真っ赤。…まさか。


「貴女達…最初以外キスしてないの?」

「…………」こくん


 あら…あらら…?やだわ、私のお節介スイッチが入っちゃった♡



「ギリアム頑張ってー!!!」


「え、オレ?」

「イグリットーーー!?僕の応援はっ!?」


 ごめん、今だけ私はギリアムの味方!するとジャンヌも声を張り上げる!


「トア、負けんじゃないわよっ!!」


「なんで応援が入れ替わってるの…?」

「さあ…?」


 けれど…応援も虚しく、鐘が鳴る。結局同点かー…残念。


「もうっ、イグリットったら!」

「ごめんなさーい」

「心込めなさいよっ!」


 ジャンヌは怒ってる顔も可愛いわね。っと…騒がしかったかしら。


「ユリシーズ、うるさくてごめんね」

「何謝ってるんだ?お前の生き生きする姿を見れて、俺も元気を貰ったよ」


 そう…なの…?

 もしそれが本当なら。いくらでも…元気を分けてあげたいのに…




 ***




 今度は女子の体育の時間!ただし男子の見学は禁止なのでいません。


「女子はテニスですって。ジャンヌ、勝負しない?」

「あら?手加減しないわよ!」

「ふふ、私だって短期決戦なら負けないわ。それに球技は繊細なのよ、力技だけじゃ勝てないわ」

「言うじゃない!」


 更衣室で着替えながら、談笑していたら。



「はあ、はあ、ふはぁー…」

「「……………」」


 後ろから…荒い呼吸が聞こえる。犯人はアウロラ…なんで着替えだけで息切れてるのよ。着替え(それ)だって付き人に手伝ってもらってたのに…



 体を温める為、運動場を1周。軽く終わらせると…


「げほっ、ぜ…ぜひゅ…っ」

「「……………」」


 アウロラが息も絶え絶え…令嬢達も苦笑いだわ…



「ねえ…あのお2人、腹違いの姉妹なのでしょう?」

「ええ。だというのに…ねえ?」

「どうしてああなってしまったのか…」


 聞こえてるわよ、そこの陰口。入学して半月…こうして私とアウロラを比較するような声をしょっ中耳にする。

 全て私を持ち上げ、アウロラを下げるものだけど。なんと言うのか…幸せを自慢する気はあっても、復讐するつもりは無かったのに。向こうが勝手に転落しているような…



「あ…イグリット…」

「……………」


 先生に発表された組み合わせは…私VS王女殿下。

 別に…相手が誰でもいいわ。さっさとコートに立ち、殿下のサーブでゲームが始まる。


「…行くわよ!」

「…どうぞ」


 ひゅっ… ばしっ!


「!」


 速い…なんのっ!


「………!」

「……く…!」


 パコン バシッ! パンッ


 殿下…上手い!負けるか…!


「…そいや!」

「えーい!」

「おりゃーっ!!」

「やあっ!!」


 なんだろう、汗を流しているからか…心が穏やかになっていく。

 こんな風に殿下と競うの…何年振りかしら?確執も忘れ…ただただ、1つのボールを打ち合う。



「あっ!」

「やったあ!!私の勝ちね、ルーシャ!!」

「ぐぐ…!次は負けないわ、イグリット!!」


 ふふん、次だって負けないわ!


「「……あ」」


 私今、なんて?まるで昔のように…ルーシャと…



「……っ!!」

「あ、イグリット!?」



 違う…違う違う違う違う違う!!!

 私はラケットを叩き付け、運動場から逃げた。ジャンヌが追い掛けて来る…彼女に構う余裕もなく、トイレに駆け込んだ。



「う…!げほっ、おえ…」



 気持ち悪い…自分が気持ち悪い!!!全てを吐き出し、フラフラと個室を出ると…ジャンヌが涙目で立っていた。


「イグリット、酷い顔色よ!今日はもう帰りましょう」

「…あり、がと…」


 ふわりと私の身体が浮く、ジャンヌに横抱きにされているんだわ。

 私のほうが重いだろうに、獣人ってすごい。軽やかに走って、部屋まで連れて行ってくれた。



「私、トア達に報告とカバン取ってくるわ。寝ててね!」

「ごめん…」


 パタン たたた…



 部屋に静寂が訪れる。私は…さっきの私は。



 あろう事か、ルーシャをかつての親友のように錯覚した。



「馬鹿ね…イグリット。彼女が私に何をしたのか、忘れてないでしょうね…!?」


 そうよ、彼女は悪魔のような女なのよ。だけど…


「それは…()()ルーシャじゃないわ。あのルーシャは、何もしてないもの…」


 違う!!!同じルーシャよ、同じ場面なら間違いなく私を貶めるのがルーシャという女なのよ!!


「分かってる…分かってるわよ…」



 私は…弱い。

 彼女を許せないのに…心底恨む事もできない。

 ああ、いっそ。彼女が私を憎んでくれていれば、よかったのに。



 私はもう、自分の心も分からなくなってしまって。

 ただひたすらに、涙を流し続けた。


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