表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮都市の小さな鑑定屋さん。出張中です。  作者: ジン ロック
ミラノ編
58/64

第四十三話 ミラノ2

少し早めに️スフォルツェスコ宮殿に戻ります。




玄関エントランスホールで、ニコの弟ステファノ君と、お付きのメイドさんに出会います。


トテトテとかけ寄ってきます。

僕の顔をジ〜と見つめます。


「トキンお兄ちゃん、お庭いこ」


僕は嬉しくってにっこり言います。


「お庭を案内してくれるの?すぐ行こう」


「スティがなつくなんてビックリだわ。じゃあトキン、その間エリーゼさんと部屋でお話しててもいいかしら」


「僕は大丈夫だけど、エリーゼは?」


「はい、私も問題ありません」


「じゃあ、二人ともあとでね」


お庭探索へ出かけます。

お付きのメイドさんに抱っこされた、ステファノ君が庭園の端を指さします。


ミラノ侯爵家、園丁達の、丁寧な仕事が伺える花壇を横に見ながら、小さな木造の小屋の前に着きます。


ステファノ君が抱っこから降りて、また僕をジ〜と見つめます。


「トキンお兄ちゃん、ここ秘密のばしょ」


「そうなの?」


ステファノ君が僕の質問に頷きながら、小屋の扉をそっと開けてしゃがみ込みます。

お付きのメイドさんが扉を支えます。


扉の先は薄暗い外用のトイレです。

ステファノ君は、僕にもしゃがむよう手招きします。

言われた通り、ステファノ君の横にしゃがみます。


ステファノ君が、黙ってトイレの左奥を指さします。


僕は目を細め、指さされた薄暗い角に注目します。


そして、ハッとします。

あの猫背のフォルム、そして人間に観られても一切動じない強メンタル。

間違いないです。本物を初めて目にします。

声をひそめて耳打ちします。


「ステファノ君、あれは便所蟋蟀カマドウマだね」


「うん。メスのジュリエッタ。あと僕はスティ」


そう言ってステファノ君は立ち上がり、もう一つ隣の扉を開けます。

お付きのメイドさんが扉を支えます。


ステファノ君は、三度みたび僕をジ〜と見つめます。


「トキンお兄ちゃん、見つけてみて」


と言ってステファノ君は、数歩後ろに下がり、僕に超一等地を明け渡します。


僕は静かに頷き、トイレの前でしゃがみ込みます。


これは挑戦状です。

僕はステファノ君に試されているのです。


お前は本物なのか?と・・・



静かに深呼吸して、意識を研ぎ澄ませます。

便所蟋蟀カマドウマは、あまり動きがないと図鑑でも解説されています。

照明をつけてない薄暗いトイレの中で、事前情報なしに目で見つけるのは至難の業です。


だから僕はそっと目をとじます。

便所蟋蟀カマドウマの魂の鼓動を探ります。


どれだけの時が流れたのでしょうか・・・


僕は静かに目を開けて、右奥角から手前に20センチほどの暗がりを指さします。

そして、言います。


「スティ、そこに居る」


ステファノ君が、トイレを覗き込み、僕が指さす地点を確認します。


息を呑む気配がします。


「うん。あのこはオスのロメオ」


ふぅ~、と息を吐きだして、改めて確認します。

薄ぼんやりとフォルムが確認できます。

先程の個体より、一回り小さい便所蟋蟀カマドウマです。


またステファノ君が、僕をジ〜と見つめます。

僕に両手を伸ばし、そしてにっこり言います。


「トキンお兄ちゃん、抱っこして」


僕はにっこり頷き、ステファノ君を抱きあげます。

お付きのメイドさんが、右手を口にあてハッっと息を呑みます。


ステファノ君と二人で、やりきった感を出して玄関エントランスホールへ向かいます。


抱っこしたまま、宮殿に帰った僕を見かけ、ミラノ侯爵が顔をひきつらせます。


ミラノ侯爵が言います。


「おお、トキン君、帰っていたか。それにしても、よくスティが抱っこさせたね。正直驚いたよ、いったいどんな魔法を使ったのかな」


僕はにっこりこたえます。


「虫スキーには、国境も壁もありませんから」


「そ、そうか。うん、トキン君がそういうなら、そうなんだろう。そうに違いない。さあ、食事にしよう。先に席についていてくれたまえ」


ミラノ侯爵に促され、大きな食堂に入り、ステファノ君と隣り合わせで着席します。


通路から、ステファノ君お付きのメイドさんらしき声が聞こえます。

「既に愛称のスティ呼びを許可されています」

「全ての試練を突破されました」

などと聞こえてきます。



ニコが、大食堂に入ってきます。

僕の隣の席に腰掛けます。


「トキン、お待たせ。エリーゼさん達は、もう別室で食事中だから心配しないで」


「わかった、ありがとう」


ミラノ侯爵夫妻も席につき、5人で食事と会話を楽しみます。

ニコが明日の観光予定を教えてくれます。



食事を終え、ティータイムです。

紅茶を飲みながら、会話を続けます。


隣に座るステファノ君が、僕をジ〜と見つめます。


「どうしたの?スティ」


「トキンお兄ちゃん、そのカエルほしぃ」


椅子にかけていた、カエルのリュックを指さします。


「う〜〜ん、困ったな〜。このカエル君はね、荷物の重さを半分にしてくれる魔法のリュックなんだ。僕と一緒に旅をしてきたとても大切な友達なんだ。だから僕も離れるのは寂しいんだ」


チラリとステファノ君をみます。

少し悲しそうな表情です。

紅茶を一口飲んで続けます。


「でもスティが、習い事を頑張る良い子になると約束してくれるなら、特別にプレゼントしようと思うけど、どうかな?」


「うん、良い子になる」


「わかった、プレゼントするよ。特別だからね」


ステファノ君が、にっこりの笑顔をみせます。


僕は座っていた椅子の後ろに回り込みます。

カエルの口を開けて、

【黒王ミノタウロスの胃袋】

空間×10000% 重量-100%

を取り出します。

中身を全て移します。


横に立って、その様子を見守るステファノ君の背中に、カエルのリュックを背負わせます。


「トキンお兄ちゃん、ありがとぅ」


僕はにっこり頷いて、ステファノ君を撫でなでします。


ステファノ君が、膝をまげて両足を揃え、ぴょんぴょん飛び跳ねます。


ニコが笑顔で言います。


「ステイがここまで懐くなんて、トキンは天性の人たらしね」


僕はにっこりでこたえます。


「ニコ、僕は褒められてるのかな」


「もちろん、褒めてるわ。大絶賛よ」


大食堂に笑い声があがります。




「失礼します」と執事さんが入ってきます。


「トリノ辺境伯から早馬が到着しました」とミラノ侯爵に羊皮紙を手渡します。


「失礼して、ここで読ませてもらうよ」


と皆に声をかけて、手紙を読み始めます。


「そこまで深刻な知らせではなかったよ。ただやる事ができた、ティータイムはここで抜けさせてもらうよ。トキン君、二人で話したい。すまないが執務室まで一緒に来てくれるかな」


「はい、お義父さま」


少しだけ緊張しながら、大食堂を後にします。


〜〜〜


「トキン君、楽にしてくれたまえ」


「はい、ありがとうございます」


僕はソファに腰掛けます。


「隣国が国境付近に、兵を集めているのは知っているね」


「はい」


「その兵の数が、約五千に倍増したそうだ。さらに国境であるアルプス山脈の峰を目指して行軍の動き有り。との報告が入った」


「相手は本気なのでしょうか」


「いや、そうは思えない。五千ごときでは、トリノの要塞を突破できない」


「では、やはり隣国は陽動で、南のフィレンツ侯爵派が動きをみせるのでしょうか」


「それが全くその気配が無いのだ。今日の報告でも兵糧をかき集める素振りすらないらしい。そもそも、フィレンツが動きを見せれば、我々は圧倒的兵力差で制圧できる。それは相手も理解している」


「では何のために・・」


「そこが我々も悩むところだ。この隣国の意図が読めない怖さがある。トキン君、来てくれたばかりだが、念のため早めにミラノ街を出て、シェーナ街に向かった方がいいかもしれん」


「はい、わかりました」


僕は頷きながら考えます。

敵対するフィレンツ侯爵派閥に兵を動かす気配はないと言います。

でも隣国は陽動作戦を実行しています。

なにか意図があるはずです。

僕は僅かな可能性を探ります。


「お義父さま、教えて下さい。ミラノ市街地にダンジョンはありますか」


「ダンジョン?いや市街地にはないがダンジョンがどうかしたのかね」


僕は頷きます。


「お義父さま、まだ証拠はありませんが、シェーナ街の魔物襲来事件は人為的に起こされた可能性があります」


「なんと!トキン君はなぜそう思うのかな」


「僕はずっと考えていました。なぜダンジョンから魔物が溢れたのか?なぜ魔物は森の中で留まらなかったのか?なぜ魔物はまっすぐシェーナ街を目指したのか?」


ミラノ侯爵が頷きます。


「その三つの疑問に答えてくれる、僅かな可能性に出会いました。それがこの二つの指輪です」


僕はテーブルの上に指輪を置きます。


「この指輪は魔物襲来事件の数日前に、迷宮ダンジョンの上層階と、シェーナ街のカンポ広場で発見されたものです。二つとも呪われた状態で冒険者が見つけ、僕が引き取りました」


「この指輪は呪われてるのかね」


「いえ、既に呪いは解除できています。ですが、この指輪に刻まれた文字は、呪術に用いられた古代文字の可能性があります。今、ボローニャ大学の専門家に解読をお願いしている最中です」


ミラノ侯爵が腕を組み、目を閉じて思案します。


「なるほど、呪術を使って誘導した可能性か。確かにその話なら辻褄が合うともいえる。隣国は陽動のみ。フィレンツは動かない。何故か?代わりに魔物を動かす。そうか、うむ、面白い読み筋だ。ただし確証がないため、解読を待っている。ということかなトキン君」


「はい、そうです。それに、この指輪をいくつも用意できるのか。という疑問も残ります」


「わかった。では私とトリノ辺境伯が注意すべきは、隣国とフィレンツ派に加え、念のためダンジョン、それと古代文字の指輪か。よく話してくれたねトキン君、感謝するよ」


僕はにっこり頷きます。


「それと、お義父さま。もう一つお話いいでしょうか」


「もちろんいいとも。何でも言ってくれたまえ」


「可能性の話はお伝えしましたが、まだ敵方の動きが読めないのは事実です。だから明日にはシェーナ街に向けて出発しようと思います。それでご相談があります。ニコを一緒に連れて行ってもいいでしょうか」


「なんと!う〜む、どうしたものか。ではこのあとレベッカとニコーレに話をしておこう。今夜中に返事をさせる。それでいいかな」


「はい、ありがとうございます。それとお義父さま、昨夜はお渡しするタイミングを掴めず、渡しそびれてしまいました、お土産の赤ワインです」


「おお、なんと!モンタルチーノ産のブルネッロじゃないか。ここミラノでは、なかなか手に入らないからね。感謝するよ、トキン君」


僕はペコリとお辞儀して、執務室をあとにします。



〜〜〜




僕は客室に戻ります。

机に向かって読書していた、エリーゼと目があいます。


「おかえりなさいませ、トキン様」


と言って、スッと立ち上がり、僕のバッグを受取ります。


「うん、ただいま。急だけど、明日ミラノをたつことになったよ。時間はまだ決めてないけどね」


「はい、わかりました」


エリーゼがニコリの笑顔で頷きます。


「トリノ辺境伯からの連絡で、隣国の動きが加速してるみたい。あとひょっとしたら、ニコも一緒に行くかも」


「そうでしたか。ではトツカーナ伯爵領のシェーナ街に向かう、ということですか」


「うん。一度シェーナに返って、皆んなにも会いたいしね。エリーゼもエリザとアンナに会えるよ」


「はい、そうですね。でも私は、妹といとこに会うこと以上に、サーラ料理長が作る、パンナコッタが楽しみです」


「ははは、僕もだよ」


コン、コンッ♪


部屋付きのメイドさんが入ってきます。


「失礼します。トキン様、ニコーレお嬢様が、お部屋でお待ちしております」


「エリーゼ、行ってくるね」


「はい、行ってらっしゃいませ」

誤字報告ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ